第07話 道
セントライル領中心街の一角で、数十人の武装した魔族が暴れていた。その倍以上の兵士が周りを囲んでいるが、暴れている魔族を抑えるまでには至っていない。理由はたった一つ――。
「俺たちの仲間を解放しろ!」
かつてミィナの両親を死へと追いやった魔族であるサウスト。今叫んでいるのは、彼の配下にある兵士だ。セントライル領ないし領主ハーミスの監視役として派遣されてきていた。
ミィナの生存を皆に知らせる少し前、ハーミスは自陣へと付いてくれる一部の者を除いて、彼らを地下牢へと放り込んだ。サウストの元に返しても良かったが、出来る限りセントライル領の変化を悟られるのを遅らせるために軟禁という形をとった。反乱などが起こる気配は全くないが、未だに体制は整っていない。サウストの監視下にあったせいで、いままで満足のいく体制を整えられなかったのだ。
そして、地下室へと放り込み損ねたのが彼らだ。自分の配下ではないと言う事もあり、ハーミスが把握していた人数と若干のずれがあった。
「お母さんっ!」
人質となっている女性の娘がそう叫びながら人垣をすり抜けるように進み、さらに囲んでいる兵士をもすり抜けかけた。しかし、それは途中で阻まれる。阻んだのは暴れている魔族を囲んでいる兵士ではなく――。
「何だ、ミィナ様お気に入りの人間じゃねぇか。お前でもいい、俺たちの仲間を解放しろ! さもなければこいつを……」
そこまで言って、その魔族は驚いた。つい先ほどまで手元にあったはずの人質が、目の前の人間の傍へと移動していたからだ。
人質にされていた女性は、突然のことに何度か瞬きを繰り返した。少しして状況を理解したのか、自分の元へと駆け寄っていた子供を抱き寄せた。
「こいつって、誰の事ですか?」
笑顔でそう聞くソラに、顔を真っ赤にして武器を手に取った。
「まあいい。確かここの連中は奪うことも奪われることも望まないんだったな! だったら俺たちを殺すことなく止めてみろよ! この獲物で……」
次の瞬間、彼らは体が突然軽くなるのを感じた。そして、その理由はソラの方へ視線を移すとすぐに分かった。自分たちが先程まで装備していた武具が、ソラの足元で太陽を反射している。
「そろそろ止めにしませんか? 俺はミラと違って――」
ソラの言葉を気にすることなく、やけになった魔族たちが突進を開始した。
「拘束するようなやり方は出来ないんだけどな……」
ソラは誰にも聞こえない声でそうごちった。
ミラならば錬金術を使って地面を変形させ、体を拘束することが出来る。だが、ソラにはそれが出来ない、相手にけがをさせないようにするにしても、多少は手荒になってしまう。
「「「「「「「――っ⁉」」」」」」」
ソラのスキルを受けた魔族と、周りでその様子を見ていた魔族が目を見開いた。ソラへと襲い掛かっていたはずの魔族は上空三十メートルほどの場所へと移動させられたからだ。そして、そのまま落下を開始する。
三十メートルなど、そのまま落下すれば軽いケガでは済まない。彼らが地面へと付く直前で悲惨な姿を想像して誰もが目を瞑った。しかし、誰一人として地面へと衝突することは無かった。彼らの体が、地面へと衝突する直前で再び上空三十メートル地点へと移動させられたからだ。
上空三十メートル地点と地上数ミリ地点の片道落下は何度か繰り返され、数人が意識を失い始めた。
「このぐらいでいいか」
ソラは地面へと付く直前で彼らの重力を一瞬だけ消して、地面へと着地させた。目が回っているのか、誰一人としてまともに立ち上がれない。
ソラは彼らに近づき、うち数人に触れた。
仲間がそれ以上いない事を確認すると、次は兵士の方へと視線を移す。
「すみません、この人たちってどこに連れて行けばいいんでしたっけ?」
自分たちの代わりに無力化してくれたソラにそう言われて、セントライル領の兵士たちはハッと我に返る。
「いえ、後は自分たちでやっておきます! ご協力ありがとうございました!」
そう言ってから手際よく枷を付けていく兵士たちをソラが見ていると、後ろから声が掛かる。
「お疲れ様です、ご主人様」
「ありがとう、ティア。さてと、それじゃあ買い物に戻ろうか。それで、料理の方はどう?」
ティアは申し訳なさそうに口を開く。
「……少し試行錯誤の時間が欲しいです」
「それじゃあ、俺はハシクと味見役でもさせてもらおうかな」
周囲が未だ唖然としている中、ソラ達はその場を去った。
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