第07話 通達

 翌朝、簡単な朝食をとってからミィナとユーミアは屋敷へと戻るためにソラ達に別れの挨拶をしていた。ミィナとユーミアの背後では迎えに来た数人の護衛が待機している。

 挨拶が終わって別れようという、丁度その時だった。



「おはよう、ハシク。用事は済んだの?」


「あぁ、問題ない。少し疲れた、我は眠る」



 そう言って家へと入ろうとするハシクに、ミィナが声を掛けた。



「あのっ……。ハシクさん、あの時は助けて下さってありがとうございました」


「気にするな、ただの気まぐれだ」



 ハシクはそっけなくそう答えると、そのまま扉の向こう側へと消えていった。





 屋敷へと戻る帰り道で、ユーミアはふと浮かんだ疑問をミィナへとぶつけた。



「ミィナ様、ハシクさんとはいつお会いになられたのですか?」


「ユーミアが連れ去られた時だよ。ハシクさんがいなかったら、ソラ達に助けを求めに行くことなんて出来なかったと思う」


「そうでしたか。ハシクさんには一度お礼を言わないといけませんね」


「そうだね。今度ソラにハシクさんが喜んでくれそうなものを聞かないと」



 ハシクの実力に若干の疑問を感じたユーミアだったが、それ以上は聞かなかった。

 そうして屋敷へと戻ったミィナたちを待っていたのは、ミィナの数倍の護衛を引き連れたエクトだった。



「久しぶり、ミィナ」


「エクト⁉ こんなところにいて大丈夫なの? 魔王になったんだから、忙しくてしばらく会えないと思ってたんだけど……」



 エクトは笑みを浮かべながら答える。



「忙しいと言っても、ミィナほど熱心には働いてないよ。ハーミスさんに『魔王ならば仲間を信じて頼ることも必要です』なんて言われちゃってさ。何も言い返せなかったよ」



 ミィナは思わず乾いた笑みを浮かべた。ユーミアの方から何かを訴えている様な視線が送られてきた気がしたが、何も答えずにやり過ごす。



「……とは言ったものの、ここに来たのは仕事の一環なんだけどね」


「仕事?」



 ミィナとエクトは、それぞれの護衛を連れたまま屋敷の中へと入って行った。

 椅子に腰を掛けると、エクトは早速言葉を続けた。



「先代の魔王様はしていなかったけど、僕は各領主と繋がりを持っておこうと思ってさ。魔王が各領内を監視して、各領主にも魔王を監視してもらう。そう言う関係を築きたいんだ。要は、お互いに悪い事をしていないかを監視し続ける、みたい感じにね。そうすれば多分、以前みたいに絶対的な力を持った一人に振り回される、なんてことは無くなるはずだから」



 先代魔王の一存に振り回されてきたエクトにとって、それをすることはとても大事なだった。そして、それはミィナも同じように理解できる。



「それはいいかもね。監視し合うって言われると少し怖い気もするけど」


「お互いに手の内を晒すわけだから、相手にもよるだろうけど信頼が深まることもあるんじゃないかな。……ってハーミスさんも言ってた」


「そうなんだ……。そう言えばハーミスは?」


「今は外に出ている僕の代わりに魔王城に居てもらってる。落ち着いたらミィナに会いに行くつもりみたいだから、もう暫くは会えないかな。勿論、僕は出来るだけ早くそうなるように頑張るよ。それと――」



 エクトは、数枚の書類をミィナへと差し出した。



「……これは?」


「僕がハーミスさん達と一緒に考えた、各領同士の取り決め」



 そこに書かれていたのは領主同士が接触する際の事や、領と領の間の魔族の行き来、物流などのルールが事細かく定められていた。



「これはハーミスさんの提案なんだ。僕やミィナはあまり詳しくないけど、魔族の領主間のいざこざは少なくない。現に、ミィナの両親が命を落とした大きな要因はそれだ。多分、ハーミスさんは同じようなことにならないようにしたかったんだと思う」



 その言葉は、ミィナよりもその後ろにいるユーミア含めた護衛に深く響いた。



「そうなんだ……。じゃあこれは、ここに住んでいる皆に知らせた方が良いの?」


「そうだね。これは全ての魔族が安全に暮らすために、皆で守るべきルール。だから出来る限り多くの魔族に知らせて欲しい」


「分かった、私が責任をもって皆に伝えておく。それで、他には何かある?」


「あと一つだけ。ソラさん達に会わせて欲しい。出来る事なら、ティアさんとミラさんも一緒に」


「スキルの練習でもするの?」



 ソラとミラにスキルの練習を手伝って貰っていたのを知っていたため、ミィナはそう思った。しかし、今回は様相が違っていた。

 エクトはいつになく真剣な表情で答える。



「人間との接し方で意見を貰いたいんだ」

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