第198話 食材提供(しょくざいていきょう)

「ええっ?これで終わり?」


 僕とブランが聞いてきたこの町の現状を話そうとすると、カズキが食べ終わった夕食のメニューにケチをつける。


 確かに、アグニスの街に比べて3倍も多くの宿泊料を取っていながら、この夕食のショボさは文句も言いたくなるだろう。


 固い黒パンに薄っすいスープ……終わり。


 さすがに僕もこれはないだろうとは思うけど、それもこれも全てはカイウス商会とその傘下による経済支配の為せる業だ。


 僕は前世でいうところの欠食児童のような表情を浮かべる一同の顔を見回す、思わず苦笑いを浮かべる。

 これじゃ、どんな話もアタマには入らないよね。


「ちょっと待ってて」


 僕は席を立つと、宿の主と話をすることにした。


「すみません。これがこの町でお出しできる精一杯の食事なんです」


 宿の主は猿の獣人で、赤ら顔に頬まで伸びた体毛が特徴的な男性だった。

 どうにも抜け出せないこの町の状況に疲れてしまったのだろうか、どこか惰気が漂っている。


「ええ。この町のことは聞いています。なので仕方ないかと」

「お客様……」

「そこで、ひとつお願いがあるのですが、こちらで食材を提供するので、それで料理をしていただくことは可能でしょうか?」

「え……ええ。それは可能ですが……その……」


 旅の冒険者が持っているような食材など、干し肉程度のもの。

 おそらくは、そんなことを考えたのだろう、困惑する表情が見て取れる。


 そこで僕は、店主の目の前に【収納レポノ】の魔術で保存していたアーマーボアの塊肉を取り出して見せる。


「えっ!?ええええええええええええ!?」


 こんな子どもが、詠唱もせずにどこからともなく食材を出して見せたことで、店主は驚きの声を上げる。


 フッフッフッフ……これだけではないのだよ。


 ジャガイモソラヌム玉ねぎウニオーにんじんパースニップきゅうりククミスと野菜も忘れずに出していく。


「はっ?はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」


 僕は不敵な笑みを浮かべながら、塊肉を店主に差し出すと尋ねるのだった。


「あとは何が必要ですか?たいていのものはお出しできますよ」


        ★★


 結果的に、店の主は僕たちが頼むものなら何でも作ると宣言した。


 もう、ずいぶんと使われていないメニュー表をどこからか持ってきてはホクホク顔だ。


「さぁ、これだけの食材をもらったんです。ジャンジャンと頼んで下さいよ」


 ここは家族で経営している宿屋だったようで、人手が足りないと呼び出された妻や子どもたちは、調理場に山のように積まれた食材に目を見開いている。


「私はねぇ、料理を振る舞いたくて店を開いたんですよ。それが、こんな状況になっちまって……。でも、今日はいい日だ。腕によりをかけて料理させていただきます」


 店の主の明るい声が食堂に響き、家族も涙を浮かべながらその言葉にうなずいている。


「じゃあ、俺は……」

「僕はね……」

「アタシはこれで……」


 そして、うちの腹ペコメンバーたちも待ってましたとばかりに注文を始める。


 だけど、さすがに食べ過ぎじゃね?


 まぁ、みんな喜んでいるようだし、別に構わないか。

 あっ、そうだせっかくなので宣伝をしておこうか。


「数日後に、教会でバザーが行われるみたいですよ」

「教会……?あそこは神父様が亡くなってたはずでは……?」


 はい、ちゃんと亡くなってます。


「ええ、アグニスの街から大司教様がいらっしゃったんです。この町の現状を憂いて、教会の持つ食料や日常品をで販売するみたいですよ」

「ええっ?ホントですか?」

「はい。しかも、この町の異常な価格高騰が落ち着くまで何ヵ月も」

「そんなことが……。でも、そんなことをしたらアイツベネッケ商会らが……」

「そっちも問題ないみたいです。心強いスラムの人々が協力してくれるみたいですから」

「スラム……?はぁ?」


 店の主は、何を言っているのだと困惑している。

 まあ、突然こんなことを言われても信じられないのは当然のことだけどね。


「とにかく、もう少しだけ我慢して下さい。きっと悪いようにはなりませんから」



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★




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