第199話 不当廉売(ダンピング)

「店の人が言ってたように、この町はとある商会に支配されているんだ」


 余るほどの食材を受け取った店主が、腕によりをかけた料理を食べながら、僕はそう切り出すとスラムで聞いたこの町の現状を説明する。


 今や悪名の方が知れ渡ってしまったカイウス商会。

 その傘下であ【フィデス商会】がダンピング―――不当に安い価格で商品やサービスを提供して市場を独占した結果、町の経済にまで影響を及ぼすことになったのだと。


「えっ?それって……」


 そして、その説明に真っ先に反応したのは、アグニスの街でも有数の酒場『かがり火ファッケル』のひとり娘で、ロイドの店の従業員であるアリシアだった。

 彼女もまたアグニスの街を狙った不当廉売ダンピングの当事者でもあったため、他人事ではなかったのだろう。


「そう。この町はアグニスの街が辿っていたかも知れない未来なんだ」


 同じ品ならば、より安いものに飛びつくのは人のさが

 だが、その背後に悪意があれば、逃れようもない罠だとも言える。

 アグニスの街では、領主のグスタフさんがその危険性に気づいて手を回していたけれど、この町ではそれに気づくことが出来なかった。

 もしかすると、アグニスの街より巧妙な手口だったのかも知れないが、この町の領主あるいは代官はその対処が出来ていなかった時点で、無能の謗りを受けることは免れまい。

 厳しい意見かも知れないけど、貴族や人々の代表という立場は、それだけ重要なのだと僕は思う。

 ぶっちゃけるならば、人より金をもらっていい生活をしてるんだから、その分しっかりと働けと言いたい。

 一瞬だけ、じゃあ、前世の政治家たちはどうだったんだと頭を過ったが……うん、発言は控えることにしようか。


 とにかく、僕はこの町の置かれている悲惨な現状を事細かに説明すると、あの能天気なカズキですら食べる手を止めてうつ向いていた。


「師匠、それってどうにかならないんでしょうか……」


 僕とブラン、それとロイドを除けば、この場にいる面々はアグニスの街の生まれだ。

 とても他人事とは思えなかったのだろう、  

 そんな沈鬱な雰囲気の中、【蒼穹の金竜】のリーダーであるソウシがみんなの意見を代表するかのように発言をした。


「そこは問題ない。アルがちゃんと手を打った」


 すると、それまで静かに食事をしていたブランが、小さな胸を張って得意気にそう告げる。


「「「「「おおおおっ……。さすが師匠……」」」」」


 一同から驚きの声が上がると、ブランはまるで自分のことのように喜んでくれる。


 いやいや、ブランさん。

 あなたも手伝ってくれたでしょ?

 自分のことも誇ってくれてもいいんだよ?

 そっちは、別に構わない?

 僕が評価される方が嬉しい?


 相変わらずのブランに、思わず苦笑いを浮かべる僕。


「僕だけじゃないよ。ブランも一緒だよ」


 僕が必死にそうアピールするも、周りからはハイハイ分かってますよという生暖かい目で見つめられる。

 ………………解せぬ。


 そんな会話が繰り広げられていると、今までずっと無言を貫いていたロイドが、手にしていたフォークを取り落とす。


「すすすす……す、すいません。お……お……俺……。その【フィデス商会】と、この先一緒に隊商キャラバンを組むことを約束しちゃいました……」

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


と言うことで、この町を陥れた悪の根源との対決の場が設けられました。

ここまで長かった。

後数話でこの章を終えて、次章でいよいよ直接対決となります。


モチベーションにつながりますので、★あるいはレビューでの評価していただけると幸いです。


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