17.立夏の憂鬱
立夏の
鬱憤の原因が何なのか……は、よく解らない。
縦笛の件は、先程、立夏の中で納得がいく何かしらの結論に達したんだと思う。
では、今、何に怒ってるんだ?
――そんなことより?
縦笛の件が「そんなこと」呼ばわりされるほどの何かを俺はしでかした?
「なんで
そこか!
「何でというか……何でだっけな……?」
「はぁ?」
「ああ、そうそう、
「可憐?」
「可憐には、ミーティング欠席の連絡ついでに、事情も話しておいたから……」
立夏には反対されると思って口止めしておいたことも付け加える。
「俺が一人で行くって言ったら、心配して、誰か付き添える
B組男子で唯一
「で?」
「で……そう言うことなら自分が行くと、優奈先生が申し出てくれたらしくて……今に至る」
「ううん、至らない」
立夏が、即座に否定する。
「なんで、お母さんが知らないの?」
「は……母親とも、話したの?」
「うん。昼過ぎくらいに」
「え~っと、優奈先生が直接
「普通、電話くらいするよね」
「ああ……優奈先生もしたらしいよ、三回ほど。でも、全部、たまたま話し中だったらしくて……」
「………」
「で、出立予定時刻も可憐から聞いてたらしく、直接来たらしい」
改めて、先生の行動って、人に説明するとこんなにも嘘っぽくなることに驚きを禁じ得ない。
「それでたまたま……道で会った?」
「うん」
事実だから仕方が無い……。
「出立時間なんていくらでも変わるし、どんな道順で駅に行くかもわからない……そんな不確かな状態でわざわざ直接? なんか不自然」
「まあ、優奈先生だから……」
って言うか、立夏だって、施療院の雑談だけを根拠に駅で待ってた自分の事、棚に上げてないか?
「まあいい。わかった」
「そっか、よかった」
ホッと胸を撫で下ろす。
「で、なんで泊まることに? 妹さんに四時前に連絡したなら、まだ充分に帰られる時間だと思う」
「それは、先生が川で転んでずぶ濡れになって……俺のジャージは貸したけど、今は下着も着けてないような状態だし、それで出歩くのはさすがにアレかなと……」
話せば話すほど、立夏の視線がジットリと絡み付いてくるように感じる。
「ジャージ貸して、
「そうなんだけど、先生も一人で外泊とか始めてらしくて心細いのか、やんわりと引き止められと言うか……」
「それで、喜び勇んで一緒にお泊り……」
「別に、喜び勇んではいないよ!?」
「ふぅん……」
外灯も何もないが、月明りだけで立夏の表情はぼんやりと見て取れる。
その目は……まだ納得してないんだろううなぁ……。
まあ、逆の立場だったら、俺だってこんな怪しい話、眉唾で聞くけどさ。
「まあいい。わかった」
「そっか。よかった」
「若い男女が二人きりで、しかも生徒と先生だなんて、バレたら絶対問題になる」
「うん」
この世界でも問題になるのか。
やはり、優奈先生が天然なだけだったんだな。
「以後、気をつけて」
「うん。悪いね、心配かけて」
そのまま、少しの間二人で黙り込む。
そんな様子を見計らったかのように、休憩所の方から優奈先生が歩いてきた。
「え~っと、お話は、終わったかな?」
「ええ、まあ」
「じゃあ、お部屋行こっか。休憩室のランプも落とされちゃったし、一人だとなんか心細くて……」
立夏が慌てて俺の方を見る。
「お部屋?」
「あ、うん、そう……ツインなんだ」
「なんで? カプセルルームは?」
「いや、それも、優奈先生が……」
部屋は、三畳程のスペースで二段ベッドが置いてあった。
ベッドだけでほぼ一杯の間取りだが、休憩所だしそれは致し方ないだろう。
「もうフロントも閉まってるし、部屋は優奈先生と立夏で使ってよ。俺、その辺のベンチで寝てるから」
「いや。私が勝手に来たんだから……私が外で寝る」
その代わり、
俺と立夏の会話を聞きながら首を振る優奈先生。
「だめだめ、そんな無用心な……。ベッド二台あるんだから、三人寝られるわよ。料金は、明日払えばいいから」
確かに、ベッドの幅は普通のシングルサイズなので寄り添って寝れば一箇所に二人は寝られそうだ。
「じゃあ、
アホか
「三人で使うなら、二人で寝るのは女同士に決まってるでしょう! 先生と立夏で、下段使ってください!」
そう言って俺はさっさと上段に登って横になる。
「服、汗かいちゃったので、脱いでいいですか?」
下から立夏の声が聞こえる。
続いて衣擦れの音。
「うんうん。私も、上はタンクトップだけでいい?」
優奈先生の声も聞こえる。
これ……絶対、外の方が良く寝られたパターンだ……。
俺は、悶々としながら頭から布団を被った。
◇
数十分か……或いは、一、二時間は経っただろうか?
ようやく寝付けたと思った矢先、部屋に入ってくる人の気配でふと目が覚める。
優奈先生か立夏が、トイレにでも行ってたのかな? そう思って特に気にも止めていなかったのだが、続けて誰かが二段ベッドの梯子を上ってくる気配。
ん? 誰? なんで上ってくるの?
煩悩を振り払うべく布団を被り、壁際に頭を埋めるように寝ていたのだが、慌てて梯子の方を振り返ると、にゅっと顔を覗かせたのは……立夏!?
明かりは、常夜灯として一つだけ点けてあった薄暗いランプのみ。
それでも、瞼を閉じて上って来る立夏の表情くらいは判別できる。
立夏さん? 寝惚けてる!?
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