07.残された最後の希望
この世界の俺にとって、残された最後の希望はハーレムだけだ……。
「なあ、リリス。さすがにハーレムの意味は知ってるよな?」
大丈夫だとは思うが、
「知ってるわよ。一人の男性に対して多数の女性が取り巻く状況……って、魔界ペディアで勉強したもの。ハーレムの夢って、なぜか人間男性に人気なのよね!」
よし! さすがにこれは間違えようがないよな。
確か、さっきは『学校に行けばそういう状態になってる』って言ってたし、まずは、どんな状態になっているのか確かめないと。
なんだろう、ちょっとウキウキしてきたぞ?
ハーレムの結果如何ではこの世界への評価も一変するかも知れないな。
◇
学校へ着くと、予想はしていたが、こちらも鉄筋コンクリート造りの母校とは似ても似つかぬ姿に改変された校舎が俺を出迎える。
有体に言えば中世ヨーロッパ風……と言うことになろうが、民家に多かった
正面玄関から建物内に入ると、天井のアーチからぶら下がった幾つもの
少し歩くと、ホールの壁沿いに見えてくる礼拝堂の入り口。
開放された両開きのドアから中を覗くと、美しいステンドグラスを通して柔らかな光が礼拝席に降り注いでいる。
正直、前の世界の校舎より数十倍は立派に見える。
周囲を見渡すとクラスメイトだった奴はすぐに見つかったが、話したことはなかったので、とりあえず黙って付いて行く。
教室に入ると、真っ先に手を上げて挨拶してきたのは先に着いていた勇哉だ。
「よう!
「おう……おはよ」
周りの景色がまったく違うせいだろうか?
NASAメガネの話をしていた時も同じ配置で、同じメンバーと会話をしていたはずなのに、まるで初対面のグループの中に入ったような感覚に陥る。
四日前の事が、すごく昔の出来事のように思えて現実感がない。
こう言うの、何て言うんだっけ……〝
ちょっと意味が違うか?
ただ、この世界自体が根本的に現実離れしているというそもそも論はさておき、それ以外は特に変わったことはない。
ゲームの設定を基にした危険な世界のはずだが、寧ろ前の世界よりも
肝心要のハーレム要素がどこにあるのかも、今のところは全く解らないが……。
敷地内の鐘楼から、チャイム代わりに鐘の音が聞こえてくる。続いて、教室へ入ってくる担任の奥村先生と副担任の
恐らくこれは、この世界でずっと繰り返されてきた日常の一コマ。
念のため全員が座るのを待つが、最後まで誰も座らずに残ったのは、元の世界で俺の席だった場所と同じ、窓際から三列目の一番後ろ。
ここで間違いなさそうだと思いつつも、座る時にはやはり、不審に思われないかと周囲をキョロキョロと見渡してしまう。
「今日のモンスターハントの対抗戦はD班だったな? 班長は誰だ?」
クラスが静まり返る。
「昨日、急に班の組み変えがあったからなぁ……。まだ先生もよく覚えてないんだが、おまえらもか?」
D班……勇哉の話によれば俺が所属する班らしいが、誰だ、班長は?
あれ? という表情で俺の方を顧みる
そう言えば、華瑠亜から班長がどうとかって昨日連絡があったと言ってたが……もしかしてこのこと?
もしかして班長って……俺?
いざとなったら頭を掻いてたようにカムフラージュできるような感じで、恐る恐る右手を挙げてみると――
「ああ、そっか、D班は綾瀬のところだったな」
やっぱり俺なんだ!
「じゃあ、綾瀬! D班の点呼を取って、実戦準備室に待機。他は魔法史の自習!」
点呼って言われても……メンバーが誰なのかすら解からねぇよ!
◇
点呼は集まってからでもいいや、と、とりあえず実戦準備室とやらに向かう。
勇哉に場所を聞いたら『もうボケたのか?』と笑われた。
あいつに笑われるのはかなり屈辱的だか、とにかくこっちの世界の記憶が全く無いのでしばらくは仕方がない。
他の人に訊いたらマジで頭を心配されそうだが、
戦闘準備室に入ると、他のメンバーは既に揃っているようだった。よく解らないが、今揃っているのがD班のメンバーということだろう。
教壇でニコニコしながら立っていたのは副担任の
対する生徒側は――――
で、俺、
先生を含めて全員で七人だった。
先生から受け取った名札には【 綾瀬紬(
なるほどね。ハーレムってこう言うことね……。
いや、まあいいよ。
メンバーについて文句はない。
男女比が相当おかしいけど、ハーレムってこう言うものだし、勇哉だってハーレムにしたくてあの黒ノートに設定作ったんだから。
ただ、戦闘パーティーで、ってのはいかがなものかね?
どんなことをやるのかはまだ解らないけど、少なくとも落ち着いて交流できる雰囲気じゃない。
これが修学旅行の班分けとかなら最高なんだけど。
まあ、班長ってことはそれなりに人望はあると考えていいのか?
「おっそいよ、紬! ミーティングの時間が無くなるじゃない!」
同じ弓道部(この世界でもそうなのかは知らないが)の華瑠亜が怒ってる。
同じく、かなり眉間に皺を寄せている可憐。
なにやらすごく険悪な雰囲気だ。
あれ? 俺の人望は……?
「まあまあ、みなさん、まだ時間もありますし、仲良くいきましょ~!」
優奈先生が雰囲気を和ませようと明るく振舞うが、他の女子達はどうもそんな空気ではないように感じる。
「では、班長さん、点呼は終わったので……今日の抱負を一言、お願いします!」
再び優奈先生が明るく発言するが、なんだその無茶振りは!?
いや、向こうからしたら普通の要求なんだろうが、今日この世界に来たばかりでこれから何をするかも分からないのに、抱負なんて言われても……。
「そ、それじゃあみなさん……がんばりましょう……お?」
当たり障りない台詞を選びつつ、それでも自信がなくて最後は思わず疑問系。
再び、我慢できないという感じで華瑠亜が口を開く。
「なんで唯一の男子メンバーがこんな戦力外なのよ!」
え? 俺のこと?
「前も紬と同じ班だったけど、テイマーなんて言ったってまともな使い魔も持ってないし……
ねえ、
そうなんだ……そんなことが……。
麗とも、前回も同じ班だったんだろうか?
「雑務が面倒だから班長やらせてるけど……寧ろいない方が勝てるんじゃない?」
そんな理由で班長?
とりあえず華瑠亜には、同じ弓道部の
「チーター。どんな手を使おうと自分さえ生き残れればいい奴って噂……」
立夏がぽつりと呟く。
そんな最悪な評判なのか……?
勇哉は、生き残ると言う結果が重要だとフォローしてたけど、仲間を犠牲にしてまでも、って言うのは決して評価されるような〝結果〟ではないよな。
可憐も紅来も、口は開かないがあまり良い感情は持ってなさそうだ。
よく見ると麗だけは少し心配そうな表情で、眼鏡の奥から俺を見てる。
確か、前の世界では勇哉とゲーム仲間だったんだよな。眼鏡をしていた記憶はないが、元の世界ではコンタクトだったのだろうか。
なんか、ハーレムって言うより、針の
(どうなってんだよ、リリス!)
ポケットから少しだけ顔を出して室内をぐるりと見渡すリリス。
(どうもこうも……ちゃんとハーレムになってるじゃん)
(どこがだよ!)
(男が一人に女の子がいっぱい……メンバーも、ちゃんとノート通りでしょ?)
なるほど……ここまで聞いてようやく解った。
こいつ、ハーレムの形だけ作って、感情を全く操作してないんだ!
「モンスターハント対抗戦で使われるのは訓練用の魔物ですから、落ち着いて対処すればそこまで危険もないと思います。みんな、頑張りましょ~!」
優奈先生のゆるふわボイスが虚しく響く。
終わった……。
女の子だけいたって、みんなに嫌われてたら意味ないじゃん!
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