第03話 錬金術師
「――これで妾の話は終わりじゃ」
ミラの話を聞いて一瞬の沈黙が降りた。
予想をはるかに超えた内容に、それを全く知らなかったティアとハシクは開いた口が塞がらない。そんな二人を横目に、ミラは窓の外に目をやる。
「もうこんな時間か。妾とハシクはともかく、ソラとティアは食事が必要じゃな」
「そういえば僕が寝ている間、ティアは何も食べなかったの?」
「いえ、森に自生しているものをいくつか。ミラ様とハシク様が食べられるものは教えてくださったので。それに、ミラ様が作ってくださった道具があれば調理は簡単ですので」
「我は普段自然の中で生活しておるからな。そのぐらいの見分けは付く」
「妾は元からある程度の知識は持っておるからな。とは言ってもハシクほどではないのじゃが」
「そっか。それでミラが作った道具って言うのは?」
それを聞いて首を傾げるソラに、ミラが声を掛ける。
「錬金術の手慣らしにいくつか魔道具も作ってみたのじゃ。どうせなら役に立つものをと思ってな。手始めに作ったのが調理器具なのじゃよ。あっちにあるのじゃが見てみるか?」
「うん、そうさせてもらうよ」
そう言って立ち上がろうとしたソラはふらりとバランスを崩しかけるが、どうにか持ちこたえる。そんなソラの隣へとすぐに移動し、ティアが支える。
「ご主人様、大丈夫ですか⁉」
「大丈夫、ちょっと立ち眩みがしただけだよ」
「ソラは全力でスキルを使ったのは初めてじゃったのか?」
首を縦に振るソラに、ミラは言葉を続ける。
「恐らくその反動じゃろう。まだ体が慣れておらんのじゃよ。初めてのスキルを使う時と同じようなものじゃろう」
そう言われて、ソラは初めてスキルを使った時のことを思いだした。母親を守る一心でスキルを使い、それと同時に気を失ったことを。
「お主は大人しくしていろ。我も手伝う」
「……いや、手伝うぐらいなら出来るかも。ティア、その食べられるものってまだ残ってる?」
「少しは残っていると思いますけど……」
「持ってきてもらってもいいかな?」
そう言われてティアは食べきれていなかった内の一つを持ってきた。それは薄い緑色で、リンゴのような形をした果物だった。ソラはティアの手の上にあるそれを見るなり目を瞑り、集中する。次の瞬間には、ソラの手元にはそれと同じものがあった。
「ご主人様、今何を……」
「僕の感知範囲にあるそれと同じものを移動させたんだ。ほら、スキルで移動するのと同じ要領で」
ミラはそれを聞いて、少し考える素振りを見せてから口を開いた。
「ソラ、その範囲と言うのはどのぐらいじゃ?」
「どの位と言われると説明し辛いんだけど……。僕が村の周辺を消したのが限界だったからあのぐらいかな。……そう言えばあの場所はどうなったの?」
「妾が適当に直しておいた」
「直した⁉」
「魔法と錬金術を使ってな。まあ、直したと言うよりは
意識がもうろうとしていたとはいえ、ソラもその規模は理解していた。それを修復するミラを凄いと思うと同時に、一つに気になったことがあった。
「なんでわざわざそこまでのことを?」
「妾が蘇ったと思われるといろいろと面倒じゃからな。まあ、王都へと戻らぬと言うのならばお主たちにとっても好都合であろうが……」
ミラが封印されたのは遠い昔の話。だが、ミラは自身の異常性を理解していた。そして、そのことが現在へと伝わっていないとは考えていなかった。ミラ・ルーレイシラの封印が解けたとなれば騒ぎになり、生活しにくくなるのは目に見えている。
そのためにミラはわざわざソラのスキルを使った跡を自然な形に修復したのだが、偶然にもソラにとっても良い結果となった。ソラはスキル故に狙われた。その理由となったスキルでさえ、本来の力を隠していた状態だった。そんなスキルの全力をあんな形で残してしまえば、追跡されないとは考えにくい。
「ありがとう、ミラ」
「気にするな。元はと言えば自分のためにやったことじゃ。それよりも、村があった場所の様子から察するにソラは地下にある資源も取り出せたりするのかや?」
そんな言葉を受け、ソラは手元に引き寄せた果物を近くのテーブルに置くと、再び集中し始める。それからさほど時間を掛けずに、手元にごつごつとした形の鉱石を引き寄せた。
「ふむ。地下深くにしかない貴重な金属じゃな」
それからミラは少し考える素振りを見せてから、再び口を開く。
「ソラ、王都に戻らないにしても森の中で生活するのは限界がある。どこか行く当てはあるのかや?」
そう言われてソラは一考したが、今のソラの知識では一つしか思いつかなった。かつて馬車の中でパリスが話してくれた内容をどうにか辿る。
「ギルドかな。僕じゃそれぐらいしか思いつかない」
「ではそちらへと向かうとしよう。今更王都の戻ったとしても、妾が復讐するべき相手はおるまい。それでも国を許すつもりは無いのじゃがな。一先ずはお主たちに同行するとしよう。妾は『鑑定』スキルを
「問題ない。我らを追いかけてきた者は全員死んでいる」
「でも、僕のスキルの範囲外にいたりしたら――」
その言葉にミラは首を横に振った。
「それはない。確かにスキルの範囲外にも人間はいたようじゃが、妾が殺しておいた。エネルギーはあるに越した事は無いからの」
そんなミラの言葉に、ティアとハシクが首を傾げる。
「「エネルギー?」」
「この体はいわば人形じゃ。それに妾の魂を定着させて動かすにはそれ相応の力がいるのじゃよ。妾はそれをするためのエネルギーとして、錬金術において最も万能なものを使っておる」
錬金術は無から有にする術ではない。有を形を変えて同等の有へと変換する術だ。ミラの体は錬金術でとあるものを燃料として動かしている。土は土に、鉄は鉄にしかならない。だが、ミラがエネルギーと呼ぶそれはあらゆるものに変換できる。
「それは――そうじゃな、分かりやすく言えば
錬金術は、例えば土を変形させる場合でも一度で習得できる事は無く、何度も挑戦して熟度を上げなければならない。初めの内は思うような形に出来なかったり、調整に失敗してモノが崩れることもある。
そんな錬金術においてミラが生命を正確に使えると言う事実は、それを何度も扱ってきた過去があることを証明していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます