13-2.霊姫の顎門(あぎと) <その②>
「
「バカか
そりゃヤベェけど……じゃあどうすんだよ、この後は?
「おい、幽霊野郎! おまえの狙いはこっちだろっ!」
タナトスの注意を引きつけようと声を張り上げる毒島。
しかし、あれでは……。
「時間稼ぎにしかならないよ」
いつの間にか、俺のすぐ横に近づいていた
「とにかく、あのタナトスって奴があの位置じゃ毒島っちの攻撃が届かない。なにかダメージを与えること考えないと、いくら時間を稼いだって……」
確かにそうだ。
いくら毒島がタナトスの注意を引いたところで、こちらの攻撃がタナトスに当たらないんじゃ、事態はいつまで経っても
「
「む、無理よ……。たとえ攻撃が当たったってADSTなしじゃ……。それに、仮に当たったところで、
そう言いながら、ヒールを詠唱し続ける優奈先生に目を向ける華瑠亜。
そうだ、
中身は
いや、そもそも精霊だって、普通に物理攻撃が通用するんだろうか?
とにかく今は、先生とメアリーの二人掛かりで聖さんの蘇生を試みている最中だし、とても、ADSTために中断できるような雰囲気じゃない。
「ほら! こっちだ、幽霊野郎ぉ――っ!!」
さらに距離を取る毒島をゆっくりと目で追っていた
――その
『フハハハ! ……馬鹿め。私の目的は
「な、なにぃ!?」
『ふん……そんな
『
「くっ!!」
タナトスの述懐の途中で、すでに毒島も、聖さんたちの元へ再び駆け出していた。
だがしかし――。
『もう遅いっ!!』
必死に駆け戻る毒島の速度よりもさらに速く、聖さんの元へと伸びる闇の射線!
『これでようやく、私も完全体に戻れる!』
勝ち誇ったように、絶望の凱歌を奏でるタナトス。
だ……だめだ! 間に合わない!!
優奈先生、メアリー、寿々音さんと聖さん、そして勇哉……。
闇の粒子に飲み込まれた五人の体が一瞬にして腐食し、骨だけを残して床に零れ落ちる。
いや、残った骨も一瞬間遅れただけで粉々に砕け、塵と変わり、霧散する。
――そうなるはずだった。
しかし、思わず目を瞑りかけたその瞬間に俺の視界の中で掻き消されたのは、五人の手前で四散したダークブレスの方だった。
「!!!」『!!!』
部屋にいた全員が、タナトスまで含めてその光景に目を見開き、驚愕する。
消えゆくブレスの向こう側で、
「め……メアリー!?」
よく見れば、聖さんたちをとり囲むように周囲で白光を放つ三つの小石。
あれは……結界石!?
「
誇らしげにメアリーが呟く。
「通常、あのクラスの相手に簡易結界など無意味なのですが、
「す……すげぇじゃねぇかチビッ子!」
満面の笑みを浮かべながら、メアリーの金髪をグシャグシャと掻き乱すように撫でる勇哉。
それを鬱陶しそうに見上げながらも、満更でもない様子のメアリー。
そうか……。
メアリーがずっと詠唱していたのは回復呪文じゃない。結界詠唱だったんだ!
「パ……パパも、褒めたかったら褒めたっていいんですよ?」と、はにかみながらも半強制的に賞賛を要求するメアリー。
「お……おう! よ、よくやった、メアリー!!」
俺の言葉に、メアリーも満足そうに満面の笑みで答える。
「ちょ……ちょっと待って……」と、肩の上で漏らしたのはリリスだ。
「なんだ?」
「これってもしかして……あのチビッ子が全部美味しいとこ持ってった感じ!?」
「……はい?」
「このダンジョンの、トータルの活躍度は、まだ私の方が上よね?」
「な、なんの話をしてんの、おまえ?」
「序列の話よ! なんかあのチビッ子の印象が強くなっちゃったみたいだけど、紬くんはちゃんと、使役者として私の活躍も公平に評価してもらわないと……」
「し、知らね―よっ! その話、いま必要!?」
「最優先だよっ!」
序列はまだ、私の方が上だよね? と、俺の耳元で声を顰めるリリス。
「リリッぺ! メアリーのいないところで序列の話は禁止ですよ!」と、メアリーが眉を吊り上げる。
「あ、あいつ……聞こえてんの!? なんて地獄耳よ……」
「壁に耳あり障子にメアリーです!」
「……つ、紬くん、どうなのよあの駄洒落は? かなりのマイナスポイントよね?」
マイナスポイント勝負じゃ、いい勝負だからなおまえら?
『まさか……結界術を使える者がいたとはな……おまえ、人間ではないのか?』
「ノームですよ。この偉大なるダンジョンを築いた偉大なる種族の末裔にして、偉大なる
偉大なる自己紹介!
『フン……まあいい。簡易結界ならそれほど強度も持続時間も長くはあるまい……。あとからゆっくりと始末してやろう』
そう言いながら、今度は視線だけではなく、体ごと毒島に向き直るタナトス。
メアリーの結界を見て足を止めていた毒島だったが、タナトスと
『こうなれば、まずは望みどおり
相変わらず、タナトスが乗り移った伏姫は宙に浮いたままだ。
メアリーの結界のおかげでなんとか時間は稼げたが、それでもこちらの攻撃が当てられない状況が続く。
あとどれくらいでタナトスの身体は崩壊するのだろうか?
それまで全員、あいつにやられずにすむのか?
と、そこまで考えたそのとき――。
「消え去りなさい――」
弱弱しい……しかし、冷徹な囁きがタナトスの背に投じられた。
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