第04話 相談

「ま、この辺りじゃとこんなものじゃろう」



 地面に視線を落としたままミラはそう言った。

 そこには現在の場所と、大まかな集落や村などの場所が地面に刻まれている。



「俺たちはあまり詳しくはないけど、基本的に魔物討伐もその周辺でやるから離れてさえいれば問題はないと思う。流石に地形までは分からないから、そこは行ってから確かめるしかないかな」


「後は生息している魔物、でしょうか? ご主人様は人里から離れた所には行かないので、ミィナさんやユーミアさんが行こうとしている場所に関しては全く分かりませんね」



 ティアのその言葉で、ソラの脳裏に一つの疑問が浮かんだ。



「ユーミアさん、あの蝙蝠を使って魔物を遠ざけるのってどうやってるんですか?」


「――っ! ……気が付いていたんですか?」


「まあ、一応。何かを発しているようでしたけど……」


「妾はその存在にしか気が付かなかったのじゃが……」


「何かあるといけないと思って、俺たちに届く前に消しておいた」



 ミラとティアはその言葉に納得していたが、ユーミアは若干の恐怖を感じていた。ミラの攻撃はまだ目に見えた。だがソラのすることは目に見えず、何をしているのかを全く把握できない。それが言いようのない不安をユーミアに与えていた。

 そんなユーミアに気が付いたティアが、小さく耳打ちをする。



「私なんかの言葉が参考になるかは分かりませんが、ご主人様なら信頼しても大丈夫ですよ。種族を気にするような人ではありませんから」


「一先ずは参考にさせてもらいます。私では敵いそうにありませんから」



 余計なことを言ったかもしれないとティアは思ったが、ユーミアのその反応は仕方のないものだった。



「それでユーミアさん、どうやってるんですか? ……いや、どうやっているというよりも、どの程度の魔物までなら遠ざけられるかが問題なんですけど」


「……あなたたち人間が知っているかは分かりませんが、魔物同士の戦闘においては相性があります。私の場合は従えている魔物である使い魔が、対象が嫌うノイズを発生させることで遠ざけています。なので、ある程度の聴力と危機管理能力がさえあれば十二分に効果を発揮できます」



 それを聞いて、ミラが「ふむ」と一つ頷いた。



「それならば大半の魔物は問題ないのではないか? 聴力を持たぬ魔物の方が珍しい気がするのじゃが……?」


「私の使い魔によるノイズはあくまで不快感を与える程度です。それに加えて、私の戦闘能力はさほど高くありません」


「つまり、感知能力と戦闘能力が高い魔物は逆に激昂させることになるということじゃな。使い魔とやらで遠ざけられるレベルの魔物が住み着いているという条件を付ければ、場所もそれなりに絞られるじゃろう。ところで、お主はスキルを使えぬのか?」



 ミラはミィナに向かってそう問いかけた。



「えっと、私のスキルは……」


「その様子から察するに満足に扱えぬようじゃな。まあ、扱われたらそれはそれで脅威になりそうではあるのじゃが」



 ミラのその言い草に、ユーミアとミィナは驚きの表情を浮かべた。



「……私のスキル、知ってるの?」


「いいや、知らぬ。じゃが予想は出来る。命を刈り取る霧、といったところじゃろう? 大方、自分でも怖くて使おうとすらしたことがない、と言ったところかの」


「凄い、そこまで……」


「人間側にはミィナ様のようなスキルを持つ者が多くいるのですか?」


「いいや、別にそういう訳ではない。ただ、お主と同じように自分の力を恐れておった奴なら身近におるから、そう思っただけじゃ」



 ソラもかつて、自分のスキルに対して恐怖していた。だが、ソラはその恐怖を打ち破った――いや、打ち破らざるを得なかったと言った方が正しいかもしれない。

 その後、知識のあるミラとユーミアの二人を中心として話が進められ、いくつかの候補地が絞られた。



「後は生息している魔物じゃな」


「それに関しては、実際に行って確かめるしかありませんね。幸い、私は身を隠すのが得意ですし、ミィナ様一人なら抱えて飛べますから――」



 ユーミアのその言葉を、ミラが遮った。



「お主らがそれが良いというのならば止はせぬが、ここまで来たら妾たちも手伝っても構わぬぞ? 幸い、移動に関してはそこに得意な者がおるからな」


「そのぐらいの距離なら問題ないと思う。身を隠すのはそこまで得意ではないけど……」


「襲われたのなら返り討ちにすれば問題なかろう」


「それに、二人の潜伏先が分かれば物資調達も出来る。不審がられるといけないから、一度に大量っていうのは無理だけど」



 ミィナとユーミアが人間の領地に来てから三年が経とうとしていた。使っている日用品も、来ている服だって既にボロボロであり、限界などとうに超えていた。そもそも、ソラは自分がそうなることを想定してギルドという拠り所を利用していた。

 ソラの提案はこれ以上ないぐらいに魅力的なものだった。しかし、そこまで気にかけてくれる人間という存在を、ユーミアは信用しきれていなかった。



「私たちにそこまでのことをしたって、あなたたちに意味なんてありませんよ?」


「俺は意味を求めているわけじゃない。ただ、俺がそうしたいからしてるだけです。それに、もう少ししたらこちら側を離れるつもりでしょうし、ずっと面倒を見るわけじゃないのなら大した負担にはなりません」


「――っ⁉」



 ソラのその言葉は、ユーミアの不信感をさらに大きくかき立てた。魔族が人間を蹂躙する未来を理解した上での発言だったからだ。

 怯えるユーミアに、ソラは自分の確かな意思を伝える。



「俺は誰かの命令では動かないし、自分の行動は自分で決める。だからあなた方が人間を相手に何をしようと、俺の周りに被害が及ばなければ何もしない」



 それは敵対する可能性があると言う事を暗に示していた。

 だが、それと同時に一つの事実も示している。



「……つまり、何も起こっていない今は絶対に敵対しないと?」


「ユーミアさんたちが敵対するつもりが無ければ、の話ですけどね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る