第81話 予備選別(よびせんべつ)

 斧を振り上げているハイオークを見た途端、僕は無詠唱で【氷槍(ランケア・グラキエス)】を展開してそのアタマを吹き飛ばす。


 同じくらいのタイミングで、遠くに隠れている者の魔力が膨れ上がったが、敵意は無さそうなので無視をする。

 

 アタマを失ったハイオークは、振り上げた斧の重さにつられて仰向けに倒れる。

 鈍い音を立ててハイオークが倒れたことで、頭にタオルを載せた男性が顔を上げる。


 すると、僕と目が合った。


「……子ども?」 


 そりゃあそうだ。

 助けに来たかと思えば、こんな子どもなんだからな。

 だが僕は気にせずに男性に近づくと、名乗りつつ彼らの怪我の様子を確認する。


「冒険者のアルフレッドです。アリシアのご両親に間違いありませんか?」

「……あっ、ああ」

「彼女に頼まれて来ました。もう安心です。まずは怪我の様子を見ますね」

「なっ……」


 つい、前世の癖で、要救助者に安心するようにと告げてしまったが、こんな子どもに言われても安心しようがないよねと自嘲する。


 まずはトリアージを行う。


 トリアージとは、患者の重症度に基づいて、治療の優先度を選別することだ。

 現場に複数の患者がいる場合、この判断が人の生命を左右するので誤るわけには行かない。

 患者を「軽症」「中等症」「重症」「死亡」の4つのカテゴリーに分類していくと、アリシアの父親ことランドは「中等症」、母親のリサは「重症」と判断する。


「奥さんは何にやられましたか?」


 僕が訊ねると、ランドさんは状況がいまいち理解できないではいるものの、問いかけには答える。


「おっ、大毒蛙に……」

「大毒蛙か。とすれば神経毒だな」


 神経毒とは、動物の神経系に作用する毒で、口や手足の感覚が麻痺し、呼吸筋麻痺で死に至る。 


 前世であれば有効な治療法は存在していなかったが、この世界には不思議パワーである魔力による治療が可能だ。 


 早速、僕は【浄化(プルガ)】で奥さんの体内の毒を無効化する。

 すると先ほどまで、荒い息づかいだったリサさんの呼吸が落ち着く。

 念の為【治癒(サナーレ)】も展開しておくか。


 次はランドさんの番だと思ったところで、僕の背後から音もなく男が忍び寄る。


「あっ!」


 ランドさんが、忍び寄る男に気づいた時には、男の持つ刃が僕の首を切り裂―――かなかった。


「へっ?」


 乾いた音がして、男の刃が弾かれる。


 その光景に、ランドさんは気の抜けた声を漏らす。


 そもそも、この場に着いた時点で【探索(クアエレ)】の魔術を展開してるって。


 近くには7名が潜んでいる。

 殺気をビンビンと放っていることからも、コイツらは敵だなと判断できる。


 で、だいぶ遠くにひとり。


 こちらは無視していいな。


 ナイフが弾かれたことを信じられないのか、襲いかかって来た目の前の男は、目玉が飛び出すほど見開いて震えている。


「いろいろ言いたいことがありますが、まずはお前たち、ここから逃げられると思うなよ」


 僕はそう告げると不敵に笑うのであった。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


怪我人の選別と、敵味方の選別でした。


モチベーションに繋がりますので、★での評価をお願いします。

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