04.【立夏】六月二十三日・再編成
「異例のことですが、今日のホームルームで戦闘実習班の組み替えを行うことになりました~」
副担任の優奈先生の声を聞いて、クラス内がにわかにざわめく。
続く先生の言葉で、それはさらに困惑の色に染まった。
「班分け表はすでに作成済みなので~、それを参照して下さ~い」
実習班の組み替え?
しかも、班分けも一方的に?
確かに異例……。
誰かの転校・転入などで生徒数が増減した場合などに、一部で再編成が行われることはあるけど、特にそう言った理由は思い当たらない。
しかも、通常は生徒の希望も取り入れる形で行う班編成を、こんなに突然、お仕着せの組み替えで行うなんて異例というより他にない。
「再編成理由の詳細は伏せますけど~、一部で著しくバランスを欠いた編成が見受けられたため……ということらしいです~」
バランスを欠いた編成……?
先生のその言葉も全く組み替えの理由になっていない。実力が偏る編成を避けるために、生徒の希望だけでなく学校側のチェックも通した上での今の状態のはず。
たとえ、十一、十二年生で班の実力に差がついたとしても、カリキュラムもそれを踏まえたうえで組まれているのに。
個人だけでなく班全体の競争意識を高めつつ、その中で好成績を収める者でなければ、退魔院に進学しても無駄だという考え方に基づいて……。
前の席から順番に回されてきたプリントの束から一枚取って、後ろへ回し、すぐに
私の所属は……D班。
これまでと同様、
男子メンバーは全員抜けて、代わりに
私の表情は、ほとんど変わっていないはず。
けれど、脈拍は二倍くらいになっている気がする。
早鐘を打つ心臓が、プリントを持っている両手をトクントクンと震わせる。
◇
「ま~た、あの役立たずと一緒の班よ!」
メンバーを確認したあと、ミーティングのために
続いて、
私が動かないので、私が混ざっている時はだいたいこうなる。
「役立たずって……紬のことか?」
聞き返した可憐に、華瑠亜が二、三度頷いて再び苛立った声を上げる。
「そうよ紬! チーター紬よ! どうせろくな使い魔も持ってないし、ほんと足でまといの色ボケテイマーなんだから!」
「色ボケ?」と、すかさず紅来が聞き返す。
紬くんが黒崎さんのことを気にしているって分かってから、華瑠亜と紬くんの関係がぎくしゃくし始めた気がする。
そういうことはむやみに周りで噂するものじゃない、と可憐に口止めされて、それ以上噂は広がらなかったみたいだけど……。
やっぱり今でも、紬くんのことになると華瑠亜はご機嫌斜めになるみたい。
「戦力外は仕方ないとしても、チーターというのがな……」
可憐もわずかに眉を曇らせて、
チーター紬……言われてみれば確かに、以前からそんな風に言われていたことを思い出す。でも、なぜ、今日まで忘れていたんだろう?
それだけじゃない。なぜか、みんなの紬くんに対する風当たりが急に強くなっているような気がする。
以前からこんな空気だったっけ?
なんだか急に、紬くんをとりまく環境が変化したような……そんな漠然とした違和感を感じる。
頭の中をいじられたような、このもやもやした感じはなんだろう?
「チーターって言ったってさ、何かズルをするわけでもないんでしょ?」
「紅来はあいつと一緒のチームじゃなかったから分からないのよ。前回だってあいつを守るためにかなり時間ロスったんだから……ねぇ、麗?」
「う、うん、まあ……」
華瑠亜に話を振られて、
そっか。この二人は、これまでも紬くんと同じ班だったんだよね。
「だからさぁ、そんなの放っておけばいいんじゃない、って言ってるの。多少怪我したって、あとで治療すりゃいいんだから」
「そ、それはそうだけど、それはそれで可哀想っていうか……じゃなくて! 仲間をいかに守るかっていうのも査定の一環でしょ!?」
怒ってはいても、なんだかんだ言って紬くんには甘いのね、華瑠亜。
「とりあえず班長決めて提出しなきゃならないらしいが、どうする?」
「班長とは名ばかりで雑用ばっかりだし……あいつでいいんじゃない?」
可憐の質問に、すかさず華瑠亜が答える。
あいつと言うのは……もちろん紬くんのことだよね。
華瑠亜の言葉に「誰でもいいよ、班長なんて」と興味なさそうに呟く紅来。他のみんなからも、特に反対意見は出ない。
そういえば今日は、紬くんは風邪で休んでるんだよね。
こんな日にいないなんて……チーターのわりには、運〝F〟ランクで話題になってただけのことはあるね、紬くん。
日程表を見ると、早速明日、D班の対抗戦が組まれている。
「今日、紬はいないし、連絡はどうする? 隣の駅だし、私が帰りに寄って――」
「あたしがっ!」
可憐の言葉を遮るように、慌てて華瑠亜が手を上げる。
「し、仕方ないから、あたしが後であいつんちに連絡しておくよ……」
「華瑠亜、紬の通話番号なんて知ってるのか?」
「う、うん、まあ……ほら、同じ班だったし! ねえ、麗!?」
「ん? ああ、え――っと……私は番号なんて知らないけど……」
華瑠亜に話を振られて、しかし今度は、申し訳なさそうに首を捻る長谷川さん。
華瑠亜、紬くんの番号なんて知ってるんだ。
まあ、黒崎さんの件があるまでは二人は仲良かったしね……。
私は当然知らないし、紬くんだって私の番号なんて知らないはずだし……私の誕生日に、どうやって連絡してくるつもりなんだろう。
あれから何も言ってこないけど、まさか忘れてないよね、紬くん!?
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