第03話 謝罪
さて、何から話そうか。
プレスチアは馬車に揺られながら、そんなことを考えていた。向かっている先はギルド。その目的はたった一つ。ギルドの今まで通りの関係を継続することだ。
王国がギルドに対して行った事は、決して許されることではない。大量のスパイによる工作活動。身寄りのない冒険者の誘拐。そして、ギルドマスターがギルドの一員として認識していたソラ達への暴挙。
「許されはしないだろう。素直に謝るのが効果的だろうか……」
誰もいない馬車の中で、一人そう呟く。
プレスチアは直接会ったことが無いが、ギルドマスターの性格は聞いていた。仲間思いで、回りくどいことが苦手だと。
それならば、変な遠回りはせずに単刀直入に話を切り出すべきだろう。王国の人間の一人として、その罪を認め、平謝りする。そして、国王がこれから国を変えるために何をしようとしているのかを話す。
信用が無い事は分かっている。だが、信じてもらうしかないのだ。国王としてブライの覚悟と、これから国が大きく変わることを。例え信じてもらえずとも、失った信頼はこれからの行動で少しずつ取り返すしかない。
ふいに、馬車の小窓が叩かれた。外で馬に乗って周囲を警戒している兵士の一人だ。プレスチアが窓を開けると、一つ敬礼をしてから口を開いた。
「プレスチア大臣、もう少しでギルドに付きます」
「分かった、ありがとう。後少し、警備を頼む」
「お任せください」
兵士の力強い言葉に一つ頷いてから、プレスチアは小窓を閉じた。
目を瞑って一つ深呼吸をする。
ここで完全に信頼を取り戻す必要はない。しかし、出来る限りでギルドマスターの心を掴まなくてはならない。失った信頼は、プレスチアが生きている間に取り返せるようなものでは無い。ここでのプレスチアの努力で、未来の王国がギルドと関係を回復させる難易度が決まるのだ。
(私に出来る限りの事はしよう。次の世代の為にも――)
プレスチアはそう決意を改め、目を開けた。その瞳には、改めた決意が強く映っている。その奥にあるのは自分たちの築き上げた王国ではなく、パリスやレシア、ライムが築き上げるであろう未来の王国だ。
☆
コンコンッ、と扉をノックする音が響く。
「誰だ?」
「私です」
それは、副ギルドマスターであるヴィレッサの声だった。
「入ってくれ」
「失礼します」
そう言って入ると、ヴィレッサはギルドマスターの手元に視線を落とした。先程まで、何かを書類に書き込んでいたらしい。その手にはおしりに羽が付いたペンがあった。
普段滅多にやらない机仕事を大量に抱え込んでいるのだろう。机の左右には大量の紙の束が積みあがっている。
ヴィレッサはそれに対して言いたい事があったが、今はそんな場合ではないと言葉を呑み込んだ。
「ギルドマスター、王国から来客が来ています」
「来客? そんな話は……」
ギルドマスターは自分が忘れているだけなのだろうかと考えを巡らしたが、やはり何も思い当たる節が無かった。
「ギルドマスターの仰る通り、事前通達はありませんでした。なので、相手も時間が必要なら待機するとのことです」
「……いや、別にいい。王国とどういう関係を築くかはもう決めてあるんだ。時間なんて必要ない。すぐに通してくれ……と、言いたいところだが、これは少し散らかり過ぎだな」
ギルドマスターは、部屋を見渡しながらそう言った。
普段使いの机だけでなく、来客用のソファに挟まれている机の上にまで書類の山が出来ている。
「悪いが、少し待つように伝えてくれ」
「分かりました。片付けの手伝いは必要ですか?」
「馬鹿にするな。いくら机仕事が苦手でもこのぐらいは出来る。それで、誰が来ているんだ? ルノウ大臣でなければありがたいんだが……」
その言い方に少し呆れたが、ヴィレッサは何も言わなかった。ルノウに関して、良い印象を持っている人間はギルドには存在しない。
「安心してください、別の方です。三年前、ネロさんと交渉をしに来た兵士を覚えていますか?」
「……あぁ、あの三人組の……」
「今回来たのは、あの時来ていた内二人の父親です」
「確か、ルノウ大臣と同等の権力者だったが気がするんだが……」
「合っていますよ。ギルドにいらしているのはプレスチア大臣。ルノウ大臣と共に国を支える、王族に次いで権力のあると謳われている方です」
「凄い所が出て来たもんだな」
「腰が引けましたか?」
悪戯っぽい笑みを浮かべるヴィレッサに、ギルドマスターは首を横に振った。
「まさか。誰が来たって、信頼しないってことに変わりはない。寧ろ、変なことを言ってきたらこっちからガツンと言ってやる構えだ」
「それは力強い。でも、ほどほどにしてくださいよ?」
「それは相手の出方による」
その言い様にため息を吐きながら、ヴィレッサはその部屋を出た。
そして十分ほど経過した後、部屋の片づけを終えたギルドマスターはプレスチアを自分のいる部屋へと招き入れた。
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