16.痴女かっ!
「痴女かっ!」
初美が恥ずかしそうに頷いた後、ふと、首を傾げて麗の方を見る。
「麗は……紬くんのことは何とも思ってないにゃん?」
「私? 私は別に、全然……。友人としては好きよ? でも恋愛対象として考えたことは、今まで一度も……」
「
「なんでフレーム単位なのよ? ああ、でも……」
何かを思い出したように呟く麗を、初美がキッと睨む。
「でも、なんにゃん!?」
「
「いつにゃん!?」
「ああ、いや、そう言うアレじゃないわよ? トイレから出てきた紬くんが、ミッティーちゃんのハンカチで手を拭いてたことがあったのよ。妹さんのかも?」
ミッティーちゃん……。
初美は、猫にウサギの耳を付けたような変なキャラクターを思い出す。
「…………それが、どうしたにゃん」
「うん、それ見て、紬くんは絶対 “ウケ” だなって、ちょっとキュンとしたって言うか…………何よ、その目は?」
初美が、半分
「初美だって “
「BLはよく解らないにゃん。BLは本当に腐れてるにゃん」
「
「別にいいにゃん、麗が友達にゃら。とりあえず麗がこの世界を作る時に、クラスの男子にBL設定を付与しなくて本当に良かったにゃん」
あの時はそこまで頭が回ってなかったしね、と麗も思い返す。
ただ、回っていたとしても、本当にBL設定を付与したかどうかは怪しい。
飽くまでも妄想するのが楽しいのであって、勝手な話だが、実際に
「まあでも、この合宿でお友達も増えてよかったじゃん」
「華瑠亜ちゃんと立夏ちゃんは微妙にゃん」
「どうしてよ?」
「恋のライバルだからにゃん」
即答するクロエに思わず麗が横を向くと、当然でしょ? とでも言いたげな表情で初美も見つめ返す。
「え~っと、ライバルだったとしても、友達にはなれるわよ、多分……」
「麗以外に友達なんてできたことにゃいから、よく解らないにゃん……。麗の他に、アニメやゲームの話が出来る人もいにゃいし……」
「そんなの求めたら、
そう言いながら麗が、初美の横顔をチラリと覗き見る。
前を歩く、恐らく華瑠亜の背中を真剣な眼差しで見つめている初美。
いや……
「まあ、二人に比べて、紬くん攻略に於いては、
不意に、初美の口……
「まあね。そもそも、
「あれは……失敗したにゃん。紬くんとは “両想い” じゃなく “恋人同士” にしてと頼むべきだったにゃん……」
確かに、“両想い” という希望は一時的にでも叶えられたわけだし、ノートの精も契約を違えてはいない。
「ついでに、私をビッチに変えてもらえばよかったにゃん」
「そ、それもどうかと思うけど……でも、両想いだったんだから、その間に攻略しちゃえば良かったのに」
「たった二ヶ月じゃ
「そ、そうかな……」
両想いなら、一日あれば充分じゃない? という思いは、麗も敢えて口にしない。
「まあ、最初のチャンスは生かせにゃかったけど、それでも、
「でも、紬くんの記憶から初美は消えてるけど……」
あ、そっか! と、初美も初めて気づいたような表情を見せるが、思い直したように言葉を繋ぐ。
「ま、まあ、初美んのことは覚えてなくても、他の部分で記憶が一致してるのは、やっぱり有利にゃん」
「そう……かもね」
「それに、立夏ちゃんは口数も少ないし、何考えてるか解らないにゃん」
「それを初美が言う?」と言う呆れ顔の麗を無視して、更に続ける初美。
「ああ言うダンデレヒロインは、いいところまでいくけど、最終的にメインヒロインにはなり難いにゃん」
「それは、
なんか、この感じ、懐かしいな……と、麗が
普段無口な初美だったが、たまに堰を切ったように話に夢中になることがあった。
もちろん、話すと言ってもSNSメッセンジャーに一方的に文字が打ち込まれるだけだったが、今はクロエがメッセンジャー代わりだ。
「華瑠亜ちゃんはメインヒロインタイプだけど、ああ言うツンデレが上手くいくのは創作の中だけにゃん」
「そう?」
「本人はまだ矢印の自覚もにゃいみたいだし、実際の恋愛では、友達以上には発展し難い不利属性ににゃることがほとんどにゃん」
「意外と、いろいろ分析してるのね……」
「しかも、私は一緒にお風呂にも入って、おっぱいも見せ合った仲にゃん」
「いや、見せ合ったわけでは……」
「昔は見せ合ったにゃん!」
「それ、幼稚園の頃とかの話でしょ? その頃からおっぱいなんてないし、そもそも紬くんにその記憶もないし……」
初美のこういう肉食系な一面を、麗はもともと知っていた。
しかし、他のクラスメイトにはまだ、単なるハジデレキャラくらいにしか思われていないだろう。
これは本当に、ひょっとしたらひょっとするかもな……と思いながら、麗は生き生きと語る……いや、語らせる初美の横顔を眺めていた。
◇
「結局、
「それが一番の理由……じゃろうな。シャーマンが変わる理由は幾つかあるが、現シャーマンを落命させるのが一番手っ取り早いのは間違いない」
俺の質問に、ガウェインが答える。
大長老エリアの中央
ただ、最初の接見の時のような評議形式ではなく、部屋の中央に車座になって話すという、非常に打ち解けた感じの配置になっている。
車座の中央には軽食としてパンとチーズが並べられ、更にその中央には、両足を投げ出して幸せそうにパンを頬張るリリスの姿。
「しかし、仮にメアリーが落命したとしても、次のシャーマンがあのビッカスとやらになる保証はないのではありませんか?」と、可憐。
「シャーマンはこれまで経験した血族から選ばれる確率が高いのじゃが……それを鑑みても、その点は小悪党の浅知恵としか言いようがあるまいの」
「宝具のおかげで、
あの、ソウルイーターとか言う宝具のことか。
能力発動にいろいろ条件はあったようだが、相当危険な魔具であったことは間違いないし、あんな物を持ち歩かれてたんじゃ、確かに気持ちは休まらないよな。
「あれは元々、先祖がダンジョンの管理をしていた頃に授かった〝
ダンジョン? グレイス?
何のことかとは思ったが、疑問に思ってる者が他にいないようなので、後で誰かに訊くことにしよう。
本当は、こういう時にリリスが質問してくれたりすると助かるんだが……生憎今は食事に夢中らしい。
「もしかして、この集落で、皆があまり本名を使わないというのも……」
可憐の言葉に、大長老のブランチェスカが大きく頷きながら答える。
「あの宝具の存在
「次第に、本名は長くて覚え辛いものとなり、お互いを呼び合うときは通称で、という習慣が出来上がっていったのじゃ」
ブランチェスカの後を、再びガウェインが引き継いで説明した。
「申し訳ありませんでした。自衛措置とは言え、一族の宝具を真っ二つに……」
可憐の謝罪に、しかしガウェインは首を振る。
「いやいや。あれはあれで良かったのかも知れぬ。神からの恩恵のはずが、いつの間にか一族を縛る
「因みに、この指輪も……その、神からの授かり物か何か?
ついでに訊いてみる。
「それは……宝具でも何でもない。おおかた、連中が転売でもしようとして行商に掴まされた粗悪品じゃろう」
粗悪品……まあ、呪いのアイテムだし、そう言う評価なんだろう。
でも、その呪いの部分が俺にとっては打って付けのスペックになっていたことは、ムーンストーンという素材も含めて運命的な物を感じる。
その時、
黒地に金糸の刺繍があしらわれた、一見して上等そうなローブを纏っていたが、フードを脱いだ下から現れたのは艶やかな金髪のショートボブに碧い瞳の少女――
そう、メアリーだ。
従者のノームの二人は、それぞれ水晶らしきものを手に持っている。
一つは
もう一つは……少し赤味がかった、神水晶よりも一回り小さな水晶。
あれも、シャーマンに何か関係のある代物なのだろうか?
ガウェインが口を開く。
「改めて紹介致そう。新しいシャーマン、セレピティコじゃ」
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