第80話 進取果敢(しんしゅかかん)

 シュレーダー辺境伯の嫡男として生を受けた僕は、これまでに何度も暗殺の憂き目に遭ってきた。


 食事に毒が入っていることはよくあることで、時には贈り物の中に爆発物が仕掛けられていたことがあった。  


 記憶を取り戻して、魔術を自由に使えるようになってからは、【浄化(プルガ)】の魔術を食事ごとに無詠唱で展開しているし、贈り物には【探索(クアエ)】の魔術で危険物か否かを判断している。  


 だがある時、僕の魔術をくぐり抜けて贈り物が爆発したことがあった。


 誕生日の贈り物として届いた花瓶の底に金属の粉末が仕掛けられていたのだ。


 それに気づかなかったせいで、花瓶に水を入れた途端に爆発。


 ブランが怪我を負ったのだ。


 爆発の原因は、前世でいうところの『アルミニウム粉末の爆発』だ。

 この世界にもアルミニウム粉末のように、酸化しやすく燃焼熱が発生しやすい物質があったらしい。

 アルミニウム粉末と言えば、水やアルコールに反応して爆発することで有名だ。

 金属粉の工場で火災があったが、工場内にアルミニウム粉末があるために、放水による消火が出来ず、鎮火までに数日もかかったという経験をしていたはずなのに。


 こちらの世界では、科学が発展していないと高をくくっていたために、まさか意図して金属粉爆発を計画できる者がいるとは思っていなかったのだ。


 よくよく考えれば、こちらの世界では科学がない代わりに錬金術があったと、自分の迂闊さを呪ったものだ。


 幸いにも僕が治癒の魔術も使えたので、ブランのキレイな肌にキズ一つ残ることは無かったのだが、彼女に痛い思いをさせたことが許せなかった。


 そこで僕は、周囲に散乱している花瓶の破片に魔術をかけたのだ。

 イメージは、花瓶に込められた悪意を送り主に返すもの。

 僕は、呪い返しのつもりで魔術を展開したのだが、そうはならなかった。

 突然、花瓶の破片が宙に浮かび上がり、持ち主のもとに飛んで行ってしまったのだ。


 あれ?


 まあ、魔術に失敗はつきものだと思っていた、この時は。


 後日、とある貴族が天空から降り注いだ多くの陶器の破片で大ケガをしたと聞いたとき、これは物品を持ち主のもとに送り返す魔術になっていたのだと知ったのだ。

 

 それこそが、先ほど展開した【反射(レフレクス)】だ。

 なんか、物々しいので【返還(レスト)】でも良いかな?


 などと思いながら、空飛ぶタオルを追って数分、あっという間に大森林の中層まで辿り着いた。


 今回の僕は、街の外壁を飛び越えているので、不法な越境になるが、人命がかかっているのだ、そこは許して欲しい。


 後で何とかしよう。


 タオルが高度を落としたので、僕も【飛翔(ウォラーレ)】の魔術を解いて地面に降り立つ。


 すると、女性を抱えた栗色の髪の男性が、ハイオークに襲われている姿が僕の目に入るのだった。


 

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