04.ラッキーリリス

「もちろん! 魔界ハイスクールではラッキーリリスって有名だったんだから!」


 ほんとかよ!? 俺たちがこんな世界に飛ばされたそもそもの発端は、そのラッキーリリスとやらのせいなんだが?


 まあでも、ラッキーリリスが単なる出任せだとしても、こう言う勝負事ってのは自信がないやつがやってもあまり良い結果にはならないからな……。

 特に、カードチェンジ前に勝負をするかどうかを決めるこのルールの場合、相手をダウンさせるような駆け引きはあまり必要ない。

 純粋な、引きの “運” 勝負になる。

 ここはリリスこいつの、妙な自信に賭けてみるか?


「決まったのか? じゃあ、始めるぞ?」


 カードを配るのは、さっき魔具を探しにいった、痩せた眼鏡の男だ。

 顔立ちや赤い髪などバッカスと共通点も多い。弟か何かだろうか?

 俺も一度だけシャフルをしてバッカス弟もどきに渡す。

 カードが分厚いのは、五十二枚のセットを二組使っているからだろう。


 その時また、先ほどのお香のような臭いがする。

 ジュエルケースの臭いかと思っていたが、どうやらこのバッカス弟もどきの服から臭っているらしい。


「よし、さっさと配れ、ッカス」


 ビって……。こいつらはバ行兄弟ブラザーズかよ?

 ということは、残りの二人……あの女ノームとチビのモヒカンのどちらかがッカスで、どちらかがッカス?


 バッカスと、テーブルに乗ったリリスの前に、五枚ずつカードが配られる。

 リリスが両手で、伏せてあるカードを一枚一枚確認する。

 後ろから俺も、リリスの捲ったカードを覗き込む。


 思わず、丈の短いエプロンドレスの裾と、ニーハイソックスの間に挟まれた白い太腿に目が吸い寄せられる。

 見えそうで見えない、“絶対領域” というやつだ。

 同時に、道中で見た衝撃の光景が頭をよぎる。

 あのスカートの奥に、さっきの黒い紐パンツが……。


 って、イカンイカン!

 メアリーがあんなもの見せるからついつい意識するようになっちまった!

 勝負に集中しなくてはっ!

 配られたカードは見事な役なしブタだった。


「最初の宣言は、そっちでいいぞ」と、バッカス。


 ここは当然、ダウ――……


勝負コール!!」


 ぶっ!!

 なんでその手でコールなんだよっ! アホかっ!!

 しかし、ここで動揺を見せては相手に気取られると思い、必死に我慢する。

 手札を並べ替えながら何か考えているようなバッカスだったが――――


「ふん、こっちは……ダウンだ」


 ふうぅぅ~。

 自信満々のリリスを警戒したのか、バッカスが下りてくれたのは助かった。

 しかし、場代アンティが無いこのルールでは、ハッタリで相手のダウンを誘ってもほとんど意味がない。


 とりあえず二回目はこちらが後出しだ。

 ルール上、向こうの出方を見て決められる後出しの方が若干有利だ。


 二ゲーム目、配られたカードは……またしても見事な役なしブタ

 よし、相手がコールだったとしても、こっちは……。

 解ってるな、リリス!


「コール!」と、高らかに宣言したのは……リリスだった!


 おーーーーーいっ!

 後出しの番なのに先に宣言しちゃって、しかもコールって!

 何考えてるんだこいつ!?


「だ……ダウンだ……」


 自信タップリのリリスを前に、手札を並べ変えていたバッカスが再びゲームを下りる。

 

「何だか解らねぇが、今、先に宣言したからって、次もそっちが先だからな」


 バッカスが念を押す。

 そりゃ、後出しが若干有利なんだからそう主張するのも無理はない。

 それより何より、リリスこいつ、どう言うつもりなんだ!?


 三ゲーム目、今度は⑤のワンペアは出来てはいるが……やはり、勝負に行くような強手ではない。

 しかしリリスは――――


「コール!」と、高らかに宣言する。


 リリスこいつ、コールしか知らんのか?

 バッカスがダウンすると、リリスが振り返ってVサインをしてくる。

 その拍子に、リリスが足元の手札を蹴って床に落としてしまったので、拾い集めながらリリスに近づいた。

 カードを捨て札の山に置きながら、恐る恐るリリスに訊ねてみる。


リリスおまえ、なんでコールしかしないの?」

「ダウンなんて、そんな逃げ腰な作戦、趣味じゃないの」

リリスおまえの趣味なんてどうでもいいんだよ! 別に逃げ腰ってわけじゃくて、良い手が入るまで待つって意味だから……」

「いいじゃん! 三連勝してるんだから」


 勝ってねぇよ! 流れてるだけだ!

 全然ルールが解ってねぇぞ、リリスこいつ


「と、とにかくだ、次は相手が宣言するまで待て。で、コールかダウンかは俺が決めるから! いいな!」

「わ……解ったわよ……」


 四ゲーム目、不機嫌そうな表情で配られたカードを確認するリリス。

 俺も一緒に後ろから覗き込む。

 ……こ、これはっ!


 ハートの、⑨、⑩、ジャッククィーン、そしてスペードのエース、の五枚。


 Aの一枚チェンジで、フラッシュかストレートの両面待ち。

 ハートの⑧かキングならストレートフラッシュという超強手だ!

 こちらの捨て札にハートは少なかったし、⑧やKも捨てた覚えがない。

 言い方を変えれば、まだ山札に残ってる可能性が高いということだ。

 リリスはすこぶる不満そうだが――――


 これは、勝てるっ!


 俺の左手人差し指で、光り輝くムーンストーン……。

 そんな映像が頭をよぎりそうになるのを必死で振り払う。

 変な皮算用をし始めるのはだいたい負けフラグだ。

 あとはバッカスがコールするかどうかだが……。


 唇のとんがったリリスの表情を盗み見ながら、バッカスが口を開いた。


「コールだ」


 キターーーッ!

 恐らく、リリスの不満は自分に主導権イニシアチブがないことに対してだろうが、そんな曇った表情が結果的にはポーカーフェイスになったようだ。

 ただの結果オーライだが……でかした、リリス!


 振り向くリリスに、人差し指と親指で輪を作ってゴーサインを出す。

 お前の強運を今こそ見せてくれ!


「コール!」


 リリスの宣言を聞いたあと、バッカスがチェンジカード一枚を場に出す。

 相手も一枚チェンジということはフラッシュかストーレト狙いの可能性が高い。


 ツーペアも考えられなくはないが、先程から手札を並べ替える様子を見ていると、ペアが出来ている時は二枚同時に持って動かしているようだ。

 今は、一枚一枚手にとって並べ替えていたので、ツーペアが出来ている可能性は低い。更に言えば、並べ替える必要性の薄いフラッシュではなく、ストレート狙いの手ではないだろうか? 


 よ~し、いけ! リリス!

 一枚チェンジ同士の真っ向勝負なら、こちらが勝つ確率が遥かに高いはずだ!


「四枚チェンジ!!」


 なんでやねんっ!!!

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