第06話 地震
その日の夜、ユーミアは使い魔から送られてくる超音波で目を覚ました。
ベッドから起き上がると同時に、隣で寝ているミィナを抱きかかえる。突然体を抱えられたミィナは少しの間を空けてから、状況を把握して驚く。
「えっ、ユーミア?」
「すみません、ミィナ様。そのままじっとしていて下さい」
家の中にあるいくつかのマジックバッグを手に取ると、ユーミアは家を出て高く飛び上がった。木から伸びる太い枝に着地して、ようやくミィナを降ろす。
ミィナはユーミアが視線を下に向けていることに気が付き、同じように下を見る。だが、木が高い事と月明かりがほぼ遮られているせいで暗闇しか見えなかった。
「ユーミア、何かいるの?」
「はい。少し面倒な魔物が……」
ユーミアの視線の先にいるのは、レッドエイプと呼ばれる赤い体毛を持つ猿のような魔物だった。かなりの数で集団行動をし、知性と身体能力がかなり高いため手を出すのは危険だ。今は夜と言う事もあり、真上にいるユーミアたちを視認できていない様だった。
「どうしよう、ユーミア……」
心配げな声で問いかけるミィナに、ユーミアは即答する。
「逃げます。見つかるとかなり面倒なことになりかねませんから。そうですね……ソラさんが言っていた方向に逃げましょう。私たちに分かる安全な場所はそれ以外にありませんから」
ソラは出来れば来ないようにといったが、現状、それ以外の選択肢が無かった。
そう言うとユーミアは若干の不安を感じながらもミィナを抱えて飛んだ。目下にいる魔物に気付かれないように、且つ出来る限りの速度で。
☆
「「⁉」」
ある程度飛んだところで、二人の背中にゾクリとしたものが走った。何か得体のしれないモノが近づくなと二人の本能に訴えかけている。二人はそれに逆らってはいけないと直感していた。
その原因は紛れもなくハシクだった。魔物を基にして生誕した魔族は、魔物の頂点に立つハシクに怯えることしか出来ない。
ユーミアがあまりの衝撃に後ろへと下がろうとした丁度その時、唐突に声が掛けられる。
「俺たちに何か用?」
「ソ、ソラ……」
震える二人を見て一瞬首を傾げたが、ソラは何となくそれがハシクの仕業であることを察せた。ハシクから一度、魔族が魔物から派生したものだと聞いたことがあったからだ。
「とりあえず少し離れようか。二人には厳しそうだし」
ソラはそう言いながら、三人を少し離れた位置へと移動させた。
「話戻すけど、こんな時間にどうしたの?」
そう問いかけるソラに、ユーミアは事の経緯を簡単に説明した。
話を聞き終えたソラは一つ頷くと、ユーミアに問いかけた。
「その魔物がユーミアさんたちの所に来た理由ってわかりますか? 一応あの辺りは調べたので、魔物が来たのならかなりの距離を移動してきたことになるはずなんですけど……」
「さあ、私には……。ただ、彼らは縄張り意識が強く、好んで長期間同じ住処で過ごす傾向があります。理由が無ければ動くようなことは無いはずです」
「……調べるしかなさそうですね。ミィナ、ユーミアさん、付いてきてもらっていいですか? 俺は魔物に詳しくないので」
「うん」
「構いません。ミラさんとティアさんは呼ばなくていいのですか?」
「俺一人で行きます。ティアは寝てるだろうし。ミラは何かあった時のために居てもらいます」
「そうですか。……ところでソラさん、先程近づいた時に何か威圧的なものを感じたのですが……」
「魔物が近づかないようにしてるんです。悪いんですけど、それに関しては聞かないでください」
ハシクは人間側の魔族側のどちらかに付くことは無い。いや、付いてはいけない。そう言う立場にあるから、ユーミアやミィナに説明するわけにはいかなかった。
しかし、それを説明せずともユーミアの脳裏には別の疑問が浮かんでいた。魔物が近づかないようにしているのなら、一体何からティアを守るためにミラは居るのだろうと。さほど時間をかけずにユーミアはその答えを察したが、それ以上は聞かなかった。
「ソラ、早く行こう? そうじゃないとせっかくソラ達にもらったものが……」
「それは別に気にしなくていいよ。無くなったら俺たちでどうにか出来るし。でも、原因は早く突き止めた方が良いかもしれない。何か大きな問題が起こってるといけないし」
そう言うと、ソラはユーミアたちの住処がある方へと向いて移動するために、移動先の状況を把握する。それを一瞬で終わらすと、ミィナとユーミアの方へと視線を向けた。
「二人とも、準備は良い?」
「うん、大丈夫」
「私も問題ありません」
二人のその様子を確認し終わると、ソラはスキルを使って移動した。
☆
最初と同じように木の枝の上から、下を見下ろしたユーミアはぼそりと呟いた。
「こんなに
ユーミアは目下の今まで生活していた住処を見てそう呟いた。住処の周りに魔物の姿はあったが、それだけではなかった。その周囲には様々な魔物が集まってきていた。
暗闇のせいで全く見えないミィナは何度も目を凝らしていたが、結局何も見えなかった。
「ユーミアさん、あの魔物がどの方向から逃げてきたのか分かりますか?」
「確か……」
ユーミアは家の向きを一度確認してから、一つの方向を指した。
「向こうだったと思いま――」
ユーミアがそこまで言った時、地面がぐらりと揺れるのを感じた。その衝撃で、木の枝にぶら下がっていた実が雨の様に降り注ぐ。
下からは魔物の悲鳴のような声がいくつも聞こえてきた。
「二人とも、一応身構えといて。俺も出来る限りのことはするけど、何が起こるか分からないから」
二人が頷いたのを確認してから、ソラはユーミアが示した方向へと移動した。
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