第05話 決意

”後悔をしない使い道”



 ソラから掛けられたそんな言葉が、ミィナの頭の中でぐるぐると回っていた。

 食料調達のためにユーミアと別れ、一人になった。そんな状況なら、尚更強く脳裏に浮かんでしまう。



「私にとって、後悔をしない使い方……」



 ミィナがスキルを使えば、貧困街の皆を助けられたかもしれない。しかし、果たしてそれをして後悔をしなかったと言えるだろうか。今でさえ、魔族全体から危険視されて追われてしまっている。皆を一時的に助けられたとしても、余計に被害を広げることになったかもしれない。



”私には……まだ分からない……”



 そうは答えたものの、いつか本当に答えを出せるのかさえ分からない。ミィナの周りには何か目的を持って動いている人ばかりで、目的を探している人なんていなかった。だから、いつか分かると勘違いしているのかもしれない。

 だが、ミィナにもただ一つ絶対に間違っていると思えるものがあった。



”力で守れるモノは少ないくない”



 ソラの放ったその言葉が正しいことは、ミィナも知っていた。だが、自分のためという理由で他人を傷つけるべきではない。そう思っていた。

 ミィナの生まれ育った場所は、エクトのスキルを知っている者がいるという理由で壊された。果たしてミィナが、ユーミアが、街の者がなにをしたというのだろうか。



”力ってのはどんな形であろうとどう使うかはそれを持っている者に委ねられる”



 ソラの言葉を思い出し、ミィナはその通りだと思った。ミィナやセントライル家に降りかかった悲劇は、全て魔王の事情だ。

 しかし、魔王とは違う力の使い方をしている者もいる。ソラやミラもそれに含まれはするが、ミィナにとってそれが正しいと思える者が一人いる。今もなお一人で努力しているでろう、ハーミスだ。誰一人傷つかないようにしつつ、皆を守るために力を使っている。

 その時、初めて自分なりの正しさが分かった気がした。誰一人傷つけることなく、皆を助ける。それがミィナにとっての正義。だが――。



「私のは……違う……」



 今のミィナが持っている力はハーミスのそれとは大きく異なる。誰かを傷つけることでしか誰かを守れない力。それはミィナにとって正しいと思えるものではなかった。意図して使ってしまえば絶対に後悔する。今のミィナには、そうとしか思えなかった。





 それから一時間もしないうちにミィナは必要な量を集め終え、ミラの作った小屋へと戻っていった。



「ただいま、ユーミア」


「おかえりなさい、ミィナ様」



 そう言いながら帰ってきたミィナを見て、ユーミアはいつもとほんの少し様子が違うことに気が付く。



「……ミィナ様、何かありましたか?」


「ユーミア、私決めた。私のスキルはもう使わない。ずっと考えてたの。それを使うべきなのかどうかって。使えるようになれば皆を助けられるかもしれないって」



 ユーミアはそんなミィナの言葉を、真剣な表情で聞いていた。

 今まで、ミィナの行動は他人が主体だった。周囲の変化に流されつつも、その行動の主軸は他人のため。だが、ミィナが今言葉にしようとしているのは他でもないミィナ自身の考えだった。



「私は他の人を傷つけることを正しさとは思えない。だから、誰かを傷つけることしか出来ない私のスキルは使わない。でも……ソラの言う通り、力が無いと守れないモノは沢山ある。だから……」



 幸運なことに、ミィナには血統によって得ることの出来る権力がある。現在それは別の者の手にあるが、ミィナならいずれ手にすることが可能なものだった。



「だから私はハーミスが私のために守っている力を貰って、みんなのために使いたい」



 仲間を失う苦しさを知っている。

 だから自分に力があるのなら、それをさせないために使いたい。そして、それをするために相手に苦しさを強要するよなことはするべきではない。ミィナはそう思った。



「皆のために使って……誰も苦しまないような世界を作りたい」



 ミィナの両親にも、今のミィナを見せたかった。ユーミアはそう思った。

 ミィナは常に受け身で、周りの状況に翻弄され続けていた。それが今ようやく、自分の状況を理解した上でミィナなりの答えを導き出せた。

 ユーミアはミィナの言葉に対し、笑顔で答える。



「ミィナ様らしくて良い考えだと思います。ミィナ様がそれを望む限り、私は全力で応援させていただきます」


「うん! ありがとう、ユーミア」



 そう言ったミィナの顔には満面の笑みが浮かんでいた。



(これなら私がいなくても……)



 ずっとミィナを支えてきたユーミアだったが、ここに来て初めてそんな考えが頭をよぎった。

 今までのミィナには何かしらの道しるべが必要だった。例え、最後に選ぶのはミィナ自身だったとしてもだ。ユーミアはずっとそれを示してきた。だが、自分なりの答えを出せた今のミィナにそれは必要ない。そして、今ミィナを守れるのは自分だけではない。魔族側にはハーミスやパミアがいて、人間側にはソラやミラ、ティアがいる。

 だからユーミアは自分がいなくても、ミィナは一人で歩いて行けると思えた。



「ユーミア……?」



 成長したミィナに感動を覚えつつ、自分の考えに浸っていたユーミアはその言葉で我に返った。



「いえ、何でもありません。ただ、ミィナ様は大きく成長されたなと思っていただけです」



 ミィナはそれを聞いて、自信ありげに胸を張る。



「次は私がユーミアを――皆を守ってあげる」


「その時が来るのを楽しみにしてます」



 ユーミアはどこか安心したような笑みを浮かべてそう答えた。

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