第04話 仕事

「そっか……。エクト、本当に魔王になったんだ」



 場所はセントライル領の領主が住むための屋敷の一角。

 ユーミアから話を聞いて、ミィナは窓の外を見ながらそう呟いていた。



「じゃあ、私ももっと頑張らないと!」



 ミィナはそう言いながら机で山積みになっている書類に視線を落とした。しかし、ペンをとろうとするミィナの手はユーミアに掴まれた。



「ダメですよ、ミィナ様。少し働き過ぎです」


「でも、みんな頑張ってるし――」


「確かに全員が頑張っていますが、適度に休憩は取っています。休みなしで働いているのはミィナ様だけです。それに、ミィナ様が倒れでもしたら余計に迷惑が掛かることだってあるんですよ」


「そうだけど……でも、今は頑張らないと――」



 頑なに休もうとしないミィナに、ユーミアは苦笑いを浮かべながらため息を吐いた。



「分かりました。では、仕事として散歩に行きましょう。領内の様子を自分の目で確認して、実際に民の声を聞くことはとても大切ですよ? それと、仕事に必死になるあまり、ソラさんたちの事忘れてませんか? ミィナ様がセントライル領内に住むことを許可したとしても、皆はあの反応だったんです。一度様子を見に行くべきだと思いますが……」



 ミィナは物凄い速さで支度をして、ユーミアと数人の護衛を連れて屋敷を出た。





「おはようございます、ミィナ様」


「ミィナ様! これ、良かったら食べて下さい!」


「ミィナ様だー! 私のお菓子半分あげるー!」



 ミィナは外を歩くだけで次から次へと声を掛けられ、若干戸惑いつつも一人一人と会話をしていった。

 その度に何か困ったことは無いか、して欲しいことは無いかと訊ねた。しかし、ほとんどの者からはこう返って来た。



『ミィナ様が休んでくれない事です』



 ミィナはどこか不満そうな顔をしながら、ユーミアへと問いかけた。



「ねぇ、ユーミア」


「なんでしょうか、ミィナ様」


「どうして皆私が休んでないって知ってるの?」



 ユーミアはわざとらしく首を傾げて言った。



「さあ、どうしてでしょうね……? 屋敷の護衛の誰かが話したのかもしれません。護衛と言っても、休日は街で生活していますから」



 そう言われてミィナは後ろにいる護衛へと疑惑の視線を向けたが、全員が「私ではないですよ」とにっこりとした笑みで答えた。



「それより、街を散策した感想はどうですか?」


「皆困ってることが無さそうだった。気を遣ってくれてるのかな……? 何でも言ってくれていいのに」


「本当にないんだと思いますよ。ミィナ様がお休みをとらないこと以外は」


「私、そんなに無理してるつもりはないんだけどな……」



 そんな会話をしながら、ミィナたちは街を出た。



「……あれ? ソラ達って今どこに住んでるの? 私てっきり、街のどこかで生活していると思ってたんだけど……」


「余計な問題を避けるために、あまり魔族と接触しない場所に家を作って住んでいるそうですよ。ミラさんがいればどこにでも住居は作れるみたいですし」



 そう言われて、ミィナはソラ達に居場所を作ってあげたいと皆の前で宣言した時の事を思い出した。



「そうだったんだ……」



 申し訳なさそうに俯くミィナに、ユーミアは笑みを浮かべながら言葉を掛ける。



「最も、今ではミィナ様が今想像したような状況ではないみたいですけどね。確かに人間がこの場所に住むことを快く思っていない方もいますけど、近いうちにそう言った考えも無くなるかもしれません」


「それってどういう……?」



 首を傾げるミィナを横目に、ユーミアは前方を指さした。その先にある木々の隙間の向こう側に、木造の家らしきものが見えている。



「ミィナ様、見えてきましたよ。あそこが今ソラさん達が住んでいる家です」



 辿り着いたミィナの視界に入ったのは満面の笑みを浮かべている魔族の子供に囲まれたソラの姿だった。

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