第10話 討伐依頼
ギルドから外に出て、少し歩いたところでミラが口を開いた。
「……名前ぐらいは良いのではないか? いくらなんでも不憫すぎると思うのじゃが。それが原因かは分からぬが、ギルドに入ってから一言も話せておらん者もおるしな」
「すみません、何と呼べばいいのか分からなくて……」
「それはそうかもね。そもそも俺たちを探しに来たとしても顔を知っている人なんてたかが知れてるし。……でもやっぱり名前は隠しておいた方がいい気がする」
そんな話を聞いていたルークが口を開く。
「じゃあ、僕らは何て呼べばいいですか? それだけでも決めておいて欲しいんですけど……」
その言葉にミラは首を傾げる。
「……何も聞かぬのか?」
「フェミからあまり詮索して欲しくないと言われたと聞いたので。それに、ギルドマスターに信頼されているみたいなので素性は大丈夫かなと思いまして……」
(別に信頼はされてない気が……)
そう思いつつも、ソラはその言葉を口に出さずに飲み込んだ。
「それで、僕たちは何て呼べばいいんですか?」
「取り敢えずソ――やはり不憫じゃ。ルークとフェミよ、ひとまずそやつと握手をせよ」
そう言いながらミラはソラの方に目をやった。
「私たちは構いませんけど……何か意味でもあるんですか?」
「保険というやつじゃよ」
その言葉通りのただの保険だった。街の外に出る前に寄った孤児院で寄付をしている姿やギルドでの周りからの視線、ギルドマスターの話などを考慮すれば二人の出自を疑う余地は無かった。だが、自分の事情が事情なだけにミラはソラのスキルでそれが正しいことを確信しておきたかった。
ルークとフェミは首を傾げながらもソラと握手を交わした。それと同時に、ソラは必要最低限の情報だけを読み取った。
「ギルドの外では自由に名前を呼び、ルークとフェミはそれを聞いた上で気にせずに妾たちの事を師匠とでも呼べばよい」
そう言ってミラはソラの方を見た。その視線にはルークとフェミが自分たちの名前を漏らすかどうかの確認と言う意味が含まれていた。
「俺はいいと思うよ」
ソラの了承を貰ったのを確認したミラは、次にティアの方に視線を送った。
「うぬはどうじゃ?」
「ご主人様がそう言うのなら私も構いません」
「「ご主人様⁉」」
「その辺は面倒じゃから聞くな。後、妾たちの事は出来る限り誰にも話さないようにしておけ。下手をしたら二人にも面倒事が行かぬとも限らぬからな」
そんな言葉にソラ達の事情に若干の興味は持ちつつも、それ以上に得体のしれない恐怖を感じたために二人は素直に頷いた。
「それでノラ村ってのはここからどのぐらいかかるの?」
「僕らが前向かった時は朝に出て夕方に着いたので、休憩なしで歩いたとしても着くのは夜になると思います」
ルークはそう言いながら空を見上げた。日は現在ほぼ頂点まで登っており、既に傾き始めていた。
「じゃあその間に色々質問してもいいかな。俺たち、ギルドに来たばかりで知らないことがほとんどだから」
「そのぐらいなら任せてください」
「私たちで答えられる範囲でいいのなら、ですけどね」
二人の了承が得られたところで、ソラは遠慮なく質問を始めた。
「ギルドの依頼にある魔物を倒したのってどうやって証明するの? 今回のなら数によって報酬が変わるからそうしないといけないと思うんだけど……」
「魔物によって違うんですけど、部位を切り取って持ち帰るんです。僕らが受けた今回の依頼はゴブリンなので、左耳です」
さらりと出て来た言葉を少し気味悪く思いながらも、ソラの頭に一つの疑問が浮かんだ。
「それなら倒す必要なくない?」
「ゴブリンって人の形をしていてかなり暴れるんです。なので、殺しでもしない限り片耳だけを切り取ると言うのは難しいと僕たちは聞いています。……もしかして何か方法があるんですか?」
特に考えずに質問を投げかけたことを、ソラは今になって後悔した。ソラのスキルを使えばゴブリンの片耳だけを手元に集めると言う作業は容易い。ゴブリンを生かしたままそれを行うことも、左耳を残して体を消すことだって出来る。
「いや、何となく気になっただけだよ。それと、その言い方だとゴブリンは倒したことがないみたいだけど」
「実は僕たちはまだ採集系の依頼しか受けたことがないんです」
「正確に言えば私たちを心配してギルドマスターが受けさせてくれなかったんですけどね。今まで受けてきたのは比較的魔物が出にくい地域での薬草採集ぐらいです。その時に偶々遭遇した魔物なら何匹か倒しましたけど……」
「僕らが受けた依頼の地域が魔物が出にくいうえに弱かったんです。それに加えて、遭遇するのは群れからはぐれた単独で行動している魔物だったので、本格的な魔物退治は今回が初めてです」
ルークたちの話を聞いて、ミラが何かを思い出したように口を開いた。
「そう言えば2人はスキルを持っておるのか? 妾たちはその辺のことは話すつもりは無いから別に無理にとは言わぬが、聞かれて問題ないのなら教えておいて欲しいものじゃ」
そのミラの言葉に、ルークは俯きながら答えた。
最も、ミラは『鑑識』のスキルを持っているためにそもそも知っているのだが。
「別に隠し立てするような事じゃないし、ギルドカードを見れば分かることだからいいですよ」
そう言ってルークは手のひらサイズのカードを見せ、それに続いてフェミも見せた。2人のカードには名前と年齢、そしてスキルが書いてあった。スキルが書かれていたのはフェミの方のみだったが。
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名 前 : ルーク
種 族 : 人間
年 齢 : 11歳
スキル :
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名 前 : フェミ
種 族 : 人間
年 齢 : 10歳
スキル : 錬金術
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ルークは顔を伏せたまま口を開いた。
「僕らが馬鹿にされるのはこれも理由の一つなんです。フェミはそもそも戦闘向きのスキルですらないし、僕はそもそもスキルを持っていない。だからランドンみたいな奴には絶対に勝てないし、馬鹿にされるのも――」
ミラはそんなルークの言葉を遮る。
「ルークはそれで諦めた訳ではなかろう? 妾の勝手な妄想じゃが、ルークがソラ――師匠と手合わせした時に見せた不意打ちのナイフは自分なりに考えた結果ではないのか?」
「それは……そうですけど……」
「もし簡単に防がれたせいで自信を無くしておるのならそれは筋違いじゃ」
「筋違い?」
「妾やソラを基準に考えるな。妾たちは例外とでも思えばいい」
ソラとミラの持っているスキルは完全に例外であり、特殊だった。それ故に2人は世間一般での基準とはなり得ない。
「そんな例外を師に持てたのじゃ。うぬらが望むのならば他では絶対に身に付かない技術を付けてやってもよいぞ」
そんな言葉にルークとフェミが断るはずも無かった。
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