第83話 一徹短慮(いってつたんりょ)
一方、ブランとアリシアは、以前からの取引業者であった食材問屋に向かう。
調べてみて、何か今回の一連の動きにつながる証拠でもあれば良し。
無くても、問屋の場所さえ抑えておけば、後でいくらでも対処は可能だとの判断だ。
「じゃあ、問屋に案内するから」
「ん」
アリシアが先頭に立って街の裏道を歩いていく。
「ねっ……ねえ」
「ん?」
「アナタとアイツってどんな関係なの?」
「アイツ……アルのこと?」
「そ、そうよ。こんな子供どうしでコンビを組んで冒険者なんて……」
「そっちも子供……」
「っさいわね。とにかく、アンタたちの関係って何なのよ?」
「……家族?」
四六時中一緒で、互いのことを知り過ぎている関係のことは、そう表現するしかあるまい。
あるいはそれを恋人や夫婦とも言うが、ブランはまだ恋愛に疎いため、そちらの結論には至らない。
「そう、家族なんだ……」
「どっちが上なの?」
「私がお姉ちゃん」
こればかりは譲れないとブランが薄い胸を張る。
むふーっと鼻息も荒い。
「アイツは弟なんだ。ずいぶん偉そうだけど」
「偉そうなのは当然。アルはすごい。魔術だけしゃなく、何でも知ってて、何でも出来る」
アルフレッドを褒めるとなれば、ブランの口数は多くなる。
その圧力に、やや引き気味になりながらも、先ほどの大空を駆けたアルフレッドの姿を思い出し、アリシアは納得もする。
「へっ……へえ~、さすがお姉ちゃん。よく見てるね」
「アルのことなら何でも知ってる」
「すごいね。アタシは兄弟がいないから、羨ましいな」
「ん?」
ブランは、姉弟じゃないんだけどな~とは思いつつも、その言葉を否定しない。
決して面倒だなと思ったからではない。
決して。
「それじゃあ、あなたたちの親は?」
「ずっと遠いところにいる」
その言葉に間違いはない。
ブランやアルフレッドの両親は遥か遠くの領都フレイムで存命なのだが、言葉が足りないせいで、アリシアはまた別の意味と捉える。
まさか、転移魔術でやってきたので、両親に会う気になればすぐに会えるとは想像もつくまい。
「……ごっ、ごめん。話し難いこと聞いちゃったね」
「ん?」
「親を無くしたせいで、姉弟で冒険者をやらなきゃならないのね。ふたりとも全然似てないけど、それも理由があるんでしょ。ごめんね」
「……んん?」
いつの間にか、アリシアの中では親を無くした姉弟の設定が出来上がっているが、ブランは敢えてそれを指摘しないことにする。
それは、アリシアの思い込みを尊重しただけで、決して間違いを指摘するのが面倒くさいからではない。
決して。
そうこうしているうちに、ブランとアリシアは問屋の店先に着く。
その問屋は街の表通りから少し外れた場所にあった。
客商売としてはその立地条件は致命的だろうが、食材の卸業者であれば問題はない。
それなりに儲かっていると見えて、他の建物よりは立派な店構えである。
「あれが裏切り者の【ハンザ商会】よ」
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