第12話 洞穴

 ルークとフェミはソラとミラの戦いとすら言えない戦いを見てから色々聞きたいことはあった。だが――。



「明日に備えてゆっくり休むがよい」



 不気味な笑みを浮かべながらミラの放ったそんな言葉により、その場で野宿をすることになった。

 翌日、五人はソラの案内の元洞穴の入り口へと向かった。そこへと着くと、見張りをしている2体のゴブリンの姿が目に入った。



「もう一度聞いておくが、2人は強くなるための方法は妾に一任するので良いのじゃな?」



 そんな言葉に二人は力強く頷いたが、ソラとティアは何とも言えない表情でそれを見つめていた。昨夜、ミラからルークとフェミに何をするかを聞いていたからだ。それを実行するためにはソラのスキルが必要であるため、ソラは少なからず責任を感じていた。

 そんなソラの思いなどつゆ知らず、ルークとフェミは期待の眼差しでミラに向けていた。



「ひとまずあの見張りのゴブリンはうぬらに任せるとしよう。ソラ、見張りはあの2体だけかや?」


「みたいだね。さっき確認したけど、その奥にいるゴブリンまでの距離はそれなりにあるから気にしなくても大丈夫だと思う」


「よし。ルーク、フェミ、あの2体を倒して来るがよい」


「「分かりました、師匠!」」



 それだけ言うと、ルークは剣と盾を構え、フェミは短剣を鞘から抜いた。2人は近くの茂みに隠れながら徐々に見張りのゴブリンへと近づいて行った。一度互いにアイコンタクトを取り、同時に走り出した。それと同時にゴブリンがその足音に気が付き、ピクリと動いた。

 気が付かれるのが早かったため、ルークの振り下ろした剣はゴブリンの鼻先をかすめるに留まった。



「ッ、外したっ!」


「ルーク、左!」



 フェミの言葉に反応して、ルークはゴブリンが振り下ろしてきた木製のこん棒を盾で防いだ。その間にフェミがゴブリンの懐へと短剣を突き立てた。残り一匹のゴブリンは怒りの表情を浮かべながら二人へと突撃してきた。

 そんな様子を、ソラ達は少し離れた所から見守っていた。



「ふむ、2対2ならば問題は無いようじゃな」


「そうですね。魔物は倒した経験がほぼ無いとは聞いていましたけど、ゴブリンなら問題なさそうです。ですけど……」


「ミラ、流石にあれはやり過ぎだと思うんだけど」


「本人の合意の上じゃ。それに、ギルドマスターの話が本当ならば実力を付けねば姿を消すことになるのではないか? それよりは幾分マシじゃろう」



 そんな言葉にソラとティアは何も言えなかった。そんな話をしている間にもルークとフェミはゴブリンを倒し終え、耳を切り取っていた。そんな二人の元へとソラ達は歩み寄った。



「師匠、終わりました」


「そのようじゃな。さて、ここからが本番じゃ。まずはその洞穴の中に一歩入れ」



 ミラはそう言って人二人が並ぶのがやっとの細さの洞穴へと視線を向けた。



「「はい!」」



 二人が入った瞬間、入口付近の地面が、天井が変形して洞穴からの出口が塞がれた。



「「……え?」」



 突然のことに戸惑い、少し落ち着いてからルークは出口をふさいだ壁を叩いた。



「師匠っ! 何をするんですかっ!」



 焦りを浮かべるルークに、ミラは淡々と答えた。



「簡単な話じゃ、その洞窟の奥には反対側へと通ずる出口がある。妾たちはそこで待っておるからうぬらはゴブリンを倒しながら進めばよかろう?」


「そんな……。私たちにはそんな事――」


「出来ないと思うのならば考えることじゃな。そろそろ目が少しずつ慣れて来たであろう? どちらに道があるかどうかの判断ぐらいは出来るはずじゃ。それでも隠れている魔物まで見つけ出すのは不可能じゃろうがな。五感を研ぎ澄まして進まねば死ぬぞ?」


「ちょっと待ってください師匠っ! 僕たち――」



 そこから先、何を言っても返答は無かった。



「フェミ、師匠が作ったこの壁壊せない?」


「ごめんルーク、私には……」



 フェミは錬金術というスキルがありながらも、積極的に使うことはしなかった。戦いにおいてはほぼ役に立たないそのスキルは、冒険者として戦うフェミにとってさほど必要なものではなかった。そんなフェミが、年月を経てもなお伝説とされているミラの錬金術に敵うはずが無い。



「……フェミ、行こう」


「ルーク?」


「これを乗り越えれば師匠たちみたいに強くなれるかもしれないんだ。ここは師匠の言う通り周りに注意を払いながら進もう」


「……うん」



 ルークとフェミは、暗闇に目を凝らしながら少しずつ奥へと進んでいった。

 数分歩いたところで、ルークとフェミの耳に二人とは別の足音が聞こえてくる。



「ルーク……」


「大丈夫。足音からして二匹しかいない。僕らなら大丈夫」



 ルークはフェミを怖がらせないようにそう言うと、壁の凹凸を利用してゴブリンたちの死角へと入った。

 近づくにつれ、ゴブリンの耳障りな声も聞こえ、松明の明かりも視界に入り始める。そして、ルークとフェミの目前に迫ったと同時にゴブリンたちへと襲い掛かった。



「グギャッ⁉」


「グギギィ!」



 だが、ゴブリンをはじめから目視出来ていたわけではなかったために致命傷を与えるには至らなかった。直ぐにゴブリンたちの反撃が来るが、ルークとフェミは後ろに下がってどうにか躱した。

 少しの間にらみ合い、最初に動いたのはルークだった。剣を振り上げ、ゴブリンに向かって思い切り振り下ろした。ゴブリンが持っていたのがボロボロの短剣であることと、単純な筋力がルークの方が上だったために短剣でガードと言う選択肢を取ったゴブリンは容易に頭部に刃を受け入れてしまった。ルークは間髪入れずにもう一匹のゴブリンに向かって刃を振り切った。背後が壁のせいで距離を取ることが出来なかったもう一匹のゴブリンも容易にその体を地に染めた。



「ルークは流石だね。私なんて……」


「そんなことないよ。フェミがいるだけで僕にとっては心強いんだから。寧ろ、フェミにこんなことさせちゃってるんだから申し訳ないとさえ思ってるよ」


「私はやりたくてやってるだけだから。私もルークの手伝いしたかったし……」



 フェミがルークについて行く理由としては孤児院を救おうとしているルークを手伝いと言う想いもあったが、単純な好意が理由のほとんどを占めていたりする。そんな会話をしながら耳を切り取り終えた時だった。気を抜いていたことと、会話をしていたことが影響して忍び足で近づいてきた彼らの存在に気が付けなかった。



 「「グギャァァァ!」」



 背後から突然聞こえたけたたましいゴブリンの鳴き声にルークとフェミはぎょっとする。振り向いた時には二人の目の前には刃が振り下ろされていた。ルークの目に短剣と同時にあるものが視界に入った。



(横……穴……⁉)



 次の瞬間、二人の視界は急に切り替わった。特に周りに何がいる訳でもないのに、先程までの状況からルークとフェミはハッとして辺りを見渡した。だが、彼らの視界にゴブリンは映らない。そこは普通に考えれば通路の行き止まりだった。だが、二人はその場所に見覚えがあった。



「ルーク、ここって……」


「うん、最初に僕らが入った……」



 ルークとフェミの想像通り、二人はソラのスキルによって強制的にスタート地点へと移動させられていた。

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