第08話 焦り

「「「……っ!」」」



 ソラ、ミラ、ティアの三人は一瞬、状況が把握できなかった。

 ソラはビトレイの記憶を覗いて、ミィナとユーミアを最初に発見した人間がビトレイの創設したクランであるデスペラードの一員であること、ソラ達が魔族を庇っていることをビトレイたちが知っている事、そして王国がミィナとユーミアを捜索していることを読み取った。

 しかし、ルノウがビトレイへの情報を遮断していたせいでミィナとユーミアの場所を突き止めているかどうかは分からなかった。だから、ルーク達をギルドへと確実に送ってからこちらへと来た。



「ミィナ様! ユーミア様!」



 ティアの声が辺りに木霊する。しかし、その返答はなかった。

 小屋は大きな力でなぎ倒されたように上半分が雑に壊されていた。それが魔法の影響であることは、周囲の地面や木々の痕跡から簡単に察せる。

 ミラは小屋の内側でしゃがみ込んでいた。



「ミラ、そこに何か?」


「残念なことに、ミィナもユーミアもおらぬ。じゃが、幸いなことに妾の作った魔物除けの魔法陣は壊されていなかった。ユーミアの事じゃ、恐らくは――」



 ミラは他の部分と同化していた木の板をずらした。その下には鉄製の取っ手の着いた正方形の蓋があった。取っ手を引っ張って開けると、床の下に数人は入れるであろうスペースが現れた。

 それはユーミアに頼まれてミラが作った、多少の感知スキルならば回避できるほど隠密性に優れた空間だ。

 ミラが一人で入って中を見て回る。



「……食料は全て使い切るか持ち出すかしておるな。ここを襲撃された時点で中に誰かがいたのは確実。つまりミィナかユーミア、もしくはその両方がここで隠れていたことになる。置いてあった食料はここにある形跡から最低でも三日分はあったはずじゃ。普通に考えて襲ってきた時点でここに魔族がいることは敵も分かっておる。数日間隠れきるのは、片方が囮にでもならない限り難しいじゃろう」



 そうなると、確実にユーミアが囮となって敵の目を引き付けたことになる。ミィナでは敵の接近に気が付くことは不可能であり、そもそもこの隠れ場所をユーミアに教えてもらっていない可能性だってある。

 「しかし」とミラは首を傾げる。



「分からぬな。ミィナが敵が消えるまでの間耐え凌いだとして、どこへ向かうのかが。この辺りの村の場所は教えたが、人間と魔族の状況から察してそんな場所へ向かうようなことはせぬじゃろう。一体どこへ――」



 そこまで聞いて、ソラの脳裏に一つの場所が浮かんだ。

 それはソラが一人でミィナとユーミアの元を訪ねた時だ。



********************

「そういえば、ソラは普段どこにいるの? いつも来てもらうのも悪いし……」



 そう言われて、ソラは一つの方向を指さした。



「この方向にまっすぐ行けば着くよ。三日ぐらい歩き続ければ着くんじゃないかな?」

********************



「ご主人様……?」


「きっと……いや、間違いなく俺たちの所だ。前、ミィナに聞かれて一度だけ方向だけ教えた」


「そうか、それであの時妾たちの所へと辿り着けたのか」



 ミラがあの時と言ったのは、巨体の魔物の影響でミィナとユーミアの住処に魔物が集まってきたときの事だ。ミラは二人が逃げている最中に、運よくソラの感知範囲内へと入り込んだものだと思い込んでいた。



「ご主人様、早く行きましょう」


「妾の推測が当たっておれば、空中から辺りを見渡しながら高速移動できるユーミアはおらぬ。ミィナは自分の足でソラの指した方向だけを頼りに進んだはずじゃ。辺りで道に迷っていることも魔物に追われて道から逸れたことも考えられる。ソラは移動しながら出来るだけ遠くをスキルで探れ。近くは妾がやる」



 ソラはそれに頷くと、すぐにスキルを使って移動を始めた。





 結局、道中でミィナとユーミアを発見するようなことは無かった。

 そのまま自分たちの住居へと戻ったソラ達は、辿り着くなり扉を勢いよく開けた。そこには、小窓から差し込む夕日を浴びながら目を瞑っているハシクの姿があった。



「ハシク!」



 ソラのいつになく焦った表情に、ハシクは何かを察したような口調で答える。



「突然ここへきてソラへ会わせろと騒いだ魔族なら、向こうへ走っていったぞ」



 ハシクがそう言って示したのは、ギルドがある方向だった。

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