第10話 新しい仲間

 ディルバール家にてプレスチアの訓練を続けた数日後、ソラ達はルバルドによる召集で訓練場へと集まっていた。他の訓練をしている兵士も含めて集められていた。ルバルドが朝礼台のようなものに乗り、声を張り上げる。



「知っている者がほとんどだと思うが、諸君らには近いうちに実践として魔物との戦闘を行ってもらう。そのためのパーティーを本日決定する」



 知らないのは自分だけなのだろうか。そう思ったソラが周りを見渡すと、ルバルドの話を聞いて驚いている者はいなかった。もうそんな時期になるのか、誰とパーティーを組みたいと思っていた、と言った会話で周りは活気づいている。



「尚、今回は近距離戦を主とする諸君らだけでなく、遠距離戦が出来るスキルを持っている者も含めてパーティーを組んでもらう。メンバーは俺とスフレア副兵士長で相性を吟味したうえで決める事とする」





「パリスとライムで助かったよ。僕、知らない人が相手だったらスキル使えないから」



 そんなソラの言葉を受けて、ライムが考える素振りを見せながら口を開く。



「それを考えてのこのメンバーじゃないかな? ルバルド兵士長は事情を知っているだろうし」



 このライムの推測は当たっており、プレスチアからの助言も考慮した上でルバルドとスフレアが決めていた。



「となると、あと一人は向こうの兵舎の人間か。一応ソラのスキルは伏せておくがいいか、ソラ、ライム」



 基本的に四人一組とされているため、残りは一人。バランスを取るだろうことを考慮すれば、近接戦の3人がいる時点で残りの一人は遠距離戦が出来る人間ということがほぼ確定する。



「僕としてはそうしてもらえると助かるよ」


「僕もパリスの意見に賛成だよ」


「ソラのことを考えると、ルノウ大臣一派の兵士とかでなければいいんだけど……」


「え、兵士にも貴族の一派とか関係あるの?」



 そんなソラに、パリスが説明をする。



「兵士は大きく分けて三つのどこかに所属する。一つは王族。カリア姫に常に付いている兵士とかだね。後は王族が動くときに護衛に付くルバルド兵士長やスフレア副兵士長も当てはまるかな。これは正確には所属と言うよりも、どこにも所属していないと言った方が正しい」


「どこにも所属していない?」


「残りの二つは父上のディルバール家と、ルノウ大臣のゴディブル家の一派に分かれるんだ。三つと言っても全て国に所属しているから、王族に付いている人たちはどこかに所属しているというのはおかしいだろう?」


「確かに。それで、その二つに属していると違いがあるの?」


「命令権が父上にあるかルノウ大臣にあるかの違いと、派遣される地域の違いかな。命令権はその上に王族があるから実質ブライ陛下の命令が絶対なんだ。地域は父上の一派が治めている地域と、ルノウ大臣の一派が治めている地域が別だから……」


「あぁ、なるほど。確か、地域別に貴族が治めているんだっけ。僕のいた村は本当に辺境過ぎて貴族の領土にある、なんて話聞いたことないけど」


「そうだね。貴族が治めることになるのは税を納める余裕がある地域だけだから」



 その言葉にソラは納得する。ソラのいた村は本当に自給自足するだけで精いっぱいだったからだ。

 そんな会話をしていたソラ達の元へ、スフレアに連れられて一人の少女が現れた。肩より少し下まで伸びた奇麗な金髪に、赤い瞳。そして、その特徴と顔立ちは誰かの面影があった。



「お久しぶりです、お兄様」


「レ、レシア……」


「「お兄様⁉」」



 そんなやり取りを聞いた二人は、目が点になっていた。

 先に我に返ったのはソラの方だった。



「えっと……パリス?」


「あぁ、この子は――」


「私はディルバール家の長女、レシアです。お兄様の将来の婚約者ですっ!」



 レシアは頬を赤らめながらそう言った。



「レシア、ちょっと待――ソラ、ライム、距離を取らないでくれ! これは違うんだ、勘違いだ!」


「何がですか、お兄様? きっとあの方たちには理解できていないのでしょう。私たちの兄弟愛が」



 続けて、レシアは目に強い意志を宿してソラとライムに語り始めた。その隙間でパリスが口を挟む。



「私が生まれた時からお兄様と一緒でした」


((兄妹ならそれが普通なんじゃないかな))


「私はお兄様と一緒にお風呂も入ったことがあります」


((兄妹ならそういうこともあるんじゃないかな。いないから知らないけど))


「私はお兄様が大好きですっ!」


((まぁ、兄想いのいい妹なのかな?))


「そして、お兄様も私のことが大好きですっ!」


((妹想いのいい兄?))


「だから結婚するのは自然な流れなのです!」


((……?))



 ソラとライムは、語りつくしてこぶしを握り締め、達成感に浸っているレシアから少し距離を取り、聞こえない声量で言葉を交わした。



「ライム、僕兄妹いないから知らないんだけどさ、あれって普通なの? 王都の兄妹ってっみんなこんな感じなの?」


「僕の知っている限りでも違うと思うよ。多分、この子がちょっと特殊と言うか――」



 そんな会話に突然パリスが入り込む。



「最初は娘が父親と結婚したい、みたいなものだと思っていたんだ」



 どこからともなく現れたパリスに、ライムが徐に口を開いた。



「パリス、どこ行ってたんだ?」


「ルバルド兵士長にちょっとした談判をしに行ってた」



 失敗したんだけどねとパリスは悲しげに付け足した。



「でも、この年になってもずっとあんなこと言ってて……。どうしようって両親に相談したら――」


”私は別にいいと思うぞ。パリスとレシアがそんな関係になっても迎え入れよう”


”それならば私の可愛い子供たちの婚約相手に頭を悩ます必要はなさそうですわね”


「って……」



 そう言いながら落ち込むパリスの方にソラとライムは手を置いた。



「「おめでとう」」


「ねぇ、二人とも。もしかして冗談だとか思ってやしないかい? 本気で困っているんだよ?」


「お兄様たち、何を話しているのですか?」


「あぁ、いや、何でもないんだ」


「それで、リーダーはどうするのですか? 私はお兄様がいいと思うのですけれど……」



 その話が出て、ソラは申し訳なさそうに口を挟んだ。



「僕、実践の事とか何も聞かされてないから説明してもらえるとありがたいんだけど……」



 そんなソラに、三人は説明を始めた。

 訓練兵は一定の期間を過ごすと、実戦と呼ばれる外に出て魔物と戦う訓練を行う。ソラの場合は訓練に入るタイミングが悪かったのと、もともと剣の筋が良かったためにルバルドの判断で一人だけ兵舎での訓練の経験が少ないままに参加することになっていた。その実践では4人一組のパーティーを組み、戦闘に当たる。そして、それに選ばれたのがソラ、ライム、パリス、レシアの4人であった。



「なるほど。それで、リーダーって言うのは?」


「その名の通り、チームを纏め上げる役割の者を言います。実戦経験はみんな同じなので、大抵の場合は一番実力のある方がやることが多いのです」



 そんな言葉に、ライムとパリスがソラの方をちらりと見たが、ソラは首を横に振った。ソラはスキルを人前で使えない。そうなれば、触れれば消せるという効果しか使えない。それだけでも十分強力ではあるのだが。ちなみに、ソラが周囲5メートルの感知が出来ることは誰も知らない。

 それを察した二人はため息を吐いた。そして、パリスが口を開く。



「じゃあ、僕がリーダーをやらせてもらうのでいいかな?」


「異議なしです、お兄様」


「「同じく」」



 4人は顔合わせもほどほどに、その日から連携を中心とした訓練を開始した。

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