05.召集魔法
「
全員が一斉に
短い沈黙の後、
「あんな時空操作系の高等魔法、使える人に心当たりがないし……仮にいたとしても、あれは予め召集対象者の体に魔法円を描いておく必要があるだろう?」
「うん、そうなんだけど……学校の近くのウィッチクラフトショップにさ、似たような効果の魔具を見かけたことがあるんだよね」
それを聞いて全員が一斉に、脱力したように背凭れへ身を預ける。
「そのショップって、あれだろ?
少しムキになって説明を続ける勇哉。
「俺、あの店、よく出入りだけはしてるんだけど、そんな馬鹿にしたもんでもないぜ? たまには掘り出し物だってあるんだよ」
「で、その
一応聞くだけは聞くか、とでも言うように、冴えない表情のまま
「俺も記憶の話なんだけど、確か
「ここに居ない人を呼ぶのよ? どうやって体の一部なんて手に入れるのよ」
「紅来の別荘に戻って枕でも調べれば、髪の毛の一本くらい見つかるんじゃね?」
「リリスちゃんはどうなるの?」
「俺も詳しくは知らないけど……ああいうのは装備品や服と一緒じゃん?」
う~ん……と腕組みをして考え込む華瑠亜を見て、
「それ、いくらだったの?」
「確か……銀貨三枚くらいだったと思うよ」
銀貨三枚……。
微妙な値段だわ、と麗は思う。
魔法の韻度を考えれば破格な気もするが、一回きりだろうし、眉唾だと決め付けるほど安い値段でもない気がする。
「試すなら、一人あたま銅貨三~四枚のカンパね……」
ボソリと呟いた麗の言葉を隣で聞いていた華瑠亜が、上がって皆を
「ねえ、それ……試してみない?」
「俺は構わないけど……いいのかよ? あの眉唾ショップの品だぜ?」
歩牟が、意外そうな表情で華瑠亜に確認する。
「たまには掘り出し物もあるんでしょ? それに……どうせ三日間は何もできないんだし、少しでも可能性があるならやってもいいかな、って……」
私は一人でもやるつもりだけど! と華瑠亜が付け加える。
「俺は……いいよ、やっても。どうせ代案もないし」と、歩牟。
「もちろん俺も」と、言い出しっぺの勇哉も手を挙げる。
「仕方ない。あのショップってのは気になるけど……いいよ、やっても」
紅来の賛同を得たところで、改めて部屋中をぐるりと見渡す華瑠亜。
「下りたい人は手を挙げて。インチキ臭い奴の情報だし、別に責めはしない」
「インチキ臭い……って、俺のことかよ!」
華瑠亜の言葉に、勇哉が憮然とした表情になる。
しかし、手を挙げる者は一人もいない。
それを見て、優奈先生も「よ~し!」と声を上げる。
「じゃあ、みんなが銅貨四枚ずつ出すなら、先生が残り全部出すよ!」
「それだと先生が一番少なくなりますけど……」と、紅来。
「そ、そっか。えっと、みんなが三枚ずつで、先生が残り全部ってことね……」
華瑠亜が、集金用の巾着袋をテーブルに乗せる。
「じゃあ、決まりね。お金集まったら、勇哉、買ってきて!」
「ええ? 俺? 一人で?」
華瑠亜の指示に勇哉が不平を漏らすが取り合ってもらえない。
「だってあんた、常連なんでしょ?」
「いや、別に、常連じゃなくたって買い物はできるだろ……」
「あんたが言い出しっぺだなんだし、そのアイテムを見たことあるのもあんただけだし、どう考えたって一番適任でしょ」
「そ、そりゃそうかも知れないけど……」
華瑠亜が壁時計で時間を確認する。
「今、夕方の四時だから……今日中に戻ってこられるわね?」
「無茶言うなよ!」
「片道二時間もあれば着くんだから、可能でしょ?」
「店の営業時間も考えろって!」
チッ! と華瑠亜の舌打ちが聞こえた。
◇
「大した食材がなくてすいません」
メアリーがテーブルに干し肉とスープを並べていく。
肉は、おそらくマナ抜きしたケイブドッグのものだろう。
スープの中にも、湯で戻した干し肉と――――
どこかに野菜の栽培室でもあるのだろうか? 里芋や小松菜、ほうれん草など、日陰でも育つ野菜が入っている。
もちろん、質素過ぎる献立ではある。
しかし、どれもきっと、メアリーにとっては貴重な食料であるに違いない。
「いや、こっちこそ貴重な食料を分けてもらって、悪いな」
「でも、この干し肉、独特の風味で意外と癖になるのよね」
テーブルの上で、リリスが干し肉に噛り付いている。
この雑食悪魔が料理の "風味" なんて気にしてるとは夢にも思わなかった。
スープを一口だけ味見してみる。意外と美味しい。
「このスープ、凄く美味しい」
「塩もダシもあるからな。普通に美味しく出来てると思うよ」
濡れた髪をタオルで巻きならがら、台所に立っているのは可憐だ。
お風呂は、メアリーと可憐とリリスの三人で入り、その後交代で俺も入った。
普段は何日か同じお湯を使い回すらしいが、今日は俺たちのために新しい水で焚いてくれたらしい。
あれだけの水を川から運ぶだけでもかなりの重労働だろう。
この、小さなメアリーのどこからそんなパワーが出てくるのか不思議だ。
「近くに "塩泉" と呼ばれる場所があって、塩分を含んだ水が湧いているのですよ。塩はその水を加工したり、スープならそのまま使ったりしてるのです」
「へぇ~。塩泉なんて、珍しいな……。出汁は? どうやって?」
「普通に……骨を煮込んで……」
可憐が伏し目がちに答える。
ああ……あれか。犬骨スープってやつか……。
それは聞かなかったことにしよう。
「久しぶりにママが作ってくれたお料理ですからね! メアリーはどんなものでも嬉しいです!」
「うん。そうだな」
ニコニコと嬉しそうに笑うメアリーに、思わず俺も釣られて笑顔になる。
一瞬だけ過る、本当の家族になったような錯覚……。
可愛い娘に可愛い奥さん。
この場面だけ切り取ったら、まさに理想の家族のような光景かも知れない。
そんなイメージが湧くなんて、本当に魂が乗り移ってるんじゃないだろうな?
「ところで、なんでパパとママになってんの?」
リリスがメアリーに訊ねる。
そう言えばこいつ、その話をしてる時は可憐の膝の上で寝てたんだっけ。
「それは、メアリーのパパとママの魂がお二人に乗り移ってるからです」
「魂? ほんと?」と、今度は俺の方を向く。
「まあ……そう言うことらしい」
ここは、敢えて否定するのも野暮ってものだろう。
「メアリーに妹はいませんでしたが、ちょうど弟か妹が欲しいと思ってましたので、リリっぺは弟ということでいいです」
「妹でしょっ! ……というか、リ、リリっぺ?」
「はい。ノーム族の他の家族を観察した結果、上が下の兄弟を呼ぶ時は、だいたい『ぺ』を付けて呼んでいたようなので」
それ、ノームというより、たまたまメアリーが見た家族の話じゃないか?
リリスも慌てて、両手と首を同時に振る。
「い、いや、変な設定要らないし、普通にリリスのままでいいんですけど」
「リリスっぺじゃ、なんか言い辛くないですか?」
「まず『ぺ』から離れて!」
メアリーが困ったような表情になる。
「『ぺ』が嫌だとなると……パ行の他の文字から選ぶことになりますね。リリっぱ、リリっぴ、リリっぷ、リリっぽ……」
「えっと、まあ……いいや、リリっぺで……」
可憐が、最後に作っていた肉野菜炒めをテーブルに置いて席に着く。
また、先程までと同じく俺、メアリー、可憐と順番に並ぶ、狭苦しい席順。
「じゃ、ママも揃ったところで、いただきますか」
思わずそう言ってしまって、自分でびっくりする。
雰囲気に流されたのか、思わず可憐の事を "ママ" と呼んでしまった。
可憐もそれに気付いたのか、少し頬を赤らめる。
「ああ! なんか、本当にパパとママが戻ってきたみたいです! メアリーは感激です! それでは、いつものように、最初の一口は、"あ~ん" でやって下さい」
「あ~ん?」
「はい。最初の一口は、いつも "あ~ん" で食べさせてました」
ったく、しょうがねぇなぁ。
やっぱり、中身はまだまだ子供だな……。
肉野菜炒めを箸で少し抓んでメアリーの前に持っていく。
「はい。あ~ん!」
しかし、メアリーが冷めた目つきで俺を見上げる。
「何やってるんですか? アホですか? メアリーにやってどうするんですか? ママにやって下さいよ」
「はあ? なんで可憐に!?」
「最初はいつも、お互いに一口ずつ "あ~ん" で食べさせてましたよ。夫婦の絆を強くする儀式なんだと言ってました」
おまえの両親、どんだけラブラブだったんだよ……。
とりあえず、仕方ないのでそのまま箸を可憐の前まで持っていく。
「は、はい。あ~ん……」
可憐が顔を赤らめながら、野菜炒めを口に入れる。
「じゃあ次は、ママからパパへお願いします」
今度は可憐が抓んだ肉野菜炒めを、可憐の「あ~ん」の声を聞きながら俺が口に入れる。
これにはリリスも、呆れたように、薄目で俺達を見上げている。
よくアニメなんかでは見かけたカップルのドキドキイベントだが、正直、自分でやるまではこんなもので何がドキドキするのかよく解らなかった。
が、実際やってみると、なるほどこれは……結構なドキドキ感だ。
特に、クーデレ可憐の、恥ずかしがりながらの「あ~ん」は破壊力抜群だということは理解できた。
「どうですか? 絆は深まりましたか?」
「そ、そうだな。まあ、深まった気はする、かな?」
可憐は恥ずかしそうに、一方メアリーは満足そうに頷く。
「それでは次は、いつものようにキスを……」
「できるかっ!」
バカップルかよ!
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