15-2.タナトスの器 <その②>
「おお……
「なんだよあの
そりゃそうだろうな。というのも――、
「ま、よかったじゃねぇ~か。あのクソ長い螺旋階段を上らずにすんでよ」と、毒島が壁を這う螺旋の通路を見ながら答える。
そう……あの階段!
天井までの高さは約百五十メートル。階段の角度はかなり緩やかだし、二十五~三十度程度だろう。ざっくり見積もって長さは五、六百メートルはある計算だ。
手摺もないそんな長さの階段を
ブルーに乗せていけばいいんじゃ?とも考えたが……すぐに打ち消す。
魔力が底を突きかけている今、長時間の使役もアテにはできない。
この世界の使い魔だしリリスたんほど規格外の低燃費だとも思えないが、それでも、
そもそも、
「でも毒島っち、この魔法円の書式じゃ結界貫通は無理だって言ってたよね?」
「恐らく、結界解除か、もしくは弱化の儀式と組み合わせたんだろうな」
よかった……本当によかった……。
「ま、俺らはゆっくり上ってくからよ。てめぇらはさっさとコールで戻っちまいな」
そう言いながら毒島が身支度を整え始めたその時だった。
グルルルルル――……
どこからともなく聞こえてくる、獣の唸り声のような音。
だが、円柱形のホールに反響して音の出どころは不明瞭だ。
ま……魔物!?
その場にいた全員がハッと周囲を見回すが、しかし魔物らしき姿は見えない。
グルルルルル……と、再び祭壇部屋を振るわせる重低音。
近い!
先ほどよりもさらにはっきりと、その場にいた全員の
今度は迷わず、一点――第三層からの階段出口に集中する十一人の視線。
と、次の瞬間――!!
階段周りの
宙に舞った無数の
……ケルベロス!?
今日の午前中――数時間前に倒してきたばかりの魔物だ。見間違えようがない。
タナトス級の闇精霊が器にするには、最低でも★6クラスの魔物の死骸が必要……と、聖さんは説明していた。
あの時、頭のどこかで警鐘を鳴らしていたのは、おそらくこいつの存在だ。
しかし……リリスが
まさかこの短時間に、ケルベロスの死骸に憑依して四層まで登ってきたのか!?
俺の驚きが、この世界に
「あいつたしか……私のB・L・T(ビューティー・リリス・トゥーチャー)で倒したはずだよ!」
「間違ってますよリリッペ。あの技は〝残酷剣〟だと……」
何かっつ~とマウント取りたがるところ、どうにかなんないのかこいつら?
でも、まてよ……。
今ならどさくさに紛れてダーク・ブラッディークロスに……って、違う違う!
今はそんなこと考えてる場合じゃない。
「おい毒島! なんで第二層で倒したあいつがこんなとこにいるんだよ」
「あいつ……タナトスが憑依したことで飛躍的に知能が上がってやがるんだっ」
吐き捨てるように答える毒島。
つまり、ケルベロスも階段を上ってやってきたってことか?
霊体や精霊とは違い、移動に物理的な制限を受けることは確からしい。
「ってことは、またタナトスとやりあわなきゃない、ってことか?」
「いえ……」
軽く首を振った毒島の代わりに、口を開いたのは……聖さんだ。
「憑依した者は、被憑依体の知能レベルと中和されます。器が人間であればそれほど知能レベルは変わりませんが、器が魔物となると……」
「そういうこった。恐らく、もうタナトスの意識は消えてんだろ。あそこにいるのはせいぜい、かなり頭のいいケルベロス、いや……」
聖さんの説明を再び引き継いだ毒島が、一呼吸おいて言葉を続ける。
「ケルベロス・ゾンビ……か」
確かに、もともと黒かった魔狼の体は、さらに
リリスと戦ってできた全身の傷もそのままだ。
赤い六つの魔眼だけが、生きていた頃と変わらず不気味に輝いている。
「お、おい、毒島! もうリリスは使えないけど……あんなの倒せるのか?」
「ある意味、ケルベロスより厄介な相手だし、難しいだろうな」
俺の質問に、魔物から目を逸らさず絶望的な返答をする毒島。
マジかよ……。
元のケルベロスは、本当の強さをうかがい知る前にリリスが瞬殺してしまったが、しかし、全身の毛が逆立つような恐怖感だけは今も鮮明に覚えている。
★6クラスともなれば、兵団や自警団のような戦闘職の面々でも数人がかりで倒すのが普通……という情報も同時に思い出す。
「とにかく! てめぇらはコールでさっさと戻れ。あと五分もすりゃあ詠唱も終わるだろ! あと……そこの
毒島に声をかけられて武器を構えようとした二人を、しかし、毒島が制する。
「
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