15.神水晶

「もしその話が本当であれば、そこにある神水晶に、水晶が認めた次のシャーマンとしてビッカスの名が浮んでいるはずじゃが……確認させて貰えるかの?」


 ガウェインの言葉を聞きながら歯軋はぎしりをするバッカス。

 あの、ビッカスが持ってる野球ボールみたいなのが、恐らく神水晶ってやつか?

 わざわざあんな物を持ち歩いているということは、神託とやらもあそこを通じて示されることになっているんだろうか。

 ……と、突然、ビッカスの手からバッカスが水晶を奪い取り、大きく振り被る。


「こんな水晶の言うことなんか、ありがたく信じてなんてられるかよっ!」


 そう言いながら、バッカスが思いっきり神水晶を地面に叩きつける。

 おいおい、それを言っちゃ、バッカスおまえが崇めさせてるシャーマンの御神託そのものを全否定することにならないか!?


 地面に叩きつけられた神水晶は……しかし、何かの魔法効果マジックエフェクトであろうか?

 地面ギリギリでピタリと止まると、音も無く静かに着地する。

 更に、傾斜に沿ってゴロゴロと転がっていった先で――――


 足元に転がってきた神水晶を拾い上げたのは、ガウェインだった。

 いつの間にか、広場に集まったノーム達も事の成り行きを確かめるかのように、静まり返っている。


 パチパチと、火柱の燃える音だけが静かに響く中、神水晶を顔に近づけ、中を覗き込むように片目を瞑るガウェイン。

 数秒後、水晶から顔を離した彼の大きく見開かれた両眼には、驚愕と、そして悔恨の念がありありと浮んでいた。

 

「今、次のシャーマンたる者の名を、わしが今、はっきりと確認した」


 決して大きくはないが、良く通る声でガウェインが語り始める。

 その様子を、固唾を飲んで見守る広場のノーム達。

 そして、石壇の下では……がっくりと膝を折るバッカス。


「次のシャーマンの名は、セレピティコ・カトゥランゼル・ウル・アウーラ!」


 ノーム達の間からどよめきが起こり、それはやがて大きなうねりとなって広場中を包み込む。

 騒然となる広場。

 そして、あちこちから驚愕の声が漏れ聞こえてくる。


『セレップだ……。セレップが次のシャーマンだ!』


 メアリーと繋いでいた俺の左手が、ギュッと強く握り返される。

 視線を落とすと、そこには呆然とガウェインを見つめるメアリーの姿が……。


 いや、メアリーだけじゃない。

 俺も、可憐も、そしてリリスでさえも、思いがけない展開に言葉を失う。

 メアリーが……次のシャーマンだって!?


「ジュールバテロウ、及びレアンデュアンティアの者達をひっ捕らえよ!」


 ガウェインの命と同時に、三〇人程のノームが群集の中から現れ、守護家の七人を捕縛した。

 全員、長老衆の治安維持係とでもいったところだろうか。

 異能の力があるという守護家の連中も、さすがにこの人数の屈強なノーム相手に大立ち回りをするつもりはないらしい。

 いや、もしかすると、インチキ守護家のジュールバテロウは異能の力すら授かってないのかも知れない。


「さて、と……」


 捕縛の様子を眺めていたガウェインが、今度はゆっくりと俺達の方を振り返る。


「そなた達には一度、我々のテントまでご足労頂こうかの」


               ◇


 初美はつみの持つペンデュラムを中心に、女子四人が輪になっている。

 出発してからこれで三回目。

 そんなお馴染みの光景を、少し離れた岩場に腰掛けて勇哉ゆうや歩牟あゆむがぼんやりと眺めている。


 ペンデュラムの動きを確認すると、逸早いちはやく輪から離れた紅来くくるが、昨日と同じように周辺マップに印を書き足す。

 その後ろから、背伸びをするように覗き込む華瑠亜。


「どう? 昨日から……何か変化あった?」

「いや、ほとんど動いてないよ。動いていたとしても、せいぜい数百メートル……。アイテムの精度を考えれば誤差程度かな」

「じゃあ、昨夜からずっとその辺りに留まってるってことかな」

「うん。きっと紬と可憐ふたりは裸で抱き合って…………あいたっ!」


 華瑠亜が、紅来の太腿にわりと本気の膝蹴ひざげりを入れる。


「くっだらないこと言ってないで、さっさと行くわよ。お昼になっちゃう」

「まだ八時くらいでしょ? って言うか、冗談に本気で突っ込まないでよ……」

「私だって、冗談ですから」


 冗談の強さじゃなかったよ今の膝蹴り……と、太ももを摩りながら紅来が華瑠亜の後を追う。

 二人が歩き出したのを見て、勇哉と歩牟も腰を上げる。

 さらに最後尾から、麗と、ペンデュラムを鞄に仕舞いながら初美も続いた。


 この後は昨日のルートから徐々に外れていくため道中の様子は解らないが、順調なら、あと二時間もあれば目的のエリアに到達するはずだ。


「初美はさ、いつからつむぎくんが好きなわけ?」

「はっきりしないにゃん。ずっと前からだった気もするけど……ちゃんと意識したのは最近にゃん」


 麗の質問に、初美の肩のクロエが答える。

 初美の頬が赤みを帯びるが、クロエを戻さないということは、この話題が嫌と言うわけでもないらしい。


「紬くんのどこが好きなの?」

「声にゃん」


 真っ先に “声” を挙げる辺り、さすが初美だと思いつつ、麗にもその気持ちは理解できなくもない。


「あの、スラリとした指とか、ちょっと筋肉質な感じの脹脛ふくらはぎも好きにゃん」

「そ……そう。なかなか、フェティッシュな着眼点ね」

「ついでに、顔と性格もにゃん」

「そっちがついで? ……って、結局全部じゃん」

「ぜんぜん全部じゃないにゃん。最終的には、体……というか、アソコ・・・の相性も確かめないとダメにゃん……」

「痴女かっ!」


 初美が恥ずかしそうに頷いた後、ふと、首を傾げて麗の方を見る。


「麗は……紬くんのことは何とも思ってないにゃん?」

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