第206話 強談威迫(ごうだんいはく)

「ええい!そんな言い分が通じるか!!欺瞞、欺罔、欺騙だ!」


 完璧に論破されたドワンではあったが、往生際悪く引き下がることはしない。

 仲間たちは、もう無駄な足掻きだと理解しているため何も言えずにいる。


(このままやらせる訳にはいかない……。もしも、こんな失態がリー様にバレたら、私はクビだ……)


 まさか、生かさぬように殺さぬようにとジワジワと搾取していた町の中で、篤志ともいえるような慈善行為を許してしまったと知られたら、後を任された自分はただでは済まない。

 そんな強迫観念に取り憑かれたドワンは、バザーにやってきた人々に向かって大声で叫ぶ。


「お前らッ!いいのか!?ここで買ったヤツは、明日からウチの店の価格は2倍……い、いや、10倍だ!」


 まさに恫喝。


 たったひとつの商会に、生活必需の品々を押さえられているという現状。

 まさに、生殺与奪の権利を握っているとの傲慢さを隠そうともせずに言い放ったドワン。


 すると、その乱暴な宣言に町の人々の顔色が変わる。


「そ……そんな……」

「さらに値上がり……だと……?」

「私たちに死ねと言うの?」


 ただでさえ、暴利とも言える値段で塩や野菜といったものを販売しているのに、それが2倍……否、10倍ともなればもはや死ねと断じられているに等しい。

 何故なら、この町で定期的にそれらの物を仕入れることが出来るのは【フィデス商会】だけなのだから。 

 

「あの……、これ……やっぱり返すよ」


 中にはせっかく購入した品を返品しようとする者も現れる。

 人々は、ドワンの強迫まがいの脅しに屈してしまっていた。


 教会のバザーでいくらか生活が楽になるかと喜んでいた人々の顔が、たちまち暗く沈んだものへと変わる。

 また、搾取され続けるだけの生活に逆戻りだと沈鬱な気持ちに陥るのだった。


「ハッハッハ!そうだ!それでいい」


 そして、そんな人々の姿を見て高笑いするドワン。

 この町の支配者は自分たち【フィデス商会】なのだと確信するのだった。




―――この時までは。


「お待ち下さい」


 勝ち誇ったドワンの隣で、人々に声をかける者がいた。

 それは言わずと知れたパウロ大司教であった。

 その姿は落ち着いており、このような妨害があることを事前に予測しているかのようであった。


「せっかくのバザーの品です。そちらは是非にお持ち帰り下さい」

「だ、だが、ここでこれらの物を買ったら、明日からはオレたちはまともに【フィデス商会】で買い物が出来なくなるんだ」

「そうよ、早く。早くお金を返して」

「ああ、オレも。オレもだ」


 人々が老司教の言葉に反発する。


 誰も彼もが自分たちの身がかわいい。

 明日から死ねと言われればこうなることは当然だと、ドワンは嗜虐的な笑みを浮かべながらその様子を眺める。


「そうですか。どうしてもというのなら仕方ありませんが、その前に少々お時間をいただけませんか?」


 ドワンの……果ては【フィデス商会】の機嫌を損ねまいと必死になる人々に詰め寄られていたパウロ大司教であったが、彼は穏やかにそう提案する。


「ええ、すぐそこまで一緒に来ていただければ。決して損はさせませんから」


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


さて、パウロの真意はいかに?

明日の更新をお待ち下さい。



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