04.白銀の聖女
まだ、歳の頃は二十代も半ばくらいであろうか? かなり若い。
「大丈夫ですか?」
まるで天使のような、やや現実離れした佇まいに思わず
「はい。先ほどはありがとうございました……えーっと、
ネームプレートを見ながら聞き返す
「
「すみません。本当に、助かりました」
「E?」
「これだよこれ」
勇哉の右手が、胸の前で乳房の膨らみを表すように
またそれか……。
「もしかするとあの聖女、先生のドッペルゲンガーかも」
「それ……胸しか見てないよね!?」
修道服の上からでも充分に分かる、均整美を保って隆起した大きな双丘の存在感は、優奈先生のそれに勝るとも劣らない。
しかも、ただ単にグラマラスという訳ではななく――矛盾した表現だが〝小ぶりな巨乳〟と言った品の良さも、まさに先生の鏡像。
やはり、聖女なんて二つ名を戴くには見た目の品性も必要なのだろう。
「本日は、ダンジョン攻略、お互いがんばりましょう」
「では……聖さんたちもトミューザムダンジョンに?」
「はい。兵団の中にある同好会チームです。尤も、普段の
そう言って再び、
「そうなんですか。兵団の方達が相手では、私たちなど勝負にはならないでしょうけど……」
「いえいえ、お祭りですし、楽しむ事が大切だと思いますよ。結果はどうあれ、生徒さんたちとよい想い出作りができるよう応援しています」
「ありがとうございます! そうですね、今日はよろしくお願いします。お互いがんばりましょう!」
差し出された聖さんの手を握り返しながら、優奈先生も微笑む。
先に受け付けを済ませたというチームのことは解らないが、残り二つは自警団チームと退魔兵団チームってわけか。
元の世界で言えば、機動隊チームと自衛官チームみたいなものだ。
華瑠亜から話を聞いた時は、五〇〇万ルエンなんて破格のお宝に色めき立ったが、こんな連中が相手になるんじゃ学生の俺たちなんて、土台無理だろ?
「そう言えばあの
「そもそもダンジョンと言うのは、地上の到る所にマナが満ちていた昔、各地に棲んでいた亜人が建設したものなのよ」
「人間ではなく、亜人なんですか、建てたのは……」
亜人と聞いて、先生と手を繋いでいたメアリーも反応する。
「ノームも昔はダンジョンを管理していました。パパたちが壊しちゃった宝具も、その頃の〝
「宝具、壊しちゃったの! 紬くんたち!?」
優奈先生が目を丸くする。
「いやいや、壊しちゃったって言うか……言い方が悪いなぁ。可憐が斬っちゃった、って感じです」
「えっと、あまり変わってないような……」
首を傾げる優奈先生。
そんなことより、また変な単語が出てきたぞ? グレイス? いや……そう言えば同じような事を、ノームの族長のガウェインも話してた気がする。
優奈先生に代わり、今度は紅来が説明を引き継ぐ。
「パワースポットってのは、簡単に言えばマナの発生源だよ。全国各地にあって、その一部にこう言ったダンジョンが建てられてる……って、常識でしょ?」
「で……グレイスってのは、何?」
紅来の『常識でしょ』は、もうスルーでいいや。
「詳細は解ってないけど……はっきりしているのは、高い濃度のマナを特殊な術式で魔石に集めることでグレイスを授かることができる、ってこと」
紅来に続き、メアリーも得意気に胸を反らす。
「古代亜人は、魔石から現出する宝具を〝大地神からの
ちょうど、その宝具が現出する周期が一年に一回……というわけか。八房の仙珠に色違いが存在するように、グレイスの内容にもバラつきがあるに違いない。
メアリーの話を聞いて、再び紅来が言葉を継ぐ。
「ダンジョン全体が魔石――つまり、祭壇にマナを収束させる為の巨大な魔法陣の役目を果たしているんだよ。結界のせいで外界からの影響も受けない。常識だけどね」
なるほど……。
魔力変換塔のおかげで外の世界はマナ濃度が低下しても、ダンジョン内は未だに高いマナ濃度を維持してるのはその為か。
当然、ダンジョン内では魔物の活動力や進化力も上がり、突発的に上位モンスターが出現する確率だって否定できないと言うわけだ。
「と言うことは……さっきの毒島って人が言ってたことも、
今度は、先頭を行く華瑠亜が忌々しそうに振り返る。
「そりゃそうだけど……そうは言っても、ランクEならたまに上位が出たって★3まで。さらに★4までとなると、ガクンと確率は低下するし、仮に出たとしても……」
そう言いながら、勇哉の方を見る。
「おう、任せとけ! ★4なら
言いながら、背に担いだ
リリスだっているし、一体や二体★4が出たからと言って、落ち着いて対処すれば危機に陥ったりすることもないだろう。
「イスパシアンの待機所……ここね?」
テントの前に着くと、入り口から少しだけ中を覗きこんだ華瑠亜が、しかし、そのまま逡巡もなく中へ足を踏み入れる。
テントとは言っても、木で組まれた骨組みに大きなシートを被せた……いわゆるサーカス小屋のような立派な天幕だ。元の世界で言えば、プレハブ小屋のような役割を果たしているのだろう。
中では数人の男女が思い思いの場所に腰掛け、本を読んだり杖の手入れをしていたりしていた。今回のイベントのイスパシアンやその付き添いなのだろう。
「え~っと、私たちの担当……なんて名前だっけ?」
華瑠亜が鞄に入れた竹のクジ棒を探してる間に、リリスが俺の肩の上から叫ぶ。
「ザコよザコ。……ザコさん、いますかぁ~!?」
略すなっ!
「雑魚井だ!
「細かいなぁ。どうせ昔から、ザコ、ザコってあだ名で呼ばれてるわよ」
「それならなおさらだ。そんな苗字になったのは本人のせいじゃないし、相手の気持ちも考えろ」
「相手の気持ちとか……悪魔になに求めてんのよ」
そっか……そうだった。
その時、ランプの明かりが届いていない暗がりから、ズズッ、と椅子を引き摺るような音が響く。同時にテントの奥から聞こえてきたのは、やや掠れ気味の男性の声。
「おう……雑魚井は俺だ。あんたらか、俺が担当するのは?」
声がした方に目を凝らすと、薄暗がりの向うに、椅子に座ってこちらをジッと見ている男の姿が浮かび上がる。
さらに近づくに連れ、徐々にその風貌が明らかになっていく。手入れのされていないボサボサの髪に、落ち窪んだ双眸。年の頃は、恐らく五〇歳前後であろうか?
すぐ脇に置かれた、高さ一メートル程の小さな戸棚をテーブル代わりに使っているのか、その上に乗せた右手に何か握っているのが見える。あれは――
スキットル!?
よく、西部劇のガンマンなんかが、ズボンの後ろポケットに入れている金属製の平べったいウイスキーボトルのことだ。
この世界にチタンやステンレスはないだろうし、恐らく西部劇同様
スキットルに入れる中身と言えば当然――
男に近づくにつれ、強くなる独特の臭いに俺たちは顔を
このアルコール臭……中身はやっぱり、酒だ!
しかも、周囲に漂う臭いから、ワインなどではなくウイスキーのような蒸留酒であることも解る。
「ほらやっぱり!」と、リリスが呟く。
「やっぱりって、なにが?」
「紬くんの〝運〟よ」
「だから、俺の運がどうしたってんだよ?」
俺の質問に、リリスが思いっきり眉根を寄せて顔を
「だって
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