第14話 空振り
ソラ達がゴブリンを殲滅し、依頼を出した村へと戻ると既に日は落ちていた。そのため依頼を出した村長への報告は後日と言うことになり、宿をとってそれぞれが眠りについた。
そしてその翌日――。
「そ、そんなものが……。すぐにギルドに応援を――」
「あぁ、それなら大丈夫です。俺たちで片付けましたから」
「……」
初めは疑いの目を向けていた村長だったが、その証拠として回収した魔物の体の一部を見せた所でようやく納得した。お礼と言いつつ様々な品を持ってくる村長をどうにか
「よし、じゃあ帰ろうか」
「はい、ご主人様」
「これだけの数討伐しておけばそれなりの報酬にもなろう。してソラよ、試し切りをした感想はどうじゃ?」
「どうと言われても……。前のものとほとんど同じ形だから違和感が無かったぐらいかな」
「それならば大丈夫そうじゃな」
そんな会話をするソラ達に、ルークとフェミはが申し訳なさそうに口を開く。
「その……本当に僕らと半分でいいんですか?」
「ほとんど師匠たちが倒してしまってましたけど……。私たちは別に自分たちが倒した分だけでも――」
フェミの言葉通り、ルークとフェミの元へとソラ達が駆けつけてからはソラとミラがゴブリンを倒していた。ほぼ二人で掃討したと言ってもいいレベルである。ルークとフェミはその二人の様子を唖然と眺めていたにすぎない。暗闇から現れるゴブリンを分かっていたかのように全て躱して黒い刃で一刀両断していくソラ。壁や地面、天井を変形させて問答無用で串刺しにしていくミラ。この二人を相手に手助けをする暇などあろうはずもなかった。したことと言えば、ミラが倒したゴブリンの左耳を回収することぐらいである。
「気にしなくていいよ。俺たちは生活に必要な分だけ貰えればそれでいいから」
「そういえば師匠たちはどこに住んでるんですか? 僕たちは宿に泊まってるんですけど……」
「森の中に小屋を建てて住んでる。出来ればあまり人と接したくなくてさ……」
「色々あるのじゃよ、気にするでない。それはそうとフェミよ、お主錬金術が使えるのじゃったな」
「は、はい」
「使い方は分かるのかや?」
「いえ、魔法陣も知りませんし、そういった類の書籍も読んだことがないので……」
そんな言葉を聞いてミラはにやりと笑った。ミラが錬金術師として行っていることは俗にいう教科書とは完全に逸脱したものだった。寧ろ、世に出ている教科書を基本として学んで来た人間に教える方が困難である。
「そうか。フェミは気付いているであろうが、妾も錬金術は使える。嫌でなければ教えてやってもよいが、どうする?」
フェミは今までミラの錬金術師としての技術を間近で見て、それが異常であることを察していた。そんなミラから学べるまたとない機会。フェミがそれをふいにするはずも無かった。
「よ、よろしくお願いします!」
「頑張れよ、フェミ」
「うん! ルークも頑張って!」
「フェミに負けないように頑張るよ。師匠、よろしくお願いします」
そう言いながらルークはソラに頭を下げたが、ソラは申し訳なさそうな顔をした。
「俺、剣術は独学だから相手をしてあげるぐらいしかできないけど……」
「それについては妾に案がある」
ミラがこれだけ教え方を知っているのには理由があった。長い時を生き、王国に仕える天才錬金術師。かつての王国はミラの実力を見込んで新人の育成にも駆り出していた。最終的にはそれが仇となったのだが、ミラは自分の弟子を恨んだりはしていなかった。ミラが本当に恨んでいるのは王国と言う組織そのものだ。
「お主ら孤児院に寄付するのは良いが、ある程度は残しておくのじゃぞ?」
「何故ですか?」
「錬金術の練習は物が無くては出来ぬからな。まずは妾が指示する量の鉄を買ってくるところからじゃな」
そう言いながらミラはルークの持つ刃こぼれしきった片手剣とボロボロの盾、フェミの持つ短剣に視線を向けた。錬金術師は基本的に武器や防具の作り手として重宝される。物を変形させることが出来る彼らにとって、武具の製作は天職とも言える。
ルークとフェミはミラの提案に胸を躍らせながら、ソラ達と共に街へと進んでいった。
☆
ライリス王国は砦陥落後、すぐにある程度引いた位置で新たな砦の建設に取り掛かった。簡易なつくりで出来るだけ時間を稼げるように作ったことと、出来うる限りの人員を割いたことにより一か月と言う普通ならあり得ない速度で完成した。魔族が攻めてくる前に、それを出来うる限り強化し続けなければならない。少なくとも数万の魔族が攻めて来ても戦えるように。
だが、一区切りついたところでライリス王国国王は三人の人員をその作業から除外した。
「聞いた話だとこの辺りのはずだ、魔女の村があったのは……」
パリスのそんな言葉に、二人は何も答えなかった。そこにはただただ草原が広がっており、それ以外何もなかった。三人は暫く辺りを散策したが破壊された跡形も、人が襲われた形跡も全くない。まさに三人が聞いた通り『村が消滅した』と言った様だった。
やがて日が暮れ始めた頃、レシアが口を開いた。
「お兄様、ライムさん、あそこにちょっとした丘があります。あそこからなら何か見えるかもしれません」
そんな言葉と共に、三人は馬車を引きながら丘を登った。そこはかつてソラがティアやハシクと共に星空を眺めていた場所。
「今日の野宿はここにしようか」
「でもパリス、ここだと周りの魔物にすぐに気付かれるんじゃ……」
「ここら辺の魔物に人間を襲うような魔物はほとんどいないし、いたとしても僕らでも簡単に倒せるレベルの魔物だから問題ないよ。それに、もしソラがいたら気付けるかもしれないし……」
そんなパリスの意見に三人は賛成し、野宿をすることになった。近くに人がいるかもしれないと、辺りを散策しながら三度の夜をその場所で過ごした。だが、三人の元に人が現れる事は無かった。
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