第07話 作戦実行記録(上)

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零日目

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 誰が考えたのかは知らないが、よくこんな作戦が思いつくものだ。劣悪な環境にある岩山に中継地点を作り出し、それを伝って人間の領地へと足を踏み入れる。

 集められたのは飛行が可能であり、建築の技術がある者である。実際に人間側へと向かう者たちは別の場所で休養を取らせている。

 かなりの重労働になるが、それは仕方のない事だろう。命の危機も付きまとうが、魔王様の命令である。これで死ねるなら私たちも本望だ。




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一日目

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 まずは作戦の前段階。岩山に作成する中継地点を模索する。

 実際にその場所に来て、思っていたよりも難しいと悟った。岩山というよりも谷と言った方が正しいかもしれない。底が見えないほどに深い谷から、無数の棘が空へと伸びているといえば想像しやすいだろうか。時に大岩が宙に浮くほどの強風が吹くらしいが、その情報が正しいかは分からない。絶対と言える情報は、この場所に永久的な中継地点を作成するのは不可能という事だ。不規則ではあるものの、常に一定の強さの風が吹いている。

 しかし、作戦通り一時的なものなら不可能ではないだろう。




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二日目

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 運が悪かったのか、作成した中継地点がかなりの強風の影響を受けて壊れてしまった。死者が出なかったのが不幸中の幸いと言ったところか。強風とは言っても、強力な部類のそれではなかった。造りを根本的に考え直す必要がありそうだ。

 そして予想外だったのが、負担の大きさである。いくら魔族の中で随一の飛行能力を持つ集団とは言っても、こんな強風が吹き続ける中で作業をするのは困難を極める。

 これは思ったよりも時間が掛かりそうだ。




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十日目

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 作成する足場の構造を試行錯誤した結果、以前よりも長い時間強風に耐えられるようになった。それでも二、三度強風が吹くと壊れてしまう。中継地点を作る場所が削ることもままならないほど頑丈な岩山なのだから無理もないだろう。

 そこで、我々は思考を変えることにした。中継地点は壊れる前提で素早さを重視して作成し、壊れてもすぐに他の場所へと移動するといった形を取ることにした。どの道人間の地域へと進むのは翼を持った魔族だ。私たちの目的はあくまで実力のある者たちが一時的に翼を休ませられる場所を作ることである。それでも問題はないだろう。




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二十日目

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 ある程度の速度で作成できるようになったため、実際に人間側へと向かう魔族に来てもらって意見を聞いた。なるほど、話に聞いた通り選りすぐりの優秀な魔族なのだろう。頑強な翼と体躯、そして若干の戦闘狂じみた性格……。後者は必要かは分からないが、魔王様の選択ならば間違いはないのだろう。

 それはさておき、彼らの話ではその強度で問題ないとのこと。どうやら飛び続けるのが一日が限界らしく、速度を考慮すると彼らが一度の飛行で辿り着けるのは岩山のおよそ半分と言ったところだろう。そして休息の目安として一時間を要求してきた。彼らは24時間飛び続け、1時間休み、24時間飛び続けることが可能と自負しているのだ。魔族は血統によって寿命や身体能力が大きく左右されるが、まさかここまでだとは思わなかった。

 ここまできて、私たちにも大変危険な任務が必要だと改めて悟らされた。岩山のおよそ半分の場所で留まり、中継地点を作り続けなければならない。出来なければ戦闘狂の彼ら含め全滅するだろう。




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三十日目

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 ようやくマニュアルの作成に成功した。岩山はほとんどが円錐のような形をしているため、マニュアルを作ること自体はさほど難しくない。問題は素早く、必要最低限の資材で足場を作るにはどういった構造が良いかである。そして、私たちが最適解と考えるものが本日完成した。

 この先の作戦は体力勝負である。私たちはこの場所から中間地点までの間に足場を作り続け、必要な資材をバケツリレーの要領で運び続ける。戦闘部隊が中間地点から人間の領域に向かって飛び立った後は一旦魔族の領地まで撤退。そして飛び立った魔族が戻ってくる予定の二か月後に同じ要領で足場を作りに向かう。

 不可能ではない。しかし、成功するかと聞かれればそうだとは断言できない。職人気質なものが多いのか、私も含めてかなりやる気になっているものが多い。こういった自分の技量に成功が左右されるチャレンジは、年甲斐もなくワクワクしてしまう。




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三十五日目

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 中間地点までではなく、四分の一までの距離ではあったが上手くいった。皆かなり疲弊しているが、一人の死傷者も出ていない。この調子なら問題はないだろう。

 これから実行の日までは、この経験をもとにさらなる効率を追求する。私たちの体力は彼らには遠く及ばない。つまり、効率がこの作戦の成功を左右すると言っても過言ではないのだ。それに加えて私たちの負担を最小限にするためには、『中間地点で休息するための足場を作るまでの必要な時間』と『戦闘部隊の飛行速度から中間地点までの必要な時間』を正確に導き出す必要がある。

 後は体調を万全に整えることぐらいだろうか。




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五十日目

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 私たちは戦闘部隊を送り届けることに成功した。

 中間地点から、足場を作成する者たちは一人も欠けずに生還できた。戦闘部隊は中間地点では全員元気そうだったが、そこから先は分からない。後は二か月後に彼らを中間地点まで迎えに行くだけである。

 人間の王族を攫ってくると意気込んでいたり、神獣を手懐けると言い張っていたりと各々が別々の目的を掲げていてチームワークに欠けているように思えたが、私たちは専門分野ではないので何とも言えない。飛行能力に特化しているという点が必須だったために、チームワークを犠牲にしているのかもしれない。そう思ったりもしたが、今は不必要だと思いその考えを頭から払いのけた。今は彼らが帰還する際に必要な足場を作ることに集中しなければ――。

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