第14話 スキル
ハシクは二人の近くに腰を下ろした。
「そう言えばハシク、ここは大丈夫なの?」
「ここは範囲の外だからな」
「範囲?」
「いや、お主ら人間には関係ないようだから気にする必要はない」
「ハシクがそう言うのならいいけど……」
「それで、お主のスキルの事を聞かせてくれるのだろう?」
ティアはその言葉を聞いてソラの方に向き直った。パリスたちにさえずっと黙っていたソラのスキル。それを聞けることにちょっとした恐怖はあったものの、それよりも教えてもらえることに対する嬉しさの方が大きかった。
そんなティアの視線も浴びつつ、ソラは口を開いた。
「出来るだけ簡単に表すとすれば『認識する』ことと、『認識した対象を消す』ことかな」
「お主のスキルは二つあるのか?」
そんなハシクの疑問にソラは首を横に振りながら答える。
「『属性(黒)』ってスキルだけだよ。最初は触れたものを消すだけのスキルだと思ってたんだけど――」
ソラは近くに生えていた花に触れ、それを消して見せた。
ティアはそれを見て大して驚かなかった。城を囲む城壁周辺の雑草を消すところを見ていたから。だが、そこから先はティアも詳しくは知らなかった。ディルバール家での戦いでスキルの一端を見てはいても、それだけで理解できるようなスキルではなかった。
「ティア、僕らが初めて会った時の事覚えてる?」
「はい、覚えています。奴隷紋を消してくださったときですよね?」
その言葉に頷きつつも、ソラは言葉を続ける。
「あの時、ティアのスキルも一緒に消してたんだ」
その言葉にハシクは驚くと同時に首を傾げる。
「スキルを消せる、か……。それだけでも十分凄い気がするが――うん? お主はティアがスキルを持っていることを聞いていたのか?」
「聞いたんじゃなくて、見たんだ。奴隷紋を消そうとしてティアに触れた時、記憶が流れ込んできたんだ。ごめん、ティア。全部じゃないけど、勝手に記憶を覗くような真似をして……」
「いえ、気にしないで下さい。ご主人様のお陰で今こうしていられるのですから」
「そう言って貰えると助かるよ」
事実、ソラがティアと会わなければ、ティアはここまで自由に行動できるようになる事は無かった。死ぬまでルノウの指示のもと働かされるだけだ。
少し考えた素振りを見せてからハシクが再び口を開く。
「お主、認識した物を消せると言っていたな。記憶まで消せるのか?」
「消せるよ。記憶だけじゃなく、感情だって消せる。勿論、その人自身だって消せる」
そんなソラの話を聞いて、ティアはソラがスキルを怖がっていた理由を理解した。人を消してしまうようなスキル。しかもそれは触れることなく実行出来てしまう。傍から見れば恐怖の対象となるのは火を見るより明らかだった。何より、ソラの様な人間がそんな力をもって怖がらないはずが無かった。
そう考えるティアを余所に、ハシクは思った事を素直に質問をする。
「要はお主の言う認識は感知スキルのようなものなのだろう? ということはその中にあるものは自由に消せるという事か?」
「スキルとか記憶ってなると直接触れてないと出来なけどね」
「あの移動はどうやったのだ?」
「僕ら3人と他の場所との
それを聞いてハシクは呆れたような笑みを浮かべた。
「本当に面白いスキルをしているな、お主は。我を感知できることを考慮して要約すると――」
少し考えたそぶりを見せてからハシクはその口を開いた。
「我の隠密系スキルが意味をなさない程の感知の精度を持ちながら、その感知範囲内のものを消せる、といったところか。まあ、スキルを持っておるのがお主なのが幸いだな」
ハシクの後半の言葉に、ソラは首を傾げた。
「よく考えてもみよ。それをお主ではなく他の人間が持っていたら碌なことにならんだろう? お主は知らんかもしれんが、人間と魔族との戦争は見るに堪えんものがある。血で血を洗っているようなものだ」
その言葉はソラに向けられたものだったが、ティアの方がその深刻さをよく理解できていた。ソラのスキルは人の記憶さえも消してしまえる。どんな悪事をしようと記憶さえ消えれば許されてしまう。それに加えて遠距離から、何の証拠も残さずに人を消せる。もしそんなスキルを国の中枢の人間が持っていればどんなことになるかなんて、考えようとするだけで身震いを起こしてしまうレベルだった。
そこまで話すと、ハシクは立ち上がった。
「ソラ、さっそくで悪いが我は少しここを離れる。まだ魔族の支配を受けたままの仲間がいるようだからな」
「そういえばその魔族ってどうしたの?」
「生きてはおらんだろう。なにせ我が建物ごと消し炭にしたからな」
そんな言葉に若干の恐怖を覚えつつ、ティアが口を開いた。
「ハシク様、命令した魔族が死んでも命令は消えないのですか?」
「消える。だが、自然に消えるまでには時間がかかる。我は意味のない殺生は好かん。それに、仲間がいつまでも魔族の邪な命令に縛られていると言うのは、気持ちの良いものではないからな」
そんな話を聞いたソラが、ふと思った事を口に出す。
「そもそも魔族って一体――」
「魔族も本を正せば魔物だ。魔物が人と変わらぬ感情を持ち、言葉を話すようになったのが魔族。その時点で魔族は我からの干渉が及ばなくなる。それと同時に魔物の格上のような存在になった魔族は、命令を魔物へと下せるようになる。だが、元々格上の存在である我の魔物への命令権に関しては、魔族のそれよりもずっと強い。一言に魔物と言っても強さはそれぞれだがな。だから魔族と魔物の相性によっては命令を行使できない者もいる」
実は魔族が何処から現れたのかと言う話は人間の間では諸説あり、今もなお謎のままだったりする。だが、そのことを知ってるものはこの場にはいなかった。
「それでハシクはどのぐらいの間ここを離れるの?」
「1週間程で戻るつもりだ。すまぬな、付いて来てたのにすぐ離れるような真似をして」
「別に気にしなくていいよ。僕はこの辺りの魔物を鎮めてくれただけで満足だから」
「それでは我の気が済まないのだ。この借りはお主が死ぬまでに返そう」
「そういうことなら楽しみにしてるよ。さてと――」
そう言いながらソラは立ち上がった。
「そろそろ帰らないと母さんが心配するから帰るよ」
「では我も自分のやることを成し遂げに行くとしよう」
「ハシク様、お気を付けて」
「お主らもな」
それだけ言うとハシクは一飛びで森の中へと入りこみ、その姿を消してしまった。それを見送ったソラとティアもまた、来た道を戻り始めた。
「そういえば、ご主人様はハシク様といつ会われたのですか?」
「あぁ、そういえば言ってなかったね。実は――」
ソラは、ティアと共に森の中を歩きながらハシクと初めて会った時の話を聞かせた。
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