第11話 実力
村についてすぐ、歩き疲れたソラ達は簡易な宿屋で一泊して朝を迎えた。そのまま村で簡単な朝食を取ったソラ達は、依頼を出した村長にゴブリンが出現する場所を聞いてから出立した。
少し歩いたところでルークが口を開く。
「師匠たちはどんなスキルを持っているんですか? それだけでも教えてもらわないと連携が――」
「それは気にする必要はない。妾もソラも連携なぞ必要とせぬからな」
ミラのその言葉通り、ソラとミラはスキルの強力さと特殊さ故に連携なんて必要ない。そんなことをするまでもなく魔物だろうが人だろうが、たとえ魔族だろうが簡単に倒せてしまう。寧ろ連携を取ろうとすることで本来の実力を出せないという事態が発生しかねない。
「気にするとすればティアの事だけじゃ。ティアの戦闘能力はほぼ皆無じゃからな。何かあったら助けてやってくれ」
「すみません、私なんかのために……」
顔を伏せながらそう言うティアにソラは声を掛ける。
「気にしなくていいよ。その分、ティアにしか出来ないこともあるんだし」
「はい、そちらは頑張らせてもらいます」
この場所にティアを連れてきたのは、野宿などが必要になった際にティアがいた方が圧倒的に効率がいいからである。その手際の良さはギルドへくる道中にて、ミラも確認済みだ。
「まあ、妾とソラがおるところでそんなことが起こるとは考えにくいのじゃがな」
ミラのそんな自信ありげな言葉に、ルークとフェミはソラとミラのスキルに妄想を膨らませた。だが、どんなスキルを持っていようと、警戒するのが常であるこの世界でそれほどの自信を持てるスキルを二人が知っているはずも無かった。
そんな話をしながら、五人は村近くの森へと辿り着いた。
「ここから先はどうすればいいの?」
そんなソラの質問にルークが答える。
「村の人の話だとゴブリンが住み着いているみたいなので、どこかにある住処を探します」
「ならば二手に分かれるとしよう。そちらの方が効率が良さそうじゃしな」
思い付きから発したミラのその言葉にフェミが反対する。
「そ、そうですけど集団に襲われた時のことを考えたら――」
「……ふむ。それは最大で何体ぐらいじゃ?」
「統率が取れている群れだと20匹で襲ってくることもあると聞いたことがあります。あくまで私が聞いた話ですけど」
ミラはそれを聞いてソラの方へと視線を向けた。
「俺は大丈夫だよ」
「じゃろうな。取り敢えず妾とソラは分かれるとして――」
ルークとフェミが言い返す暇もなく、ソラとティアの組とミラ、ルーク、フェミの組に分けられた。
「適当に散策したらここに集合でよいか?」
「了解。先に住処見つけたらどうしたらいい?」
「そのままにしておいてくれると助かる。妾に策がある」
ミラはそう言いながらちらりとルークとフェミの方を見ながらにやりと笑った。ルークとフェミはそんな視線を受けて背筋に冷たいものが走ったが、すぐにミラが歩き出したせいで何も言えなかった。
☆
ソラ、ティアと別れてから少し歩いたところで、フェミが口を開いた。
「師匠」
「なんじゃ?」
「あちら側は二人で大丈夫なんですか? えっと……ティアさんは戦えないと言っていたと思うんですけど」
「大丈夫じゃ。実力で言えば向こうの方が上じゃからな」
「……スキルですか?」
「そうじゃな。刃を向けて進んだ時点で負けが確定する。今のソラのスキルはそんなところじゃ」
ミラが『今の』と付けたのは、ソラとティアから話を聞いて、少し前のソラならそうはならないと思ったからだ。だが、今のソラならたとえ相手が人間だとしても――。
「うぬらには関係のない話じゃ。さっさと住処とやらを見つけるとしよう」
☆
ルークとフェミが疲れ気味に集合場所へと戻ると、既にソラとティアは戻ってきていた。
「そっちはどうじゃった?」
「見つけた。洞穴みたいなところに」
「ふむ。それで数は?」
「洞穴の中に59匹。その周りに13匹」
そんな話を聞いてルークとフェミは2つの意味で驚いた。一つはその数。明らかに異常な数に洞穴と言うこちらから仕掛けるには圧倒的に不利な場所。明らかに自分たちでは手に負えないレベルの数だ。もう一つはその数を異様なほど正確に把握していたソラ。周りにいるのならまだしも、洞穴の中にいる数まで正確に把握するのは並大抵な事ではない。
「洞穴とは丁度良いな。で、近くにいる3匹はうぬらが連れて来たのか?」
「たまたま見つかってさ。他のゴブリンと接触はしなかったから気付いてない風は装ってはみたけど……」
そんな言葉を聞いて、ソラとミラ以外の三人はぎょっとした。魔物の気配に全く気が付かなかったのだから無理もない。
「下っ端が手柄を立てようと上への報告を怠るのはどの世界でもあることじゃろう。それで、どうするつもりじゃ? 報告でもされてこちらに向かってこられても困るのじゃが。洞穴にいてもらわなくては妾の策が使えなくなってしまうからの」
「ここで倒しておけばいいんじゃない? 向こうもそのつもりみたいだし――」
次の瞬間、二匹のゴブリンが茂みからソラとミラの背中を狙って飛び出した。その手には刃が欠けている小さなナイフが持たれている。
「師匠、後ろっ!」
ルークの焦りに満ちたそんな言葉を受けてなお、ソラとミラは動揺を全く見せなかった。
フェミは想像したその先の景色に思わず目を瞑りそうになったが、ゴブリンの悲鳴を聞くと同時に目を見開いた。
「グギャァッ」
ミラへと向かったゴブリンは突如地面から生えるように現れた、土で作られた円錐状の槍のようなものに四肢と心臓を貫かれていた。フェミはそれを見て錬金術だとは気が付けたが、それと同時にミラの異常性にも気が付いた。錬金術とは本来、魔法陣を紙や地面に描いてからするものだからだ。そもそも戦闘向きのスキルではないと言うのが世間一般の見解だった。
一方ソラの方はと言うと……。
「師匠……今何を……」
ルークの唖然とした反応も当然だった。
それは見ただけで理解するのはほぼ不可能な光景。ソラへと襲い掛かったはずゴブリンは一瞬でその姿を消した。だが、ソラの左手にあるゴブリンの左耳が幻影でないことを語っていた。それを目の当たりにしたルークはミラの言葉の一節を思い出した。
”刃を向けて進んだ時点で負けが確定する”
聞いた時はあり得ないと思った。だが実際に見てしまっては信じる他ない。
「ソラ、残りの一匹任せてもよいか?」
「了解、俺がやっておくよ」
そう言った次の瞬間にはソラの手元には2つのゴブリンの左耳があった。
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