第03話 移動
ハーミスの一通りの説明を聞き終わった一同は、これからの行動について話し合っていた。
「ミィナ様にはユーミアと共に私の使い魔を使って移動してもらいます。目的地は人間と対峙している砦です。あの辺りには手練れの者もかなりの数がいるので、ユーミアの指示に従って出来る限り見つからないようにして下さい」
「発見された場合にはどうすればいいのですか?」
「ミィナ様を連れて逃げてくれ。私の使い魔なら時間稼ぎぐらいはできる。一応到着地点は目的地の砦からかなり離れた場所にしてあるから、よほどのことがない限りは見つからないはずだ」
ハーミスは続けて、パミアに声をかける。
「パミアは私と一緒にセントライルの中心街に戻ってくれ。その後は元の仕事に戻ってもらう。無論、ここでの出来事は他言無用で頼む」
「分かりました」
「私はセントライルの屋敷に戻り次第、準備を整えて砦へと向かってセントライル領を離れる」
「ハーミスさんとはどのタイミングで合流すればいいんですか?」
「こちらから迎えに行く。仮に私以外の者が近づいてきたときは警戒しておいてくれ。もし戦闘になりそうになったら――」
「ハーミスさんの使い魔を囮に、ミィナ様を連れて全速力で逃げる。それでいいんですよね」
「あぁ、その通りだ。二人には少し待ってもらうことになるかもしれないが……」
「大丈夫です」
「私も大丈夫。ユーミアがいるから」
その会話の後、四人はすぐにその場を立ち去ることにした。どんな場所にいようと、ミィナが危険であることに違いはないからだ。
小屋の外へ出ると、木々の隙間から日差しが差し込んでいた。
「パミア、短い間だったけどありがとう」
「パミアがいなければ私の傷もきっと治りませんでしたよ」
「いえ、私がしたことなんてハーミス様やユーミア様に比べれば……。ですが、いつかは何かの形でミィナ様のお役に立ちたいです。なのでミィナ様、必ずまた会いましょう。それがどこで叶うかは分かりませんけど……」
「うん! まだパミアには教えてもらってない料理沢山ありそうだから」
「分かりました。次お会いする時には医療ではなく料理でお役に立たせてもらいます」
元気よくそう答えるミィナに、パミアは苦笑いを浮かべながらそう返した。
ハーミスはミィナとユーミアが使い魔に
「二人の事、頼んだぞ」
体格のせいか、頷いたりはしなかったがハーミスの意思はきちんと伝わったようで、やがてハーミスに背を向けて進みだした。ハーミスとパミアは、使い魔に揺られながらこちらへと手を振るミィナとユーミアをその場から見送った。
二人の姿が見えなくなった時、パミアがぼそりと呟いた。
「お二人、大丈夫でしょうか……」
「大丈夫さ。何かあってもユーミアがどうにかしてくれるはずだ。正面からの戦闘になったからこそあんな傷を負っていたが、逃げることに関して右に出る者はいないからな」
「……私、生まれてからずっと
「こればかりはドレア様が意図的に隠していたから仕方ないさ」
「ドレア様が?」
「隠密と高速移動に長けたユーミアは
「そうだったんですね……」
それから少し間を空けてから、パミアはハーミスに問いかけた。
「ハーミス様、私に何かできることは無いですか? ハーミス様やユーミア様が頑張っているのに、何もできないのが歯がゆくて……」
「今はない。今まで通りの生活をしていてくれ」
「そう……ですよね……」
ガックリと肩を落とすパミアに、ハーミスは何かを悟らせるように声をかける。
「この世界には適材適所がある。ユーミアは私のそれを見極める能力を随分と過剰に評価していたようだが、それは少し違う。私はただ、必要になった人材を調達できるように他者との繋がりを作っていたに過ぎない」
「それはどういう……?」
「私はパミアの助けが必要な場所を見つけられない。だが、それはあくまで現時点での話だ。セントライル家の事情を知っている者は少ない。きっと――いや、間違いなくこの先パミアが必要になることがある。その時は是非手伝ってもらいたいんだが……」
パミアが顔を上げると、ハーミスはうっすらと笑みを浮かべていた。
「はい、その時は是非っ!」
「そう言ってもらえると助かるよ。それまでは料理の練習でもしておいてくれ。あくまでも本業の医療をしながらではあるが」
「分かりました。ミィナ様のご期待に応えられるように頑張ります」
ハーミスはパミアに元気が戻ったのを確認してから、パミアと別れた。パミアはつい最近までユーミアやミィナと共に過ごした集落を経由してセントライルへ戻り、ハーミスは来た道をそのまま戻る。
道中、ハーミスは一度深呼吸をして気合を入れ直した。
この場所はセントライル領。だから集落を自分の息のかかった者だけで作り出し、不審者がミィナに近づかないように護衛することも出来た。だが、ここから先は違う。砦はセントライル領ではなく、言ってしまえば魔王の所有物である。当然、そこにいるのは魔王に付き従っている者であり、内通者などいるはずもない。
「更に三年か……」
十年間もの間、ミィナに貧困街で暮らさせた。ミィナがそれに不満を持っていなかったとしても、ハーミスにはその事実が罪悪感としてのしかかっていた。
そして、この先三年間は人間領で暮らさせることになる。果たして、人間を滅ぼしたところで本当に魔王の目の届かないところにミィナを置くことが出来るのか。そんな不安が脳裏をよぎったが、ハーミスはすぐにそれをかき消した。現時点で人間領の方が安全であることは間違いないのだ。セントライル領だって、そう遠くない未来に『生物を死滅させるスキルの持ち主』の捜索範囲に入るはずだ。それが確実と言えるほどにミィナのスキルは危険で強力なものだった。
「今はミィナ様とユーミアを人間領へと送り込むことに集中しなければ……」
ハーミスは頭の中で作戦を再確認しながらセントライル家の屋敷へと向かっていった。
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