15-1.タナトスの器 <その①>
「なあ
「そうだな。だが、タナトスと召霊の契約を結んだのはあくまでも彼女の意思だ」
「そ、そりゃそうだけど! タナトス、もともとは聖さんの母親が処分し損ねた精霊じゃん。それに引導を渡すことができたのも、聖さんの力じゃねぇか!」
俺も、この世界の法律や世情にはまだ
ハァ……と、肩の上で溜め息をつくリリス。
「ほんと紬くんは、巨乳のことになるとすぐアツくなる……」
「そんな話、おまえの前でしたことねぇだろ! 茶々入れんな」
とは言ってみたものの、俺自身どうしてここまでアツくなっているのか、実はよく分かっていない。
もしかすると、タナトスとの戦いの
「落ち着け、ガキ共が」
毒島が、やや面倒臭そうに俺と勇哉を交互に見下ろす。
「〝通常は極刑〟と言ったはずだ。俺もタナトスの口から
「じゃ、じゃあ……」
「減刑の約束はできねぇぞ? ただ、俺だってそこらの三下団員ってわけじゃねぇ。こう見えて、そこそこ影響力のある立場にはいるんだ。それなりに期待しとけ」
おお……なんか知らないが、すげぇ頼もしいぞ、毒島!
「ところで……」と、すぐ横で今度は
「あのタナトスって精霊は、どうなるの?」
紅来の質問に、これまで黙って毒島の言葉を聞いていた聖さんが面を上げる。
「精霊は通常、契約者に召喚されるまでは精霊界にいますが……タナトスのようなはぐれ精霊は精霊界には戻れませんから、現界で〝器〟を見つける必要があります」
「聖さんや……伏姫の霊体みたいな?」
「そうですね。伏姫のような霊体がもっとも相性は良いでしょうが……心の闇の大きな人間、あるいは、魔物の死骸でもよいと言われていますね」
「魔物の死骸なんて……トミューザムの中にまだいくらでもあるじゃん!」
紅来の懸念に、しかし、聖さんがフッと微笑を浮かべる。
「あれだけ高位の精霊ですと、魔物も何でもいいというわけにはいきません。最低でも★6程度の肉体でなければ、憑依したとしてもすぐに消滅するでしょう」
「なるほどなるほど……ん?」
隣でこくこくと頷いたあと、眉間に皺を寄せる紅来。そんな彼女を見ながら、俺も妙な胸騒ぎを覚える。
★6以上の魔物の死骸? 何か忘れているような気が……。
何かを思い出しかけたその時、「ちょ、ちょっと、これ!?」と、華瑠亜の声が響く。顔を向けるとすぐに、その異変に気が付いた。
山吹色に輝く華瑠亜の左手の甲。あれは――。
慌てて自分の左手も確認する。
華瑠亜と同じように山吹色の光に包まれたその奥で、ゆらゆらと
顔を上げて他のメンバーの様子も確認する。
やはり、愉快な仲間チーム――メアリーやリリスも含めて全員の左手が、山吹色の光に包まれていた。
◇
「やっと……捉えたぜ……」
「ほ、ほんとか!?」
二人で伏姫籠穴に入ったのは午前の早い時刻だった。
籠穴の奥で田村が結界弱化の儀式を行ってから約半日。その間、ずっと
外から水を汲んで戻ってきた田村を振り返って、雑魚井が頷く。
「チームの五人に、使い魔二人……大丈夫だ。全員
「とりあえず、水だ」
田村の差し出した皮製の水袋を受け取り、中の水をゴクゴクと喉に流し込んでから、再び雑魚井が続ける。
「
「ん?」
「反応の位置からすると、すでに連中も第四層に到達してるみてぇだな」
「ほんとか!? じゃあ、ケルベロスには遭遇せずにすんだのか……」
「そういや、そのケルベロスってのはどうするんだ? 討伐隊でも編成すんのか?」
水袋を田村に返しならが、思い出したように雑魚井が訊ねる。
「いや、学生チームさえ助かればそれはないだろう。生死の分からない兵団や警団の残存メンバーのために、危険な潜入が決行されるとは思えん」
「んじゃ、ケルベロスは放置のままか?」
「ダンジョン内はマナの量も質も変化しやすいし、それだけに魔物の寿命も短い。特に★6ともなれば、ダンジョンランクが低下すれば一日と持たずにくたばるさ」
「ふ~ん……そういうもんかい」
「とりあえず、第四層にいるのは朗報だが中の状況は分からん。いずれにせよコールは急いでくれ」
「わ~ぁってるよ、言われるまでもねぇ……」
そう言いながら再び、奥の岩肌へと向き直る雑魚井。
口ごもるような雑魚井の詠唱が、再び穴内に低く響き始める。
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