03.【立夏】四月二十二日・不機嫌な華瑠亜
「なんなのよ、あいつは、ほんとにっ!」
放課後、
まあ、彼女が何に怒っていようと、私には別に関係ない。
……と、普段ならスルーしているところだけど――
「何か、あったの?」
直前に紬くんと話していたみたいだし、少し気になる。
「ん? え……ええ。まあ、あたしには関係ないけどさっ!」
私から話しかけることなんて滅多にないので、少し驚かせちゃったみたい。
「今……紬くんと、話してた?」
「そう、紬がね、気になる子がいるから遊びに誘ってくれないか、って言うのよ。グループデート、ってやつ? 色気づいちゃって、あのバカ!」
えっ……。
一瞬、暗い井戸の底にでも叩き落されたかのように、周囲の景色が色彩を失う。
遠くに離れていくように、急に小さくなっていく華瑠亜の姿。
紬くんが……気になる人?
それは、好きな人、ってこと?
紬くん、どんな人を選ぶんだろう……気になる。
異性として紬くんが気になっているわけではない……はず、だから、私には関係のない話だけど……。
でも、なんだろう、この、胸がチクリと痛む感じは。
「……行くの?」
「え? グループデート?」
立て続けに質問をする私を、目をパチクリさせながら物珍しそうに眺める華瑠亜。
そこまで珍しいことかな?
少し戸惑った様子を見せながらも、すぐに気を取り直して華瑠亜が口を開く。
「行くわけないじゃん! あたしだって初美とそんなに仲が良いわけじゃないし……」
「はつ……み?」
「ほら、紬と同じ、テイマー専攻の黒崎初美よ」
黒崎、黒崎……ああ、あの、テイマー専攻の黒髪の女の子……か。
名前は知らなかったけど、クラス内では紬くん以外で唯一のテイマー専攻ということで、顔は覚えている。
「初美、って言うんだ、あのテイマーの子……」
「うんうん。……っていうか、去年からのクラスメイトなんだし、名前くらい覚えてるでしょう、普通?」
「あの子、無口だから。全然、しゃべらないし……」
「いやまあ、それにかんしては、立夏も大概だけどね!?」
私も、やりたかったな、ビーストテイマー……。
英春兄さんがテイマーだったから?
昔から憧れていたし、多分、きっかけはそうなんだろう。でも、今もそうなのかな……?
教室の隅で、他の男の子たちと談笑する紬くんをジッと見る。
「ちょっと? 立夏、ジッと見過ぎっ!」
「うん」
「グループデートなんていったって、どうせあの五人組の誰かが来るんでしょ? って言うか、間違いなく
無理無理、絶対に無理! と、栗色のツインテールをくるくると回しながら華瑠亜が
見ている感じでは、多分だけど……華瑠亜の矢印も紬くんに向いてるよね。
本人、自覚はないみたいだけど。
「それにしても……なんで急に、黒崎さんなんだろう……」
「ああ、だよねぇ~。そりゃ、顔は可愛いし、紬とも幼馴染みたいだけど……いくらなんでも無口すぎだよね」
紬くんと……幼馴染なのか、彼女。
「ほら、あたしと紬、
「華瑠亜から
「うんうん。
確かに、回りくどい。本当に、幼馴染なのかな。
「紬みたいな奥手が初美を誘ったって会話になんないよ。あんな無口な子、紬とは合わないね、絶対!」
無口な子は、合わないんだ……。
なんだろう、また、胸がチクリと痛む。
「な~んかあんな話されちゃうと、
「……バイト?」
「ん? ……ああ、いや、なんでもない。こっちの話」
華瑠亜が、慌てたように胸の前で両手を振る。
何か隠してるみたい、華瑠亜。
「ああ、これ、あたしたちだけの秘密にしてね? 変に噂になると、それがきっかけで上手くいっちゃったりするかもしれないから!」
上手くいっちゃうとダメなのか。
紬くんも、頼む人を間違えたみたいね。
「別に口止めされてるわけでもないけど……念のためね。まあ、立夏なら口は固そうだし、平気だと思うけど」
華瑠亜がそう言った矢先、後ろから
「どうした? 珍しく二人だけで。今日はこのあと、ボランティア活動の日だぞ」
「それがさぁ……聞いてよ可憐! 紬がさぁ――」
あ……れ? 秘密って言ってなかった?
華瑠亜の言う〝あたしたち〟って、私たち二人だけって意味じゃなかったんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます