第08話 宣戦布告
砦を通過し、件の化け物たちは王都へとやって来た。
殿として砦に残った者たちのお陰か、それほど数は多くなかった。それに加えて、実際に戦った者から証言まで得ることが出来ている。
まず一つ目の確証として、蝙蝠型の化け物は魔法を行使している人間へと向かってくる。それならば――。
「放てっ!」
スフレアの言葉で、地面を走る化け物へと魔法が飛んでいく。その図体の大きさのお陰もあって、命中させることはさほど難しくない。魔法のほとんどが命中し、敵を蹴散らしていく。
そうして地上型の化け物を魔法に任せ、逆に魔法を使っている者を狙ってくる化け物を――。
「右前方から27体来ます!」
「中央部隊の真上からおよそ10体、垂直に降下して来てます!」
後方から状況を監視している兵士から、そんな言葉が飛んでくる。
「パリス、お前らは右前方の敵を頼む!」
ルバルドはそう言うと、目にもとまらぬ速さで数回真上へ向かって大剣を振るった。その軌跡は弧の形を描き、斬撃となって真上へと飛んでいく。それらは上空の化け物を一匹残らず撃ち落とした。中にはどうにか急所を外したものもいたが、それでも関係なかった。
ルバルドは足元で悶えるそれらを見てから、周囲へと聞こえるように声を張り上げた。
「翼だ! 翼を狙え! 片翼さえ傷つけて地面へ墜とせばトドメは簡単にさせる!」
そう言いながらルバルドは墜落している化け物一匹一匹に確実にトドメを刺していった。それが終わると、すぐに周囲の警戒へと当たる。
そんな様子を横目に、パリスとライムもどうにか向かってきた蝙蝠型の化け物を倒すことに成功していた。
ルバルドと同じようにトドメを指しながら、パリスは一人呟く。
「なるほど。生身の生き物にとっては鋭い刃でも、僕らの装備している剣に比べれば脆い」
「みたいだね。空中の敵に対して近接武器で、地上の敵に対して魔法で応じる。砦で戦っているときに気が付くことが出来れば……」
王都へと向かってきた時点で、確実に砦は陥落している。もっと早く気が付くことが出来れば、状況はここまで悪化しなかっただろう。砦を守り切れなかったとしても、ガリアやシーラを失わずに済んだかもしれない。
そう考えると、ライムは肩を落とさずにはいられなかった。
「確かに、そうしていればここまで追いつめられることは無かったかもしれない。でも、その犠牲が無ければ僕らはそれに気が付いた上で対策を立てる事なんて出来なかった。今僕たちがすべきことは――」
後方から再び、空中から敵が襲ってくるという情報が入る。パリスは指示を受けた場所へと向かいつつ、言葉を続ける。
「国の為を思って犠牲になった命を無駄にしない事だ」
その言葉に頷き、走り出すパリスにライムも続いた。
☆
かなり時間は掛かったものの、どうにか敵の殲滅には成功した。
そして――。
「お兄様、ライムさん! ご無事で良かったです」
「うん。レシアも無事で良かったよ」
そんな会話を横目に、ライムは辺りのざわめきに気が付いた。
「……ねぇ、二人とも。あれって――」
ライムが指さした先では、何かを囲うように人々が大きな円を作っていた。
「僕らも行ってみよう」
パリスのその言葉で、三人はそちらへと向かっていった。
人垣をかき分け、どうにか一番前へと出た三人の目の前に飛び込んできたのは一人の魔族だった。虚ろな目でただ歩き続け、ぶつぶつと同じ言葉を繰り返していた。一切武具を装備しておらず、この場所に来るにはあまりに無防備すぎる。
パリスは近くにいたスフレアに問いかけた。
「スフレア副兵士長、あれは一体……」
「戦闘が終わった後、向こう側から歩いてきたそうです」
そう言いながらスフレアが視線を向けたのは、パリスたちがついこの間までいた砦がある方向だ。
スフレアはさらに言葉を続ける。
「攻撃をする素振りも無かった事から、警戒しつつも距離をとって観察していました。この魔族の目的は、恐らく私たち人間への伝達でしょう。少なくとも観察を開始してから今まで、ずっと同じ言葉を繰り返しています」
三人がふらふらと歩く魔族の方へと耳を傾けた。途切れ途切れの言葉だったが、パリスたちがいる場所からでもどうにか聞き取れた。その魔族が話していたのは――。
「三十日後……日が落ちる……と共に……ここを……襲う……全力で……迎え撃って……見せろ……三十日後……日が落ちる……と共に……ここを……襲う……全力で……迎え撃って……見せろ……三十日後……日が落ちる……と共に……ここを……襲う……全力で……迎え撃って……見せろ……三十日後……日が落ちる……と共に……ここを……襲う……全力で……迎え撃って……見せろ……三十日後……日が落ちる……と共に……ここを……襲う……全力で……迎え撃って……見せろ……――」
それは、時間を指定した宣戦布告だった。
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