第07話 武器

 スフレアはいつもより早い時間に準備を済ませ、ソラの部屋へと向かう。まだ国によるソラの扱いは特段決まっていないため、ソラには今日一日兵士として過ごしてもらう予定だった。きっとまだ起きていないだろう。そう思ってソラの部屋へと向かったスフレアは驚く。



(あれは確かカリア姫の……)



 ソラの部屋の扉の左右には二人の兵士が立っていた。

 不思議に思ったスフレアはその二人の兵士に声を掛ける。



「おはようございます。ここで何をしているのですか?」


「おはようございます、スフレア副兵士長」


「ご存知の通り、私たちはカリア姫の護衛ですので、その仕事です」



 その言葉でスフレアは扉の中にカリア姫がいることを理解する。王族の朝も早く、カリアは普段ならこの時間、家族3人で食事をしているはずだった。



「えっと、……開けない方がいいんでしょうか?」


「いえ、カリア姫も本日ソラ様が朝早くから訓練に出るのはご存知ですので、問題ないと思います」


(そういえば、昨夜ソラと別れてからルバルド兵士長に色々と兵士の話を聞いていましたね。そういうことでしたか)



 スフレアは悪いとは思いながら、そういうことならと扉を開けた。そこには、ベッドに二人で腰掛け、楽し気にソラに話しかけるカリア姫と、緊張気味にそれに答えるソラの姿があった。



「スフレア副兵士長、おはようございます」


「おはようございます、ソラ。それにカリア姫も」


「おはようございます。訓練の時間まではもう少しあるはずですが……」



 なぜカリアがそんなことを知っているのか。そんな疑問がソラの頭をよぎったが、口には出さなかった。

 丁度その時、耳がキーンとなるような鐘の音が辺りに響いた。これは兵舎で時刻を知らせる合図で、今のは起床のためのものだ。

 スフレアはその音を聞きながら、カリア姫の横にあるバスケットに目をやる。



「食事は済ましているようですね。次にこの鐘の音が鳴ったら昨夜案内した訓練場に来てください。鐘の音がなるタイミングと理由はまた後で説明しますね」


「分かりました」



 そう言ってその場を後にしたスフレアは食堂へと向かった。待っていたルバルドは、ソラと一緒に来るはずだったスフレアが一人で来たことに疑問を持つ。



「ソラはどうした?」


「部屋にはいたのですが――」



 スフレアは自分が見た景色をルバルドに簡単に説明した。



「それは邪魔出来んな。朝食は二人で食べることにするか」


「そうですね」



 ルバルドとスフレアは、自分の分の朝食を貰って向かいの席に着いた。



「ルバルド兵士長はどう思いますか?」


「何がだ?」


「他の貴族の反応です。カリア姫に婿入りしたい者はいくらでもいるでしょうし……」


「ましてや呪いも解けたことだしな。だが、あのブライ陛下がカリア姫の望まない相手と婚約させるようなことはしないと思うが……」



 カリアはその呪い故に権力のある立場には付かないだろうと思われていた。だが、今のカリアはその呪いが解けている。静かにしていた貴族も出しゃばってくる。その図はルバルドでなくとも容易に想像できるものだった。

 また、カリアには兄がいて陛下の後は彼が継ぐと昔から言われているが、それでもその妹となると権力も決して小さいものではない。何より、王家の血筋に入れるというのはそれだけで権力を得られることに違いない。



「それは確かにそうですね。私たちは見守るぐらいで良いかもしれません」


「そのようだな。あまり俺たちが首を突っ込んでいい話ではない」



 そんな話をしていると、本日2度目の鐘の音が鳴る。



「よし、行くか」


「はい」



 二人は食器を片付け、近接戦の訓練が行われている場所へと歩き出した。



「ソラには剣術から教えるのでしたっけ?」


「あぁ。戦うのに近接戦が出来て無駄ということはまず無いからな。そのついでに、ソラにスキルの話でも聞いてみることにするつもりだ。記録を漁っても分からなかったんだろ?」


「えぇ、あくまで昨夜だけですけど。まだ調べた方が――」


「いや、調べなくていい。魔族の強力な呪いを解くほどのスキル、記録が残っていない訳がない。スフレアが一夜調べて何も出なかったのなら、過去に例のないスキルだとみる方が賢明だ」


「それもそうですね。では、私もソラの剣術指導に付き合います。元々ルバルド兵士長が戻る予定の日までは私が教える予定だったので時間は空いていますので」


「そうか、なら頼む。俺たち二人が教えるんだからきっちり上達してもらわないとな」


「自分で言うのもなんですが、こんな豪華な教師が付くのなんてソラが初めてでしょうからね」





「あら、もうこんな時間なのですね。訓練、頑張ってください!」


「はい、ありがとうございます!」



 カリアがソラを見送ってから城へと戻っていると、その途中でこちらへと走ってくる兵士と出会う。その兵士は息も切れ切れに言葉を紡いだ。



「カリア姫、シュリアス王子がお戻りになりました!」


「お兄様が? 確か戻ってくるのは数週間後と……」


「カリア姫の声が戻られたことを聞いてすぐに戻って来たようです」


「そうですか。それでは、お兄様にも私の声を聞いてもらわないといけませんね。お兄様は今何処にいらっしゃるのですか?」


「私がご案内いたします」



 カリアは兄と会うべく伝達に来た兵士と、護衛として付いていた二人の兵士との四人で城へと向かった。





 一方ソラは、ルバルドとスフレアと共に練習用の武器が収納されている場所にいた。目の前には多種多様の木製で簡易なつくりの武器がずらりと並んでいる。それを見て、目移りしているソラにルバルドが声を掛けた。



「これは訓練用の安物だが、自分にあった武器を探すには丁度いい。今日の目標は自分にあった武器を見つけることだな。気になるものがあれば一通り試してみると言うのも有りだ」


「これだけあると迷いますね……」



 そう言いながら、ソラはずらりと並んでいる武器の前を歩き、ある武器の前で止まる。それを見たスフレアがソラに簡単な説明する。



「短剣ですね。軽くて扱いやすいですが、リーチには多少難がある武器です。そのリーチも使い手によっては異なるのですが……。短剣を使う場合は軽量でいて尚且つ片手が空くので二刀流にしたり、道具を駆使した戦い方をする場合もあります」


「二刀流ですか……」



 そう呟きながら、ソラはルバルドとスフレアの武器をちらりと見る。ルバルドが背負っているのは大剣で、とてもではないがソラが扱えるような代物ではない。スフレアが腰から下げているのはレイピア。ソラは武器に関しての知識はほとんどなかったが、自分がそれを扱えるほど器用でないことは何となく分かった。

 それからもソラは様々な武器の前を歩き回り、短剣と、二刀流にするべくもう一つの武器を手に取った。



「それなら軽いのでソラでも扱えるでしょうし、悪くないと思います」


「後は使い方次第だな。さて、俺が相手をするとするか」



 そう言ってルバルドは訓練用の大剣を手にした。



「よ、よろしくお願いします!」



 意気込んでそう言うソラを、ルバルドとスフレアは頼もしそうに見つめる。その手にあるのは短剣と小太刀だ。ソラは自分が戦う理由を再確認して、武器を一度握りしめてからルバルドとスフレアに続いて武器庫を出た。

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