第三章 ギルド

第01話 理由

 ギルドマスターはルーク達とロートのメンバー、つまりソラ達の事情を知っている人間を集めていた。



「急に呼び出して済まなかったな。一応、お前らには本当の事を話しておきたいんだ」



 その言葉に、ロートのリーダーであるウィスリムが口を開いた。



「……ということは、やはり王国からの伝達は誤りだったという事ですか?」



 王国からの伝達。

 それは魔族との戦争の事だ。魔族の大群との衝突後、王国はソラ、ティア、ミラの三名を人間への反逆者として改めて定めた。その背景の説明は一切なく、ただソラとミラがルバルドに匹敵するほどの実力を持っているとだけ伝えられた。

 その後に国王と魔王との対談があったことも既に伝えられている。魔王はソラとミラの二名の人間と共に脅しを掛けて来た。その脅しの内容とは、魔族側への攻撃を一切行わないことと、魔族の管理下に移った砦周辺に近づくことの禁止であり、その罰則は全力を以ってして蹂躙するといったものだ。



「すべてが誤りと言う訳ではないがな。まず、ソラ達に王国への恨みがあることは考えられるが、全ての人間を恨んだりはしていない。これはそこの三人が良く知っている事だろう」



 その言葉にルーク、フェミ、クラリィの三人が頷く。

 人間の中でソラ達と最も親しくしていたと言っても過言ではない存在だ。他の誰よりもソラ達の事を知っていると言っても過言ではないだろう。



「お前らは不満かもしれないが、これに関して言えばソラの狙い通りともいえるだろう」



 そう言われ、ルーク達は首を傾げる。



「ネロ様の……?」


「ウィスリム達は人間と魔族が衝突しかけてた時、その場にいたんだったな」



 そう聞かれ、リーダーのウィスリムと副リーダーのベルが答えた。



「はい。遠くからでしたが、衝突を止めた魔法も、暴れ出した魔族が消える瞬間もこの目で見ました」


「ソラ達が魔族側へと姿を消す前に、ルバルド兵士長と魔族の二人が一緒に会話していた所も見ています」


「そのルバルド兵士長から後に伝えられた話だが、ソラはその時点で王国が自分を敵だと周知させることを悟っていたらしい。だが、ソラにとってはそれが好都合だった。ソラは、ルーク達が孤児院出身だと馬鹿にされなくなった時と同じことをしたかっただけだ」



 かつて、ルークとフェミは出来損ないの孤児院出身という事で随分と見下されていた。それが突如現れたネロと言う正体不明の実力者と関わることによって、周囲の人間は容易に関わらなくなったと同時に、馬鹿にするようなことも無くなった。ソラ程の実力者と関わりを持ったことによって、周囲に影響をもたらしたのだ。



「つまり、師匠たちは僕たちが襲われないようにするために……?」


「そんな……。私たちのために師匠たちは……」


「……ギルドマスター、それは間違いない話なんですか?」



 クラリィの質問に、ギルドマスターは頷いた。



「ほぼ間違いないだろう。ソラ達が魔族を助けるために王国へ行ったのは知っているよな? その時、ルーク達が急襲から助かったことをルノウ大臣は知らなかった。だから、ソラ達の去り際に脅したそうだ。『三人は拘束している。無事に取り返したければ――』と」



 それを聞いて、その場にいた全員が思わず顔をしかめた。

 クラリィは身を乗り出して、ギルドマスターを急かした。



「それで、ネロ様は何と……?」


「『奪いたければ奪えばいい。殺したければ殺せばいい。ただ、その時はあんたが守ろうとしている人間を一人残さず殺す』。そう言い放った。そして、その場にルノウ大臣がいたと言うのが大きい」


「ルノウ大臣? あの人がいるのといないのとで、何かが変わるんですか?」



 ルークの問いかけに、ギルドマスターが答える。



「ルノウ大臣は言葉の真偽を見破るスキルを持っている。ソラはルノウ大臣の前でそう言い放ち、そしてルノウ大臣の持つスキルはその言葉を真実であることを示した。お前らも知っての通り、ソラとミラ・ルーレイシルの実力は多少腕の立つ人間が集まったところでどうにもならないレベルだ。王国の警備を掻い潜って国王の前に現れた挙句、あれだけ派手に城を破壊し、その場から逃げ切れてしまう。その時点で国の連中――少なくともルノウ大臣は悟っただろうな。どんな事情があろうと、ソラの周辺にいた人物を攻撃するような事をすれば確実に国が滅ぶ事を」



 その場に沈黙が降りる中、考える素振りを見せていたクラリィが口を開いた。



「……ようやく合点がいきました。ずっと分からなかったんです。あれだけ他人に対して容赦のないネロ様が、ルノウ大臣を殺さなかった理由が。ギルドマスターから今までに聞いた話から察するに、強すぎる執念を以って非道な行動も辞さない人間の頂点に立つのがルノウという人間。そして、ネロ様はそんな人間に対して絶対的な非攻撃を強制した。つまり、ルノウ大臣が失脚でもしない限り、ネロ様たちと親しくしていた人間が手を出されることはあり得ない」



 それに続いて、ギルドマスターが口を開く。



「ソラはルノウ大臣の失脚も無いと踏んでいたんだろうな。ソラ曰く、王国は変われないらしい。ギルドにあれだけの数のスパイを気が付かれずに送り込むには相当の月日を要する。今更後戻り何て出来ないとでも考えたんだろう。これに関しては俺も同感だ」



 ギルドマスターは少し間を空けて、言葉をつづけた。



「それともう一つ。国王が魔王と接触した際、ソラ達はその場にいなかった。人間を脅すことに、ソラ達は一切手を貸していない」


「……絶対に手を出してはいけないように認識させるためですか?」


「その通りだ、ウィスリム。ソラとミラ・ルーレイシルの実力は多くの人間が実際に目にした。王国が国民を脅す材料としては最高のものだろうな。多分だが、俺たちがソラと会う事はもう二度とない」



 ギルドマスターは、はっきりとした口調でそう言い切った。

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