第06話 来客

 それは、ミィナのスキルが消えてから数日後の事だった。



「魔王様、人間の事について一つ報告したいことが――」



 エクトはそう言われ、表情を引き締めた。

 しかし、内容を聞いてみれば大事ではなさそうだった。関係があるのは魔族と言うよりも――。

 さて、これをどう処理したものか。

 そう思って眉間に皺を寄せていたエクトに声が掛かる。



「どうかされましたか、魔王様?」


「あぁ、ハーミスさん。実は、人間領からこちら側へこんな手紙が多く投げ込まれているみたいで……」



 そう言いながら、エクトはハーミスに一枚の手紙を渡した。

 内容を簡潔に纏めれば、現在魔族領にいる人間であるソラ達と会いたいと言うものだ。丁寧に四人分の名前まで書いてある。

 それを見て、ハーミスは首を傾げた。


「ハーミスさん、どうかしました?」


「先日ソラさん達の所を訪ねた時に、ギルドと呼ばれる組織でのお話を少し聞いたのです。その場所には、ソラさん達を師匠と慕う者がいるとも。その者たちの名前も聞いたのですが、ここに書かれている名前はどれも私の存じ上げない者ばかりです」


「そうなると、本当にソラさんの知り合いかどうか分かりませんね」


「ですが、あて名がソラさん達である以上無碍にすることも出来ないでしょう。一度ソラさんの元を訪ねて、直接聞いてみてはどうでしょうか?」



 エクトは、ハーミスの言葉に従うことにした。

 その結果として、ソラの元に向かうのはエクトと言うことになった。ミィナが忙しく働いているのと同様に、エクトもまた、暇のない日々を送っていた。

 その休息と、先代魔王の死後数日間で世話になった礼をするためにエクトが選ばれた。



「と、言う訳で僕が直接来ました」



 エクトは一通りの説明を終えてから、そう付け加えた。

 場所はソラ達が生活している住処。机を挟んだエクトの向かいにはソラ、ティア、ミラの三人が座っている。机の上には、エクトが持ってきた高価な果物が入ったバスケットが置かれている。



「なるほどな。それでソラよ、心当たりはあるのかや?」


「ルーク達じゃない四人組となると、無い訳じゃないけど……」



 可能性としては、ソラが王都で知り合ったライム、パリス、レシアと言ったところか。しかし、四人となればもう一人いることになる。今の人間と魔族でプレスチアが来ることはまずないだろう。

 となると、カリアぐらいしか浮かばないが……。

 ソラの意図を読み取ったのか、ティアが口を開く。



「あまり考えられる可能性ではないですよね。あちら側の状況は分かりませんが、王族が来るなんてことは流石に……」


「まあ、中身を見たら早いか。エクト、それって俺たちが見てもいいの?」


「はい。確認してもらうために来たわけですから」



 そう言って、エクトは一枚の紙を机の上に広げた。ソラ達に見やすいように、向きを合わせる。



「カリア、パリス、レシア、ライム。ソラ達が外れると言った予想が当たったようじゃな」


「じゃあ、本当に王族がこんな手紙を⁉」


「カリアという名の方が、人間の国の姫です。ですが、エクトさんが危惧するような事は狙っていないと思いますよ。ご主人様や私が関わっていた時からかなり活発な方でしたから、恐らくご自身の意思かと。三年間お会いしていませんが、周囲の反対を押し切る姿は簡単に想像できます」



 ティアの言葉に、エクトは胸を撫で下ろした。



「それなら良かったです。大事になることは無さそうですね。それで、ソラさん達はこれを見てどうするおつもりですか? 一応、魔族側と人間側の関係になります。強制はしませんが、出来れば教えて欲しいです」



 エクトにそう聞かれたティアとミラは、ソラの方へと視線を移した。ここまでソラの意見を中心に行動してきた。そして、それはこれからも変わらないだろう。

 何より、今回の件は間違いなくソラとの接触を目的にしたものだ。



「ソラよ、どうするのじゃ?」


「私はご主人様の意見に従います」



 そんな二人の言葉に、ソラは迷うことなく答えた――。

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