第182話 偏袒扼腕(へんたんやくわん)

「…………アル、怒ってる?」


 獣人も含めた亜人を虐げる【ナフレリア公国】の話題になって、どうやら知らず知らずのうちに感情が顔に出てたようだ。

 ブランが上目遣いで僕を見上げながら、ふとそんなことを尋ねる。

 あまりにもかわいらしいその破壊力に、僕の胸は高鳴るばかり。 


 生まれたときからディアナやゲオルクといった獣人に囲まれ、まだ教会預かりとは言え婚姻届まで出してるブランを相棒に持つ僕にとって、『人族至上主義』とか言うふざけたことを抜かしているヤツらはまさに敵だ。

 当然のこと、そんな不愉快なヤツらの話が出れば面白くない。


 聞けば、獣人は魔術が使えないから劣っているとバカにしているらしい。

 あまりにもバカバカし過ぎて呆れてしまう。

 その分、身体能力なんて、人と比べるのもおかしいほどに優れてるのに。

 じゃあ、魔術が使えるエルフやドワーフも一緒に亜人と蔑んでいることにはどう説明をつけるつもりだ、とか考えていたら見事に心の中を読まれていたようだ。


「いや、別に~。ただ、ブランみたいに獣人も魔術を使えると知ったら【ナフレリア公国】の人族至上主義者たちは、何て言うだろうかって思ってね」


 あまりにもストレートに感情を当てられたのが悔しくて、思わず見当外れの答えを返すのだが、どうやらそれも見抜かれていたらしい。


「ありがと」


 そう言って素っ気なく前を向いたブラン。

 だけど、その尻尾が大きく左右に振れているのを見て、僕はすごく暖かな気持ちになるのだった。


        ★★


 しばらくふたりで町中をブラブラし、情報収集をした僕たちは、ようやく目的地にたどり着いた。


 塀や壁は崩れ落ち、敷地のあちこちには雑草が生い茂っている。

 建物内には明かりも見えず、暗く淀んだ雰囲気が漂う。

 それが、大地母神【ソフィア】を奉る【神聖サンクトゥス教】の教会であった。


「うわぁ……、さすがにこれは酷いねぇ」

「ん。でも、どうして?」

「まぁ、そもそも信者が少ないってのもあるんだろうけどさ」

「ああ、獣人ばっかだから……」

「そう。獣人たちは太陽神を信仰している者が多いからね」


 言わずと知れた、僕とブランが『聖人』の認定を受けている【神聖サンクトゥス教会】だが、大陸で最も信者を抱えているとは言っても、所詮は人族の間で信仰されているだけのもので、人族自体が少ないブーフヴァルト辺境伯領では自ずから信者数も減る。

 しかも、相次ぐ戦で景気も下降気味となれば、教会がこの惨状を呈するのもやむを得ないことだろう。


「まぁ、信者自体が少ないなら仕方ないよね」

「ばっちい、よ……」

「まあまあ……、ちょっと話を聞いてみようよ」

「む~っ」


 こうして、あまりの汚さから中に入ることを嫌がるブランの背を押して、僕たちは古ぼけた教会へ入るのだった。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


ふたりは、教会で情報の真偽を明らかにする予定です。

聖者と聖女ですから、教会は全面的に支援してくれるでしょうからね。





モチベーションにつながりますので、★あるいはレビューでの評価していただけると幸いです。

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