09.【立夏】七月十四日・可憐の家 <その②>
可憐の家に着いたときは、彼女は中庭で両手剣の素振りをしている真っ最中だった。
あんなものを一人でぶんぶん振って、強くなれるのかな?
でも、実際に可憐は強いし、なれるんだろうなきっと。
私はあそこまでストイックにはなれないけれど……。
「なに、あんたら、付き合ってるの?」
中庭に設置されたテラスから私たちを見下ろしながら、そう尋ねてきたのは
可憐とは家が近所同士で、よく遊びに来てるって言ってたっけ。
紅来の鋭い――もとい、頓珍漢な質問に、駅で偶然会っただけだと慌てて釈明する紬くん。
確かにそれは事実だけど……どうも彼の必死さが納得いかない。
『そうかもね?』とか、ちょっとはそういう関係を匂わせるくらいの余裕を持った返答はできないものかな?
あれじゃあなおさら紅来に
……まあ、この人じゃ無理か。
「ここに来るためだけに、そんな
私の服装を見ながら、さらに片目を
少しの間、あたふた言い訳をする紬くんを楽しんだ後、ようやく紅来も追及の手を緩めてくれた。
私たちもテラスへ登ってテーブルに着くと、紬くんがそっと耳打ちしてくる。
「立夏もなんか言えば? 誤解されるぞ?」
何を心配してるんだこの人は?
「別に。いい、どっちでも」
テーブルの上の籠に入った焼き菓子を一つ摘んで頬張りながら、ああ、もしかして……と、昨日のことを思い出す。
昨日、私と塩崎くんが付き合ってるなんて勘違いされて、私の機嫌が悪くなったのを見られたからかな。
塩崎くんと勘違いされるのはなんか嫌だったけど……言われてみると、紬くんとだったらそこまで嫌じゃないな。なんでだろう?
「ギャップが目を引くなら、今日の立夏ちゃんなんていかがでしたか?」
気が付けばまた、紅来の紬くん弄りが始まってる。
よく聞いていなかったけど、ギャップ萌え?の話題だったみたいね。
口に運んでいた紅茶のカップを、顔を隠すようにさらに傾けて……でも、カップの淵から紬くんの顔をそっと覗いてみる。
って、目が合った? なに?
「おいおーい! どうしたぁ、見つめ合っちゃって?」とすかさず突っ込む紅来に、
「はいはい。間違いなく今日の立夏は可愛い! それは認めるよ」と紬くん。
か、可愛い?
肩を跳ねあげながら、思わず残りの紅茶をゴクリと飲み干してしまう。
あ、熱い……の、喉が……。
紅来を
以前、川島くんに言われたときには、ただただ引いちゃったけど。
でも、今日はこの服を選んでよかったな……。
あれ? 焼き菓子、もうこんなに減っちゃったの?
……と思ってよく見ると、リリスちゃんがテーブルの上に出てきて焼き菓子を食べはじめていた。
この使い魔は、いったいなんなんだろう?
普通に考えれば精霊種なんだろうけど、精霊種がこんなに大食いだなんて聞いたことがない。かといって亜人種にしては小さすぎるし……。
「テイマーって、やっぱり、普段は使い魔を出しておかないもんなの?」
「…………」
「立夏?」
あ、ああ! 私に訊いていたのか。
紬くん、なんで私にそんなこと訊くんだろう。
英春兄さんがテイマーだったからかな?
その後、一
私だって専攻じゃないのでそこまで詳しいわけではないけれど、それにしても一般教養レベルにすら達していない紬くんの知識には驚いた。
まさか、私と話したくてわざと話題を振っているとか?
いえ……良い方に考えるのは止めておこう。
もう、未来に変な期待はしないって決めたのだから……。
素振りの鍛錬後にシャワーを浴びた可憐が、ノースリーブにショートパンツという出で立ちでテラスに出てきた。
タオルを持った両腕を上げて髪を拭くその袖口から、白い脇がチラチラと見えている。
そんな格好できたら可憐……ほら、案の定、紬くんが赤くなってる。
「可憐、可憐。その格好は刺激的過ぎて、純情少年が目のやり場に困るってさ」
「ああ、そうか……。ここに男子なんて来た事がなかったからな」
紅来に
「そうそう、キャンプの時は、おかげで助かった。ありがとう」と、可憐。
「いや、俺なんてポーション配って回ってただけだし、お礼を言うのはむしろこっちだよ。ありがとう」と、紬くんが手を振りながら答える。
ポーション……配って……。
その言葉を聞いたとたん、紬くんとの口移しのことが蘇ってきて顔が火照る。
どうやら紬くんも、言ってから気づいたのか、同じように赤面している。
「なんでそこの二人、赤くなってんの?」
さすが紅来。こういうのは絶対に見逃さないなあ。
「そう言えば昨日、二人でえっちぃ話、してたしね」
り……リリスちゃんまで!?
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