第82話 虎口余生(ここうよせい)

 僕らを取り囲んでいた男たちが姿を現す。


 一見すると冴えない冒険者風の格好をしているが、その隙の無さからかなりの手練であると感じる。


 その中で、先ほど刃を弾かれた男が僕を睨みつける。


「こんな小僧が降って来たかと思えば、オレの攻撃を防ぐとは……」

「攻撃を弾いたのは単なる魔術障壁です。不意打ちに備えるのは当然でしょ?」

「ハァ?なんだそれ?テメエ、いったい何モンだ?」

「知らない?昨日、ギルドで大暴れしたんだけどな……。まぁ、ずっと大森林にいたなら仕方ないか……」

「何を言ってやがる?」

「こっちの話です。んで、これからどうするつもりです?素直に洗いざらい話すなら、半殺し程度で赦してあげますよ?」

「ざけんな!」


 ちょっと煽っただけで、男が僕に飛びかかって来る。


 同時に周りにいた5人も、僕に向けて殺到する。


「危ない!」


 ランドさんが、僕に危険を知らせる。

 大丈夫、安心してて下さい。



「【嗢鉢羅(うばら)】」


 僕が魔術を展開する。

 八寒地獄の第六獄。

 これはあらゆる形の氷を造成する魔術だ。

 形も大きさも自由自在。

 氷の城から氷の彫像まで、何でも僕のイメージに沿って創り上げることが可能だ。


 そして今回、僕がイメージしたのは棺。


 西洋風の6つの氷の棺が、男たちを氷漬けにしてその場に転がる。


 全身を氷の中に閉じ込められた男たちの表情は、勝利を確信したままだ。


 命の価値が低く、人権すらあやしいこの世界で、今さら人の命は地球より重いなどと言うつもりはない。


 やるべきときにやらなければ、大事な人に累を及ぼすことは身を持って体験している。

 だからこそ、僕は確実に男たちを始末した。

 そして……。 


「そこで隠れてる人、逃げられるなんて思わないでね」


 僕が隠れている残りのひとりに声をかけると、年輩の男が両手を上げて草むらから姿を現す。


「まいった。依頼人の情報でどうだ?」

「闇ギルドなんて、絶対に依頼人の名前は出さないって拒むかと思いましたよ」

「へっ、それは勝機があるときだけだ。こんなに実力の底が見えないヤツは初めてだ」 

「褒めていただいて光栄です。それじゃあ、とりあえず……」

「くっ!」  


 僕は【麻痺(オピアム)】の魔術を、不意打ち気味に展開する。

 おっ、いきなりなのに悲鳴を上げないなんてなかなかの自制心だ。

 もしかすると、結構上の人間なのかな?


 男たちを無効化した僕は、改めてランドさんたちに向き直る。


「これで安心です」

「あっああ……ありがとうございます」 


 僕が安全を保証すると、ポカンと口を開けていたランドさんが我に返る。

 突然のことで状況把握もできないだろうから、僕はここに来た経緯を説明する。

 同時に【治癒(サナーレ)】の魔術を展開して、ランドさんの怪我を癒やすことにした。




「アルフレッド君、ホントにありがとう」

「アルフレッドさん、アナタは命の恩人です」


 そして僕は今、ここに来た理由を聞いたばかりのランドさんと、さっき意識を取り戻したリサさんに平伏されている。


「君がいなければ、僕らはきっと死んでいたはずだ。このお礼は一生をかけてでもするから、何でも言ってくれ」

「もう、あのまま死んでしまうと思っていたの。ホントに……ホントにありがとう……」 


 涙ながらにお礼を言われると、なんとなく居心地が悪い。

 僕が来なくても助かっていましたよ、多分。


 僕はそう思いつつ視線を森の奥に向けると、遠くに隠れていた人の気配が消える。


「余計なお世話だったかな?」


 少々、出しゃばってしまったかなと反省するところだ。

 まあ、誰も大きな怪我をしなかったと言うことで良しとしよう。


 付近に散乱した装備をかき集め、ランドさんたちは出発の準備を整える。


 僕も、氷の棺を中の人間ごと魔術で収納する。

 人は死ねばモノ扱いになるらしく、収納が可能なのだ。


 また、気絶させた男は【飛翔(ウォラーレ)】の魔術で宙に浮かせる。


 こうすることで、仮に男が目を覚ましても、地に足がついていないため逃げることができないのだ。


 さあ、アグニスの街に帰る準備は整った。


 ――!!


 そのとき、僕はあるものを目にする。


「それじゃ、行こうか」

「ええ」


 ランドさんが帰宅を促すとリサさんが応諾する。


「すみません、少し待って下さい」  


 だか、そこで僕が彼らを制止する。


 突然呼び止められたので、ランドさんたちはまだ何か危険があるのかと身構える。


「いや、ちょっとこの辺りで薬草を採取させて下さい」

「はあっ?」


 その言葉にランドさんたちが驚きの声を漏らす。

 その表情は、こんな大森林の中層にまでやってきて、何をしてるんだとでも言いたげだ。


 だってEランクだもん、しょうがないじゃないか。



 

 






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