第181話 不倶戴天(ふぐたいてん)
ブランと連れ立って町の中を闊歩する。
それなりの規模の町だと言うのに、人々に活気が見られないことが気になっていた。
冒険者が多いため、バイタリティー溢れる連中があちこちにいるアグニスの街が異常なのだとは分かっているが、それにしてもすれ違う人々の目に力がないことが引っ掛かるのだ。
だから、ロイドやカズキたちにも情報収集を依頼したのだが……。
「どう?何か分かった?」
僕がそんなことを尋ねると、ブランはアッサリと答える。
「ん。他国との小競り合いが続いてるせいで疲弊してるみたい」
白狼の獣人であるブランは、鼻が利くばかりでなく、その気になれば優れた聴覚で広い範囲の音を拾うことも可能だ。
そこで僕は、町をぶらつきながら周囲の人々の生の声を探ってもらっていたのだ。
集中して音を拾うと煩すぎてアタマが痛くなるというブランを拝み倒して、尻尾のブラッシング3回分で手を打ってもらったことは内緒だ。
そんなブランが町の人々の声を拾ったところ、「戦争で……」「怪我をした兵士たちの処遇……」「畜生ッ、また値上げだと……」「盗賊の出没……」「小競り合いが多くて……」「人の足元を見やがって……」「これっぽっちも、明るい話題がない……」とあまり芳しくない話題ばかりだという。
「ああ、そうか。【ナフレリア公国】絡みかぁ……」
そして、ブランの他国という言葉で僕が真っ先に思い付いたのが、東部辺境伯領に接する【ナフレリア公国】であった。
かつて、この大陸で繁栄を極めていた連邦国から独立した小国。
主な産業は、ミスリルやアダマンタイトと言ったレアメタルを中心とした鉱物資源の輸出。
そして、もっとも特筆すべき点が、国全体に広まる異常なまでの『人族至上主義』であった。
かの国では人族のみを優れた種と標榜し、獣人やエルフ、ドワーフといった人とは異なる存在を『亜人』と呼んでは蔑んでいた。
「確かに、ここ最近は何かにつけて手を出して来てるとは聞いていたけど……」
「ん。公国が鉱山を狙ってるとか……」
「そう言えば、ちょっと前に公国の資源が枯渇するって噂があったよね」
「多分、ホント。だから……」
「そうだね……」
僕とブランはそんな会話をしながら町並みを歩く。
『人族至上主義』を掲げる公国にとって、前身が獣人の国で、現在も多くの獣人が住むブーフヴァルト辺境伯領は不倶戴天の敵といったところか。
「自分のとこが資源が尽きたから、隣の国の鉱山を奪おうってことか」
「バカな考え……」
「だよね。『人族至上主義』なんてのを放棄すれば、いくらでも助けてくれる国があるだろうにさ……」
僕は隣国の指導者の無能さに呆れるばかりだ。
今やどこの国に行っても、公国が亜人と呼ぶ者たちは存在する。
そして、公国を除いた多くの国々はそんな亜人たちを自国民と認め、良好な関係を築いているのだ。
当然のように、亜人を迫害するような国とは手を取り合うことはないだろう。
昨今、公国の資源が尽きたと言われているが、それ以前からも公国と取り引きをする国はそう多くなかった。
やたらと人族スゲーを連呼する貧乏な小国。
それが多くの国から見た【ナフレリア公国】であった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ちょっと説明回でした。
動きがないので明日も更新しますね。
モチベーションにつながりますので、★あるいはレビューでの評価していただけると幸いです。
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