07.最強テイマー!?
「ってことは、お前のあの強さを見る限り、もしかして俺も最強テイマー!?」
ウキウキと訊ねる俺の予想に反して、リリスが難しい顔で首を捻る。
「う~ん……」
「どうした? 珍しく難しい顔して」
「何よ、珍しくって! ……えっとね、私が元のサイズに戻ってる間、紬くんの魔力の減り方が尋常じゃなかったのよね」
「なんか、メーターみたいなもんでも見えるの?」
「そう言うわけじゃないけど……なんとなくそう言うの解るのよ、悪魔には」
サラっと言ってるけど、おまえ、悪魔なのかよ……。
「ちょっとざっくりな数値になっちゃうけど……」
「うん」
「紬くんが、一度に使える魔力の総量が約十万……」
高っ!!
なにその、打ち切り直前のバトル漫画みたいなインフレ感!
いや、まあ、平均値を知ってるわけじゃないので本当にインフレしてるかどうかは解らないが……。
「因みに……そうだな、
「立夏ちゃんは……私が見た感じ、だいたい七百位だと思う」
「で、私を元のサイズに戻すと、一分間に一万くらい魔力を消費する感じ」
「燃費
「仕方ないじゃん! 私が考えた設定じゃないんだし!」
「じゃあ、おまえをまともに使役できる時間は十分くらいってこと?」
計算上は合ってるはずなんだが、またしてもリリスが顔を顰めて首を捻る。
「それが……私がいろいろ技を使うと、更に消費は激しくなるっぽい」
「ど……どのくらい?」
「例えばキューティーリリスアタック――ぐるぐる周りから突き刺したやつね」
あれ、そんな技名だったのか……。
「まあ、技名は私がつけたんだけど」
直ぐに変えろ!
「多分あれを使ってると、一分間に三万くらい減る」
なるほどね……。
リリスを大きくさせてるだけで一分間一万MP。
最後にやってた
そう考えると――――
「おまえをまともに使役できるのはせいぜい二~三分ってとこか?」
例えそれでも、いざというときにあの強さを使えるならかなり役立つはずだ。
「ただ……魔力が空になっちゃうと、応急的に体力を消耗するみたいなの」
「ん?
「そうなのよ……だから、下手すると即死ね」
そうなのよ……じゃねぇよ。
即死っておい!
イメージ的には、
メインタンクが空になった時点で予備タンクも一瞬で空になる。
「で……今回は大丈夫だったの?」
「大丈夫じゃなかったから、三日も気を失うことになったんじゃないかな」
「…………」
「紬くんが気を失って杖を落とした瞬間、私も今のサイズに戻ったから……ギリギリ命は助かったんだと思う」
「もうちょっとしっかり握ってたら……もしかしたら死んでた?」
「多分アウト」
なんという諸刃の剣――
いや、もしかするとこちら側を向いた片刃の剣レベルだぞそれ。
「一応、私の意思で魔力吸引を始めたり止めたりはできるけどね」
「あの杖を出してるからと言って、ずっとデカくなってるわけじゃないのか」
リリスが頷く。
「なら、ぶっ倒れた時点で魔力の吸収を止めることも可能?」
「理論的にはね。ただ、数万レベルで減っていく魔力を残り数百レベルで止めるなんて微調整、できる自信ないわよ?」
ぶっ倒れる直前までリリスを使うのは、超危険行為、ってことか。
「この世界での設定上、紬くんが死ぬと私だって消えちゃう可能性もあるし、私だって紬くんが死なないように気をつけようとは思ってるけど……」
なるほどね……だいたい理屈は解った。
一分だ。
安全マージンを取って、全力でこいつを使うのは一分を目安にしよう。
但し、スキル無しの通常使用に限れば八分くらいは引っ張れるか?
「とりあえずこうしよう。魔力が解放状態になった時でも、俺がOKするまで巨大化はするな。いいな?」
「解ったわよ」
「で、俺が下がれと言ったら、ちゃんと元に戻れ。いいな?」
「解ったってば」
「………」
「どうしたの? 両手なんか見つめて?」
「……あの杖は、どうやって出すんだ?」
「多分だけど……今までの状況を振り返ると、杖の名前を呼べば出てくるんじゃないかな?」
「名前? ……って、おれつえ~のこと?」
その瞬間、また両手に青い光が集まったかと思うと、例の二本の杖が現れる。
「そう言や確かに、どちらもおれつえ~の話をしてた時だったな……」
「うんうん」
「簡単なのは良いんだけど……もうちょっとこう……カッコイイ掛け声にならないの? 何だよおれつえ~って……」
「紬くんが考えたんじゃない」
「そもそも、武器の名前じゃねぇよ!」
まあいい。こんな単語、日常会話ではうっかり使うこともなさそうだし、そういう意味では安全性は高いかもしれない。
試しに二本を繋げてみる。
あの時と同じように、接合部分が光り、一本の棒になる。
気がつけば、幅四十センチ程に渡って、接合部を包むように白いテープが巻かれる。一本にした時にのみ現れるグリップ部分、ということだろう。
どうせノートの精のご都合設定だし、仕組みなんてどうでもいいが……うん、これはなかなか格好いいな。
リリカたんのアニメ通り、これは
ふと、隣で人の気配がする。
横を見ると、大きくなったリリスが正座している。
「おまえ! 俺がOKするまででっかくなるな、ってさっき言っただろ!」
「ああ、そっかそっか。ついつい……」
「さっさと縮め!
◇
「ねえあんた、本当に大丈夫なの?」
母が心配そうに後ろから声を掛けてくる。
「ああ。ミルクも飲んだし。もう少し落ち着いたら、また何か胃に入れるよ」
「食べ物もそうだけどさ。三日も寝てた後にこんなに直ぐに出歩いて……」
「ごめん。俺よりヤバかった奴いるし、そいつの顔だけは見ておかないと」
母の話ではまだ入院しているはずだということだったので、
この世界の病院に入るのは初めてだったが、正確に言うと「施療院」と言う名称の施設らしい。
施療院では、
教会らしき建物が併設されているが、司祭や修道士の本職を考えれば、施療院の方こそ協会に併設された施設、ということかもしれない。
元の世界と違って、専門的な医療行為を行う内科医や外科医は、いわゆる開業医のみで、施療院へは要請に応じて
施療院で行われていることは、基本的には魔法治療と療養ということだった。
病室に入ると、信二が退屈そうな顔で本を読んでいた。
タイトルは……『チート修道士の異世界転生』?
施療院の本だろうか? どこの世界にも似たような本があるものだ。
比較的重傷だったせいか、個室なので気は使わずに済みそうだ。
視線を感じたのか、顔を上げて俺と目が合うと、笑顔で手を挙げる信二。
「よう!」
元はと言えば俺が頼んでテイムキャンプに付き合ってもらったわけだし、嫌な顔をされたらどうしようかと思っていたが、
「
「ああ、なんか魔力を
「底なしレベルの魔臓を空にするって……何やったんだよ?」
「底なしなんてことはないさ。測定不能でも有限であることに違いはない」
とりあえず今は、リリスのことを何と説明していいのか解らない。
信二の質問に直接答えることは避けて、ベッドの横に置いてあった来客用の椅子に腰掛ける。
「面白い? その本」
「まあまあかな……主人公が異世界の修道女に告白されるんだけど、教会内での恋愛なんて、ちょっとありえないね」
「お前は理屈っぽいからな。そういうのは、細かいこと気にするな、って気持ちで読むんだよ」
「そんなもんかね。……そう言や、主人公の名前が
「へぇ。男に使うには珍しい名前なんだけどな」
信二が、栞を挟んで本を閉じる。
「こんにちは」
リリスがポーチから顔を出して挨拶する。
「ああ、リリスちゃん、こんにちは」
「それ、貰っていい?」
リリスの指差す方を見ると、袖机の上に、バスケットに入った見舞い品の
「どうぞ」と、微笑む信二。
「紬くん、早くっ!」
「へいへい……」
リリスを持ち上げて、鞄から机の上に移動させてやる。
こいつが
長い時間ではなかったし、みんなからも離れていた。雨も降ってたし、少なくとも信二からは死角になっていたはずだが……。
「怪我の方は、どうだ?」
「ああ、大したことないよ。欠損してる部分は無かったし、
「その……悪かったな、あんなところに誘って」
信二が持っていた本で俺の腕をパシンと叩く。
「そんなことで謝るなよ? あんなの誰のせいでもない」
「うん。まあ、そうなんだけど……」
「低ランクエリアとは言え、盾も持たずにフラフラしてた俺が迂闊だったんだ。唯一の
「おまえも、そんなことで謝るなよ」
信二がこちらを見てニヤリと笑う。
「そう言えばあのキラーパンサー、みんなから、最後は
「いやぁ……俺もよく解らないんだよ。気付いたらかなり弱りきっててさ……持ってた棒で引っ
一部省略してるが、嘘ではない。
「消えたって、どんな風に?」
「光って、小さくなって……どこかに飛んでいったな」
「それ、もしかしてテイム出来てるんじゃないか?」
「ええ? まさか!」
「ファミリアケース、覗いてみた?」
「いや、見てないけど……」
「帰ったら見てみろ。それ以外に、死体も残さず消える理由なんて思いつかない」
「お、おう……わかった」
仮にテイムできたとして……あのおっかないのをまた出すの?
「他のみんなは? お見舞いにきた?」
「
「可憐、どうしたんだよ?」
「自宅謹慎らしいよ。キャンプ予定表、代表者は可憐の名前だったからな。入山記録付けずに入ったことが問題になったらしい」
はぁ……。
とりあえず可憐の所には見舞いにいく必要がありそうだな。
「一応言っておくが、
「そうは言ってもな……一応、俺の為のテイムキャンプだったわけだし」
「多分、そんな理由で可憐に謝ったら、本で叩かれるどころじゃ済まないぞ」
「……気をつけるよ」
「それより、勇哉の凹み方がヤバわ」
「ああ、確かに……そうかもな」
入山記録の記入を頼まれて怠った張本人だからな。俺も、別に怒ってはいないが、あいつの立場になれば凹むのは無理もない。
「おっ!?」
俺の肩越しに、入り口の方へ視線を向けて信二が手を挙げる。
振り返ると、開けっ放しだった入り口から入ってきた
「また、来てくれたんだ」
「あの日、同じチームだったのに、私は何もできなかったし」
「そんなの気にすんなって言ったろ?」
「大丈夫。そんなに気にしてない。夏休みで暇だから」
「そっか」と、信二が笑う。
立夏が一人で信二の見舞いに?
もしかして、俺はお邪魔?
信二と立夏か……。お似合いだけど、物静かそうなカップルだ。
俺が座っていた椅子を渡すと、立夏が短く礼を言って腰掛ける。
今まで忘れてたけど、立夏の顔を見て思い出した。
俺、こいつに口移しでポーション飲ませたんだ!
立夏も、意識はあったけど朦朧としてたし、多分覚えていないだろう。
……とは言っても、今、立夏の顔を見るのは気恥ずかしい。
「じゃあ、俺はそろそろ……」
リリスを戻そうと袖机に手を伸ばしかけた瞬間、誰かに左手首を掴まれる。
見ると、俺の、左手を掴みながら立夏がこちらを見上げている。
「なに? 私が来たからって、逃げるみたいに?」
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