第04話 重荷
ハーミスは即座に民衆の鎮静化に動いた。ハーミスと親交が深かった者は何か意図があるのだろうと真意を察し、大人しくしていた。だが、それはあくまでも一部である。現在セントライル家の領地において、ハーミスは権力と引き換えに主人を殺したと言うのが通説となっていた。サウストの想定通りハーミスは反感を一人で背負い、魔王やサウストに対する反感は薄らぐこととなった。無論ハーミスを責める者は少なくなく、セントライル家に仕えていた兵士でさえハーミスの味方とは言えなかった。彼らは解雇され、現在セントライル家を支配する兵士は全てサウストの息のかかった者だ。
そんな中、セントライル家の現当主であるハーミスの元へとサウストは訪れた。
「よぉ、ハーミス。調子はどうだ?」
「民衆の反感を抑えるので精一杯で、それ以外の事は手を付けられていない状態です。彼らを抑えるための戦力を派遣してくださっているサウスト様には感謝しかありません」
「気にするな。反乱してきた民衆は拘束するだけにしているらしいが、見せしめも必要だとは思わんか?」
「それをしてしまえば更なる反感を買うだけです。セントライル家の民衆は横の繋がりが非常に強い。それは私がよく知っていることです。もし命を奪うようなことをしてしまえば、間違いなく反感はより大きなものになります。今は私の所だけで済んでいますが、恐らく――」
そう言ってハーミスは窓の方へと視線を移した。目下にある屋敷の門前では、言い争いをしている兵士と民衆の姿があった。
「確かにここ以外に被害が出るのは困るな」
「それでサウスト様、今日はどういった御用件でしょうか?」
「あぁ、忘れるところだった。お前の元主人――ドレアには娘がいただろう? 確か名前は……」
「ミィナだったと記憶しております」
「そうだ、ミィナだ。あいつが見つかってなくてな。お前の主人が襲われた時、お前の元同僚に連れられて何処かに逃げたらしいんだが……」
「恐らくユーミアと言う名の女性ですね。確かサウスト様の部下が早急に捜索に当たっていたと……」
「そうだ。魔王様のところに届けられた情報を元に逃げられる範囲を特定して捜したんだ」
一定以上の権力を持った魔族と、その配下の情報は全て魔王の元へと届けられる。その中にユーミアの情報もあった。但し、それは正しいものではない。ドレアは元より好奇心で動いているような節がある魔王に対して肯定的ではなかった。故に配下の中で隠密行動と高速移動に最も長けた手段を持ったユーミアの情報を、本来の能力よりも低く提示していた。ユーミアは秘書として有能だったためドレアが好んで彼女を傍に置きたがる理由をそれだと周囲は思い込み、違和感を覚えることは無かった。
結果としてそれは意味を成した。サウストの手下は偽装された情報から導き出した、ユーミアがとっくに通過した場所を現在も捜索し続けている。
「それを私に捜し出せと?」
「いや、提案をしたいだけだ。お前には監視が付いているから隠し事をすることは不可能だ。だからあり得るとしたら民衆。あいつらの中に庇っている奴がいる可能性がある。正体は分からないが何かしらスキルを持っていたようだし、こっちとしては両親に続いてさっさと処分したいんだ。そこで民衆の中でそういったことを出来そうな奴らを調べ上げて欲しいって訳だ」
「それはやめた方がいいかと」
「何故だ?」
「現状、情報を封鎖しているためにミィナが生きている事を知っている者はセントライル家の領地にはいません。もしそれが知れれば民衆は正当ではない方法で地位を手に入れた私ではなく、ミィナを次代当主として迎えるでしょう。ドレアの正統後継者である、ミィナと言う大きな柱を手に入れれば民衆は――」
「より強気に反乱に出る、か……。ったく、面倒な話だ。武具は粗方回収しているわけだし、この杭は出てから打つとするか。それと、これは魔王様の臣下からの書簡だ」
「私なんかに一体何の……」
「それは知らん。俺が見ていいようなものじゃないだろうからな」
そう言いながらサウストはハーミスに筒形の入れ物を渡し、立ち上がった。
「用はこれだけだ。ドレアの娘に関しては見つけ次第殺せ。記録には無い強力なスキルを持っているらしいから、使用される前に殺すのが好ましいだろう。先に言っておくが、庇う行為は魔王様の意思に反することになるからな。ま、今のお前を見ているとかつての従順さは取り繕ったものだったようだからあまり心配はしていないがな」
サウストの目から見ても、ハーミスの民衆に対する態度はかつてドレアに従順に従っていた従者とは思えないほどに冷たいものだった。
「そう育てられたので、単にその選択肢しかなかったんですよ」
「従者も信用できねぇな、俺も気を付けるとするか……。お前も気を付けろよ、俺以上に危ない状態なんだからな。民衆のストッパーであるお前はまだ必要だ。死んだら死んだでこっちも困る。精々長生きしてくれよ」
それだけ言い残すとサウストは部下を連れて部屋を出ていった。ハーミスは一息つくなり、サウストから渡された筒状の入れ物から書簡を取り出して目を通した。
「……」
驚きのあまり、少しの間ハーミスは口を開けたまま動きを止めていた。それは一通の招待状。それも魔王と直接会う事の出来る場への。
これはチャンス。ハーミスはそう思った。今の監視されている状態ではユーミアとミィナの支援など到底できない。だが、魔王と言う後ろ盾を手に入れればサウストもそう簡単には干渉できなくなる。ハーミスは目を瞑り、一つ息を吐いた。出来る出来ないではない。ミィナの両親をその手を掛けた自分は、それを成功させなければならない。ハーミスはそう自分へと言い聞かせた。
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