第10話 料理
ソラとユーミアが小屋へと辿り着くのとほぼ同時に、他三人も到着した。
「ミラたちの方はどうだった?」
「食料に関しては問題ない。後は料理じゃが……」
「それは私にお任せください」
そう言って、ティアが名乗りを上げた。
「じゃあ任せるよ。俺もミラも役には立たないだろうし」
「ま、元よりそのつもりじゃったがの。そっちの二人は得意な方が手伝えば良かろう。これから先、二人で生活せねばならんのじゃからな」
「そうさせて頂きます」
「わ、私も手伝う!」
ティアはすぐに料理をしに向かい、その後ろにユーミアとミィナが続いた。しかし、その足はすぐに止まる。
「ミラ様、火はどうすればよいですか?」
「ん? あぁ、そうじゃったな。ソラ」
ミラは立ち上がり、料理台の方へと向かった。それと同時に、目の前の空間に大きな岩が何処からともなく現れる。それが地面へと落ちる前にミラは手で触れた。岩と料理台は変形しながらかまどの様なものを創り出した。
ミィナとユーミアがそれに驚いていると、カランッという音が中から聞こえてくる。二人が中を覗くと、乾いた枝がいくつかくべられていた。
「生憎、発火出来るようなものは持ってきておらぬ。今日のところは妾が手を貸そう」
ミラはそう言いながら指をパチンと鳴らした。それに連動するように、積み重なった枝に火が灯された。
「発火石は今度俺が持ってくるよ。安物にはなるだろうけど」
「あ、ありがとうございます……」
ソラとミラのいる場所から少し離れた台で料理は行われた。ティアは見たことのない木の実を一齧りして、料理方法を考案していた。そんなティアの指示に従い、ユーミアとミィナが手際よく作業を進めていた。
「お二人とも随分と手慣れていますね」
「私は使用人ですからある程度は。ミィナ様はいつもお手伝いをしてくださっていたので……」
そんな言葉に、ミィナは恥ずかしがりながら答える。
「ま、まだユーミアほどじゃないけどね」
「ティアさんもお上手ですよね?」
「私はいつもの事ですから。四人の中で料理が出来るのは私だけですから」
「「四人?」」
「え……? あぁ、いえ、今のは忘れてください!」
咄嗟にティアはそう答えた。普段はハシクも含めた四人で生活をしているため、四人と言ってしまったのだ。ソラが助けることを認めたとはいえ、ハシクの話を二人にしていいのかどうかの判断はティアには出来ない。
焦るティアを宥めるため、ユーミアは変に反応することなく話を続ける。
「一人で数人分の料理をするのは大変そうですね」
「そんなことはありませんよ。寧ろ、料理を出来て良かったと思っています。それぐらいしか私に出来ることはありませんから」
そう言いながらティアは椅子に座っている二人の方にちらりと視線を向けた。
「……やはり、あの二人は人間の中でも飛びぬけて強いのですか?」
「何故そう思うのですか?」
「ソラさんやミラさんが普通と呼ばれるようなら、とっくに魔族なんて滅んでいるはずだからです」
それはユーミアの正直な感想だった。魔王近辺の事情は知らないが、有力な権力者が持つ戦力なら見聞きする機会もあった。ソラやミラの使うスキルに対抗できるであろうスキルを持つ魔族を、ユーミアはただ一人を除いて知らない。
「……そうですね。ご主人様とミラ様が力を合わせれば――いえ、力を合わせなくともお二人が負けるようなことはあり得ないと思います。たとえ相手が魔物でも、魔族でも、人間でも」
「それは良かったです。そんな人間が助けてくれて私たちは幸運だったみたいです」
「ですが――」
「ずっと味方であり続けるとは限らない。そうでしょう?」
ティアは自分が言おうとした言葉の続きをユーミアに言われ、驚いた。
そんな反応を見て、ユーミアはにこりと笑った。
「どうやら図星のようですね」
「ユーミア、どういうこと?」
「ソラさんはソラさんなりの正義を持っているという事ですよ」
ミィナはまだ分からないと言った表情をしていたが、ユーミアはそれ以上のことを言わなかった。ミィナに言ってもまだ分からないと思ったから。
☆
その後三人が作った食事を平らげ、話は本題へと移る。
「端的に言えば、私たちの目的は人間を殲滅しながら迎えに来る仲間を待つことです」
ユーミアのその言葉にティアは驚き、ミラは真剣な表情で一つ頷いた。
「なるほどな、生き物を創り出せると言う例のスキルの完成を信じて待っておる訳か」
「なぜそのことを……⁉」
「どうやらお主らの仲間を拘束したらしくてな。どんな手段を使ったかは知らぬが、三年でそのスキルが完成するらしいと言う情報まで聞き出したようじゃ。混乱を避けるために一部の者にしか伝えておらぬようじゃが、前線でその造り物の相手をしておる者が漏らしたのじゃろう。ほぼ公然の事実と言っても変わりはないのが現状じゃ」
ミラの言葉通り、エクトのスキルが三年で完成を迎えると言うのはほとんど人間が知っている。そして、最大戦力が集まっているライリス王国が最も安全な場所ということも誰もが知っている。そのせいか、ほとんどの人口が王国に集中している人間たちはそれほど大きな混乱に陥る事は無かった。
「それにしても、他に出来ることもあるじゃろうに人間を殺すための兵器を作るとは……。面倒な奴がスキルを持ったものじゃな」
ミラのその言い草に、ミィナはガタンと音を立てて立ち上がる。
「違う! エクトはそんなんじゃ――」
ミィナは思わず出てしまった自分の言葉に驚き、咄嗟に口を手で押さえた。
「その……。ごめんなさい」
しょんぼりとしながら椅子に座るミィナを見て、ミラは一つため息を吐いた。
「いや、早とちりした妾も悪かった。どうやら面倒な事情がありそうじゃな」
ミラからの視線を受けたユーミアは、宙を仰ぎながら記憶を辿った。
「魔王様が人間との戦争に肯定的になった、というのが事の始まりでした――」
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