第15話 警戒
ソラ達が部屋で会話をしている間、天井裏には、ルバルドやスフレアに気付かれないような『隠密』のスキルを持っている人間がいた。そして、その者の目はティアにくぎ付けになっていた。
(スキルが……消えている……⁉)
スキル『鑑定』。持っている者が全く無い訳ではない。ただ、数は圧倒的に少ない。未知のものが少なく、見た目から動きやスキルがある程度特定できる魔物に対しては大きな意味を持たない。しかし、対人、対魔族において見るだけで相手のスキルを見抜けるそれは、そう言った状況が多い場所では大きな意味を持つ。ティアを見ていたのは、そんなスキルを持つ者の一人だった。王族すら知らないルノウの管理下にある組織。生来のスキルは二つ以上持っているだけで珍しいと言われている。彼はその一人であり、さらに『隠密』のスキルと相手を見抜ける『鑑定』のスキルという、相性の良いスキルを持っていた。そんな人材を派遣するほどルノウはソラの持つ未知のスキルに危機感を感じ、警戒していた。そしてその危機感は、奇しくも当たってしまった。
スキルは通常消える事は無く、基本的にそれはあり得ない。だが、目の前にはそれを可能にする者がいる。未知のスキルを持ち、奴隷紋さえ消してしまえるほどのスキルを持つ者が。その事実に驚愕しながら、その者はルノウの元へと走った。
「まさかスキルまで消せるとは……」
ルノウは話を聞いてそう一人呟いた。スキルの有無は、特に戦闘の場において大きく影響する。それを消せる。それはやろうと思えば国の戦力を大きく下げることが出来ることを意味する。だが、それと同時に敵対している魔族に対して圧倒的なアドバンテージにもなり得る。
ルノウは気になったことを報告しに来た者に聞く。
「彼の目的を知っているか?」
「村を守る力を得るためにここに来たと言っていました」
それは普通に聞けば褒められた目的。だが、言い方を変えれば王都で力を得て、国のために使うことなく出ていく。ルノウにとって、それは危険分子と捉えるには十分過ぎるものだった。もし、王都を出ていったソラが敵対するようなことになれば……。
「殺しますか?」
そう言った部下にルノウは首を横に振る。
「いや、待て。彼も、彼に渡した奴隷も、カリア姫を含めた王族とつながりを持ってしまった。目立つ行動をすれば流石の私でもタダでは済まんだろう」
「では、如何様に――」
「王都を出てからだ。あくまでも儂らとの関係を知られないように――もっと別の理由で死んだように見せかけろ。レイル、お前は今まで通りにして出来るだけ情報を集めろ」
「ハッ!」
そう言うと、レイルと呼ばれたルノウの部下はそこから去っていった。
☆
その頃、ソラはティアに与えられた部屋の掃除を手伝っていた。
「っと、こんなもんかな」
「ありがとうございます、ご主人様」
「ティアほど器用じゃないからあんまり役には立ってないけどね」
そこへ、ブライ達を城へと送り届けたスフレアが戻ってきた。
「かなり奇麗になりましたね」
「はい。ティアの手際が良かったので。それでスフレア副兵士長、何か御用ですか?」
「ティアの服のことでお話に来ました。どうやらカリア姫は自分のおさがりを渡すつもりらしいのですが――」
その言葉にティアは首を横に振る。
「私が言うのも違うと思いますが、せめて普通の市民が着るような服がいいです」
「そう言うと思って、カリア姫には話を付けてきました。明日、私が適当に見繕ってきます」
スフレアは、ソラとティアが声を掛けるよりも早く「明日は丁度非番で暇なので気にしないで下さいね」と付け足す。
「後はこれ、私のお古で申し訳ないのですが、ティアに差し上げます。せめて身なりは整えないと、付き人のあなたがそんな姿だと周りのソラへの視線が少し厳しいものになりかねませんよ?」
「そ、そういうことなら……」
そう言ってティアは申し訳なさそうにスフレアからシンプルな木製の解き櫛を一つ貰った。
「では、私はもう寝ますので。ソラも早く休んだ方がいいですよ。明日も早いですから」
「そうします。櫛、ありがとうございました」
そういうソラに合わせて、ティアは頭を下げた。そんな二人に手を振って返し、スフレアは自分の部屋へと戻っていった。
「じゃあ、僕ももう寝るから」
「はい。お掃除、手伝ってくれてありがとうございました」
☆
月が辺りを照らしている、そんな時間。ティアは一人夜道を歩いていた。そして、ある建物へと入っていく。
「ルノウ様、報告に来ました」
「あぁ。それで、ソラのスキルについては何か分かったのか?」
「触れたものを消せるスキルと言っていました」
「それ以上の情報はないのか?」
「はい、それ以上は本人も分かっていないようでしたので」
ティアのその言葉にルノウのスキルが反応する。スキル『言葉の真偽』。相手が口に出した言葉の真偽を確認することが出来る。そして、そのスキルは今現在、ティアの言葉が偽りであることを示していた。ティアが持っていたスキル『服従者』によって、ルノウはティアに嘘をつかないことを命令していたにもかかわらず。そして、それはティアが意図的に嘘を吐いたことにもなる。つまり、ティアは自分からそのスキルが消えたことを知っている。
ルノウの中には一つの疑問があった。ソラが意図せずスキルを消してしまったのではないかという疑問。だが、ティアがスキルが消えたことを知っているという事は、消した本人から聞きでもしない限り分かることはほぼ無い。そして意図的に消したとすれば、ソラはスキルを使って相手のスキルを知ることが出来る。そうでなければそんな芸当は不可能だ。
ティアとのそれだけの会話で、ルノウのソラに対する警戒度は一気に増した。
「ソラは私とお前が繋がっていることに気付いている様子はあったか?」
「いえ、全く気付いている様子はありません」
その言葉を聞いた瞬間、ルノウの背中を冷たいものが走った。その言葉を嘘だとスキルが訴えてきたからだ。表情にこそ出さなかったものの、ルノウはこれまでにないぐらい動揺していた。
「お前は私のことについてソラに何か話していないだろうな」
「はい。ご主人様に対して、ルノウ様のことは一切話しておりません」
これまでに感じたことのない衝撃。そして戦慄。ティアのその言葉には嘘はない。そう、ティアが話していないのに自分とティアのつながりを知っている。にも拘わらず、ティアを傍に置いている。それはルノウにとって恐怖でしかなかった。ソラが何を考えているのか、ルノウには全く分からないのだから無理もない。
「今日はもういい。命令通り、見つからずに来れる日は毎日来い」
「畏まりました」
そう言ってティアはその場を去った。
だが、ルノウの悪寒は止まらない。なぜ自分の事を知っているのか。そしてどこまで知っているのか。知った上でティアを傍に置いているのはどういった考えの元なのか。ルノウの頭の中をそれらの疑問がぐるぐると回る。
ティアからの話を聞き終えたルノウは、自分の中でのソラに対する警戒度を最高レベルまで引き上げた。
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