第96話 雲蒸龍変(うんじょうりゅうへん)
【再生(レノヴァーチ)】
それは物をあるべき姿に戻す魔術。
巻き戻しのように飛び散った破片がもとに戻っていく。
「すごいです……」
「なんと……凄まじいな……」
「あらあら、これはすごいわねえ」
リリーさん、グスタフさん、ミネットさんが三者三様に驚きの声を上げる。
「処分した書類をブランちゃんが元通りにしたとは聞いてたけど、アナタも出来たのね……しかも無詠唱で……」
「アルは何でもできる」
ミネットさんのつぶやきに、ブランがドヤ顔で答える。
ブランは自分が褒められるよりも、僕が褒められる方が嬉しいようで、こうして何かにつけては僕を上げてくれるのだ。
僕もブランの気持ちは嬉しいのだが、あまりにも褒められ過ぎると調子に乗りそうで怖い。
「アルは調子に乗り過ぎな方がいい。ちょっと自分を過小評価してる」
何で考えてることが分かるの?
僕が驚いて目を見開くと、ブランは得意気に答える。
「愛の力」
片目をつぶろうとして両目をつぶってしまっているが、それでも親指を僕に向けてくるので、僕も親指をブランに向けて応じる。
「アルは分かりやすいよ」
マジかぁ。
普段からポーカーフェイスのつもりなのになぁ。
「ホッホッホ、【観相術】の一種じゃな。そういえば、ブラン嬢の母上もそれでゲオルクの嘘を見抜いておったのう」
グスタフさんが、ブランの特殊能力を説明してくれた。
どうやら、表情や仕草から心の中を読み取るような技術があるらしい。
まあ、前世のメンタリストみたいなもんかなと無理やり納得する。
「ところで、話を続けて良いかの?」
「あっ、すみません。どうぞ」
「ん」
僕は素直に謝罪して話を促すが、ブランはたいした興味も無さそうだ。
ブラン、君のせいでこんな事になってるんだけど?
「それでは……リリー」
とりあえず僕が話を聞くならと、グスタフさんが話を続けるようだ。
グスタフさんの指名により、リリーさんが話を引き継ぐ。
「はい。これからは私が続けさせていただきますね。今回、アルフレッドさんたちが2ランクアップしたのに合わせて、当ギルドから二つ名も贈らせていただきます」
「あれ?もう僕らには二つ名が付いてたみたいたんですけど。僕が【無詠】でブランが【獣魔】だっけか?」
「ん。可愛くない」
「それは渾名ですね。本来、二つ名とはギルドが優秀な冒険者に贈っていた称号のようなものなんですが、それを貰えない人たちが勝手に二つ名を付けていたら一般化してしまったんです」
「そうよ。だから渾名の二つ名にはヒドイのが多いの。私なんて【飛翔筋肉】よ」
ミネットさんが、そうフォローするが、彼(彼女?)の場合、なかなか的を射ているようだが。
「そうです、そこで当ギルドではアルフレッドさんに【昇龍】、ブランさんに【龍雲】の二つ名を贈らせていただきます」
おおっ、【昇龍】なかなかカッコいいじゃないか。
これはあれか、これから龍が天に登るように活躍するだろうって意味合いか?
僕が分かりやすい二つ名でホクホクしていると、隣でブランは不満そうな顔だ。
僕にだけ分かるほどの微妙な表情の変化だが、納得していないようだ。
そうだよね。
龍は龍でも雲だしね。
そこで僕はブランの二つ名の意味を尋ねる。
「ありがとうございます。立派な二つ名に恥じないよう努力します。ところで、ブランの二つ名なのですがどうして『雲』なのです?」
するとグスタフさんが、優しく微笑みながら答える。
「うぬ。それはワシが話そう。昔からの言い伝えでな【龍の雲を得る如し】って言葉があるのじゃ。古来より龍は雲を纏って天に登るとされておるのじゃ。つまり、龍が天に昇るには雲が必要なのじゃよ。まさにお主と嬢ちゃんのようではないかな?」
「おおっ」
その説明にブランが驚きの声を上げる。
表情も喜びに溢れている……といっても僕にしか分からないくらいだが。
どうやら、彼女も満足してくれたようだ。
「ブランも喜んでいるようです。こらからもよろしくおねがいします」
「ん」
「うむ。これからも期待しておるぞ」
こうして僕たちは、2ランクアップとギルド直々に二つ名を贈られたのであった。
「ところでな……」
会談は終わったものと思い込んでいた僕に、グスタフさんが更に問いかけてくる。
「ここからは、この街を治める代官としての話になるのじゃが……」
どうやら貴族の話になりそうだ。
あれほど、姓は無いと言っているのに……。
まぁ、ここまでいろいろと配慮してもらった恩だ。
聞くだけ聞いてみよう。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
まだイケる。
2作品の毎日更新。
そろそろストックが尽きそうですが、ヤレルまではひた走ります。
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