第08話 作戦実行記録(下)

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一日目

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 我々戦闘部隊は、予定通りに人間の領地へ足を踏み入れることに成功した。しかし、随分と足並みはバラバラだった。一人は神獣を探しに行き、戻ってこなければ気にするなと言い残して行ってしまった。あいつの闇魔法は相当に強力なので対人戦で発揮して欲しかったのだが仕方がない。

 残りの者たちは王族を攫うというそれらしき理由を持つ者に賛成し、同行することにした。正直な話、俺を含めた我々の大半の者は人間と戦ってみたいだけである。魔族である俺たちの実力がどこまで通用するか楽しみだ。

 楽しみのあまり、二か月後の帰還を忘れないようにしなくては。




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二日目

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 手始めに人間の集落を一つ襲ってみた。これが驚くほどに脆く、簡単に全滅させることが出来た。恐らくだが、我々の強襲はおろか、魔物の対策も碌にしていないのだろう。よくよく見渡してみれば、そこらにいる魔物は戦闘が出来ない雑魚ばかり。従わせたいとも思わないレベルのモノばかりだった。

 なにはともあれ、集落を襲ったことにより食料は確保できた。全員で分けたためさほど量はなかったが、この程度の労力で集落一つ全滅させられるのならこれから先も苦労はしないだろう。




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十日目

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 俺たちは適当な集落を襲いながら、少しずつではあるが人間の領地を蹂躙していった。そして、つい先ほど皆殺しにした集落でとある情報を入手した。少し離れた場所に大きな街があることと、二十日後にその場所を国王の娘が訪ねてくるというのだ。国王の娘というほどである、その警備も相当なものだろう。これは久方ぶりに腕が鳴る。




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二十五日目

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 周辺の集落を適当に強襲し、大量の食糧を得た。残りの五日は敵情視察をするために、例の街付近に潜伏することにした。そして、どうやら人間も俺たち魔族と同じ状況にあるらしいことが分かった。街の門番がのんびり欠伸をしているあたり、間違いない。結局のところ、緊張感をもって戦っているのは砦で交戦している連中だけなのだ。

 そんな人間を離れた所から観察していたはずなのだが、気が付けば殺していた。戦闘狂と呼ばれる自分が、隙だらけの武器を持った兵士を殺したいという衝動を抑えられなかっただけの話である。無論、それを見て俺の後ろにいた連中はさほど驚いた表情はしていない。寧ろどこか楽しげである。

 門番を殺してしまったのだから仕方ない。そう思って、俺たちは門をくぐって街の中へと入っていった。




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四十日目

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 中々手強かった。が、まさか一人の死傷者も出ないとは思わなかった。姫の護衛というだけで期待しすぎたのかもしれない。元より、俺たち魔族は人間よりも個人の能力が上とされている。今回は相手の人数よりもこちらの人数の方が多かったのだったから仕方のないことかもしれない。

 さて、これで人間の姫を手に入れた。しかしこの姫、まだ幼いせいか喚き散らしてうるさかった。せっかくの魔王様への土産を殺そうとする同族を押さえるので大変だった。




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四十五日目

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 うるさかった人間の姫は静かになった。というのも、俺たちの中にスキル呪術を扱える者がいたのだ。そいつらに頼んだ結果、随分とぎこちない動きで一日かけて人間の姫に呪術を行使してようやく口をふさぐことに成功した。呪術は初心者が適当に掛けたものは意外と解くのが難しいと聞いたことがある。何か意図を持って組み立てられたものよりも、適当に組み立てた方が解体するのが困難という話だ。スキルを使っていた同族の姿を見た限り、この姫に掛けられた呪術はもう解けない気がしてならない。




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五十日目

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 人間が俺たちを追ってきていることに気が付いた。恐らくだが、街を襲撃したのを遠目に見て察したのだろう。戦闘に夢中で今まで気にしていなかったが、こいつが乗っていた馬車は引き返そうとしていた。差し詰め、危機察知の出来る者がもしもの時に備えて早馬でも出して大元に報告していた、と言ったところだろう。

 まあ、そんなことはどうでもいい。これで手ごたえのある奴と戦えそうだ。……と、言いたいところだが数的不利が過ぎる。だが戦いたい。

 そう思った俺たちは姫を目の届くところに隠しつつ、少数になった兵士たちを襲っていった。俺たちから急襲したせいか、犠牲はあったもののかなり有利に戦えた。姫という立場だけあって本腰を入れたのか、ここらにいる人間は本物だった。中々に面白い戦いをしてくれる。

 とあるガキ二人組に会うまで、俺たちは戦闘を楽しんだ。




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五十五日目

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 あの二人組はやばい。一人は斬撃を飛ばしてくるガキ。もう一人はやけに頭の切れるガキだ。

 前者は正面から切り合えばまだ・・脅威と呼べるほどではない。だが、あいつは俺に勝てないことを理解した上で、自分が勝てるように考えて立ちまわってきやがった。スキルの性能も相まって相当に鬱陶うっとうしかった。恐らく天賦の才だけではなく、それなりの経験も積んでいるのだろう。明らかに動きが素人のそれではなかった。

 後者は援護が主だったが一瞬で距離を詰めてくるスキルでスキを突いてくる。こっちも相当数いたはずなのに、対した奴だ。周りが良く見えてやがる。恐らく司令塔だろう、それも自分も戦えるタイプの。あぁいうタイプが一番やばい。自分の存在の重要性を知りながら立ち回り、いざとなったら近接戦ができ、離脱する術もある。

 あの二人がいなければせっかく攫った娘を手放すことも、仲間を失うことも無かっただろう。

 仲間の数もかなり減り、約束の時も近かったため撤退することを余儀なくされた。




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六十日目

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 我々は魔族の領地へと帰還するために岩山に向かて飛び立った。多少疲労はしていたものの、このぐらいなら問題ない。

 結局、神獣がどうこう言っていた奴は戻ってこなかった。生きているのかさえ分からない。

 それよりも気にするべくは、俺たちのこれを成果と呼べるのかどうかである。仲間と引き換えに多くの人間を殺したが、それがプラスマイナスのどちらに働くかの判別は出来ない。俺に分かるのは姫を攫った後に戦った相手がそれなりの手練れだったことだけである。そういえば姫に掛けた呪術、あれは成果に入るのだろうか。

 まあいい。何はともあれ、俺たちはありのままを魔王様に報告するだけである。その際には魔王様にお礼を述べよう。「お陰様で楽しい時間が過ごせました」と。

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