第08話 報酬

 翌朝ルーク達は村を出て、昼頃にギルドへと到着した。



「はい、クラリィの分」


「あ、ありがとうございます……」



 ルークから渡された布袋には決して多くはないが、初めての依頼達成の報酬が入っていた。



「その……三等分でいいんですか? 倒した魔物の数で言えばルークさんの方が多いですし、費用で言えばフェミさんは――」



 初めての魔物討伐という事もあり、今回はルークが先導して散策していた。そのため、必然的に討伐数はルークの方が上となる。また、道中刃の切れ味が落ちないように、フェミが逐一武器のメンテナンスをしていた。切れ味が落ちれば刃を鋭くし、刃が欠ければ所持していた鉄を継ぎ足すと言った具合である。



「別に気にしてなくていいよ。僕らもこうしてもらってたから」


「ルークさんたちも?」


「クラリィには私たちが師匠と一緒に依頼を受けてた時の事話したことあったよね? 実はあの時も報酬は私たちと師匠たちで半分ずつだったんだよ。いつかは何かしらの形で恩返ししたいとは思ってるけど……」


「僕たちに出来て師匠達に出来ないことなんてほとんどないから、難しそうだよね」


「その時は私もお手伝いします。私もネロ様には返しきれないほどの恩がありますから。勿論、ルークさんとフェミさんにも」


「僕らの分は師匠への恩返しを手伝ってもらうだけで十分だよ」


「そうだね。他の何よりも難しそうだし」



 そんな話をしながら建物から出た時、フェミが何かを思い出したように口を開く。



「クラリィはどこで寝泊まりしてるの?」


「まだ決まっていません。ルークさんとフェミさんがよろしければ近くがいいです。そちらの方が心強いですし……」


「僕らが使っている宿はかなり古いけど、それでもいいならいいよ? 僕たちとしても、クラリィにはこれからも一緒に依頼を受けてもらいたいし」


「師匠たちの影響で、良くも悪くも目立っちゃってるしね。あんまり――というか全然いないよね、私たちと関わろうとする人」


「そうなのですか……。私もお二人とご一緒出来れば嬉しいです」


「とにかく宿の方に行こうか。古い代わりに安い宿だから、僕ら以外にも人が多いんだ。空室があるといいんだけど……」





 宿へと入り、空室を確認したルークが戻って来る。



「一か月後に一室空くみたい。その間は……師匠の所にでも泊めてもらえばいいんじゃないかな。僕とフェミも行くつもりだったから一緒に行くよ」


「何かネロ様に用があるのですか?」


「用と言うよりは修行かな。僕が躊躇いなく仕込み武器を使えるの師匠ぐらいしかいないし」


「私も錬金術教えてもらえるの師匠しかいないから……」


「錬金術は他にも使える方がいるのではないですか?」


「いるよ。いるんだけど何というか……」


「フェミ、素材買いに行くんだったら実際に見学した方が早いんじゃない?」


「それもそうだね。クラリィ、師匠たちの所に行く前に少し寄り道したいんだけどいい?」


「はい。別に急いでいるわけでもありませんし、私も見てみたいので」



 そんな会話をした後、ルーク達が向かったのは主に工房へと鉱石の原石を売っている場所だ。





「おう、フェミちゃんか。今日も同じのでいいのかい?」


「はい、お願いします」



 顔見知りの商人から数キロの原石を受け取ると、フェミはそれをマジックバッグへと仕舞った。



「相変わらずでけぇマジックバッグだな。ほんと、あんたらの師匠はそこが知れねえな」



 そんな言葉に対して苦笑いを浮かべつつ、フェミは代金を渡した。その後二言三言話してから、フェミは本題へと入った。



「一つお願いがあるのですが、少し精製の作業を見学させてもらえませんか? 出来れば後ろの二人も一緒がいいんですけど……」



 そう言いながら、フェミは後ろにいるルークとクラリィへと視線を向けた。



「あぁ、いいぜ。お得意様だから少しぐらいサービスしないとな」



 商人に連れていかれた場所では、数十人が魔法陣の上に原石を置き、作業をしていた。彼らの手によって原石は徐々に崩れ、余分な成分がポロポロと崩れていく。



「どうだ、うちにはかなりの手練れが揃ってるだろう?」



 その言葉に頷きはしたものの、ミラのそれを見たフェミからすれば時間がかかり過ぎていて、成果物も不純物だらけに見えてしまう。ミラが人前で見せたのは火属性と光属性の魔法のみ。そのため、ミラが錬金術師だという事を知っている者はルーク達を除いてギルドにはいない。



「フェミちゃんも錬金術は使えるんだろう? 良ければここで働かせてやるが……」


「ありがたいお話ですが、遠慮しておきます。私は冒険者として生活すると決めているので」


「まあ、分かってたけどな。気が変わったらいつでも来てくれよ」


「はい、ありがとうございます」





 ギルドを出てソラ達の住居への道中、クラリィは質問を投げかける。



「あの魔法陣は何なのですか?」


「師匠や私は使ってないけど、あれが普通なんだよ。錬金術師は用途によって魔法陣を描いて、錬金術を実行する。魔法陣によって効果も変わるし、扱える物質も変わる。だから錬金術師としての才能って魔法陣を正確に実行させることが出来るかと、どれだけ簡潔で正確な錬金術を実行できる魔法陣を描けるかで決まるんだよ」


「では、ミラさんやフェミさんが使っているのはその上位互換、みたいなものなのでしょうか?」


「一概にもそうとは言えないんだよね。魔法陣は何も自分しか使えない訳じゃないから、誰かが考えれば不特定多数の人が使える。それに、魔法陣を変更するだけで見たことが無いの物質も扱うことが出来る。それに比べて私がやっているのは一つの物質を錬金術で扱えるようになるまで時間がかかる。その代わり、魔法陣が無くてもすぐに使えるから冒険者としてはこっちの方が便利なんだよ」


「そうだったんですね。……でも、ミラさんは――」


「えっとね……。クラリィもそのうち分かると思うんだけど、師匠たちは完全に別次元なんだよね。私、師匠が暇つぶしって言いながら色んな金属を合成しているところを見たことあるんだけど、全部おもちゃみたいに扱ってたんだ。そもそも錬金術で金属の合成って、そんなことが出来る魔法陣ライリス王国直属の錬金術師しか知らないはずなんだけど……」



 さらに言えば、武器に使われる金属をいくつか扱えるようになったフェミからすれば、それらを合成することがいかに難しいかをよく分かっていた。原石から目的の物質だけを取り除くよりも、二つの物質を掛け合わせるほうが格段に難しい。少なくとも、今のフェミでは絶対に出来ない技術である。



「恩返しは難しそうですね……」



 そんなクラリィの言葉に、ルークとフェミは思わず苦笑いを浮かべた。それでもいつかは……。三人はそう心に誓い、ソラ達の住居へと足を進めた。

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